ここでも何度か書いているように、私の経済の知識は中学生レベルもおぼつかない。その私もこのところの急激な円安には首を傾げないわけにはいかない。

 円が安くなるということは国の価値が落ちていくことと同義語ではないのか。そんな政策を取り続ける安倍首相や黒田日銀総裁への批判の声が、メディアを中心に大きくならないことが不思議でならない。

 たしかに日銀がジャブジャブお金をつぎ込んでいるため株価は1万6000円前後まで上がったが、円安は予想以上に速いスピードで110円に迫る勢いである。

 『週刊ポスト』(10/3号、以下『ポスト』)によれば、それなのに安倍・黒田コンビはさらなる円安へ誘導するため「口先介入」を繰り返しているというのだ。

 9月4日に黒田日銀総裁は「円安が日本経済にとって好ましくないとは思わない」と発言し、11日に安倍首相と会談した後にも黒田総裁は、2%の物価目標達成が困難になれば「躊躇なく追加の金融緩和を行なう」と話している。

 その“甲斐”あって株価は少し上がったが、官邸筋は消費税を10%に引き上げるには1万7000円を超える必要があると言っているそうである。

 しかし急激な円安によって国民の生活はどんどん苦しくなってきている。日本総合研究所調査部主席研究員の藻谷浩介氏は「安倍政権下の2年弱で、円相場はドルに対して2割強下落した。つまり輸入品価格が20数%上昇したことを意味する」と指摘している。

 電気代をはじめ食料品から衣料品まで値上げラッシュである。したがって実質賃金は1年以上にわたって下がり続けているのだ。これほどの賃金減が続いたのはリーマン・ショック前後の19か月連続以来だそうである。

 賃金減、生活コスト増で国民の生活水準は25年前に戻ってしまった

 おかげでドル建てGDPで2010年に中国に逆転されたが、安倍政権下ではとうとう中国の5割以下に縮んでしまったという。つまり「日本は中国の半分以下の経済規模しかない国」に成り下がってしまったのである。

 『ポスト』は、こんな国は世界から相手にされなくなっていくだろうと嘆息している。

 『週刊現代』(10/4号)の座談会で経営コンサルタントの鈴木貴博氏が大手スーパーのイオンの業績をこう言っている。

 「直近の3-5月期決算(決算)で、純利益が前年同期比で9割も減りましたね」

 日本の場合、食卓で輸入食品の占める割合は7割になるというから、円安の影響は計り知れない。

 経済アナリストの中原圭介氏もこう切り捨てる。

 「アベノミクスというのは円安で輸出が伸びれば設備投資が増えて、ひいてはわれわれの所得が上がるということを喧伝していましたが、これはデタラメだということです」

 鈴木氏は霞ヶ関の官僚たちはこんな悪巧みを考えているのではないかと言う。

 「そうしたことは頭のいい財務官僚などはとっくにわかっていると思うのです。それなのに、円安に誘導しようとするのはなぜかと考えると、彼らは1ドル=200円くらいまで持っていきながら、物価を年率3~5%と上げていき、最終的に物価を倍くらいにしようとしているのではないでしょうか。そうなれば、日本の借金の価値が半分になるわけですから」

 こんな恐ろしいシナリオが実現したら貧乏人は死ねといっているのも同じである。

 先日『日本経済が何をやってもダメな理由』(日本経済新聞出版)、『日本経済の呪縛』(東洋経済新報社)を書いたニッセイ基礎研究所の櫨(はじ)浩一氏とビジネス情報誌『エルネオス』で対談した。櫨氏もこの円安は想定外だと言っている。少し引用してみよう。

 「櫨 問題は円安です。私はせいぜい90円~90円台半ばぐらいまでいけばいいかなと思っていたのが、100円を軽く超えて105円(9月29日現在109円)にまでなりました。でも、これだけ円安になったにも関わらず輸出は伸びていません。アベノミクスで金融緩和すれば円安になって、そのプラス効果があると主張していた人たちにとっても、やや批判的だった私にとっても誤算です。こんなに効かないとは思わなかった。それは誰もが共有している驚きだと思うんです。(中略)

 日本企業っていいながらグローバル企業、多国籍企業なわけです。大きなメーカーになると従業員の過半数が海外の人たちですから、少し円安になったからといって海外の工場を畳んで日本に戻っては来ません。予測が甘かった。

 2007年頃も1ドル120円ぐらいになってますけれど、あのときに比べても明らかに効果がない」

 『週刊新潮』(10/2号)はこの円安を「劇症円安」と名付けて、資産防衛をせよと言っている。

 急激な円安の背景にはアメリカ経済の好調があり、さらに金利政策を話し合うFOMC(米連邦公開市場委員会)が10月に量的緩和策を終わらせると正式発表したから、来年からは利上げになるそうである。すると2017年に向けて円が120円になる可能性まであると見るエコノミストがいる。

 そうなれば物価上昇に歯止めがきかなくなる。手持ちの資金はどんどん目減りするから、資産防衛を考えないとエラいことになるというのだ。

 まずは資産の半分は外貨預金にしておく。そうすれば円安でもそっちで防衛できる。米ドルがポピュラーだが、ユーロ、ポンドでもいい。もうひとつオーストラリアドルが値上がりするとみる経済ジャーナリストもいる。

 東南アジアの国を対象にしたドル建てファンドも考えてみるべきだという。

 しかしここまでは初歩的な資産防衛術で、上級編は「海外不動産投資」だそうだ。それも現物不動産投資なら、賃貸にして家賃を取ってもいいし、値上がりも見込める。

 アリゾナ州やテキサス州ならまだ安いから、いい物件を選んで賃貸に回すと10%弱の利回りが期待できるかもしれないそうだ。その際の注意点は、必ず自分で見に行くこと。

 この時代、「何もしないのが最大のリスク」だそうだ。そういわれても競馬で1万円を10万にする夢しか描けない「老後貧乏」の私には、まったく縁遠い話でしかないのだが。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3

 離婚と結婚は誰にとっても人生の中で特別な意味を持つが、今週は人生いろいろある人間たちの悲喜こもごもを3本選んでみた。

第1位 「涙撮! 番長・清原和博離婚発表前日 ベッピンの嫁・息子と『別れの現場』」(『フライデー』10/10号)
第2位 「『宇津井健』未亡人と長男が揉める相続」(『週刊新潮』10/2号)
第3位 「銀座に高級クラブ開店で伝説の芸妓『佳つ乃』は一旗揚げるか?」(『週刊新潮』10/2号)

 第3位。佳つ乃という名前を久々に見た。だいぶ昔になる。たしかダービーの日だったと記憶している。作家の伊集院静氏が当時付き合っていた祇園の名妓・佳つ乃を競馬場の貴賓室に連れてきたことがある。
 すぐ近くで見た着物姿の彼女は大輪の花が咲いたような美しさだった。不思議に伊集院氏への嫉妬の感情は湧かなかった。自分とは縁遠い世界の人間という感じがしたからだろう。
 その後ときどき名前を見かけたが、ここしばらくは聞くことがなかった。伊集院のほかにも郷ひろみや高橋克典などと浮き名を流した佳つ乃も御年50歳。
 その彼女が銀座に高級クラブを開くというのである。祇園ではクラブをオープンしたり和風ラウンジを開いたりと、順調だったようだが、一昨年に芸妓を引退して、最初のクラブも閉店したそうだ。
 新しい店は銀座8丁目にあり、銀座でも1、2を争う賃料が高いところだそうだ。月100数十万になるというが、佳つ乃は夏前から家賃を払い、クラブへの挨拶回りをしているそうだ。
 このクラブは祇園と同じように「一見さんお断り」。移転するのは元々東京からの財界人や芸能人が多かったからで、東京に出てくれば客との繋がりは強くなるからだそうである。
 佳つ乃は『新潮』の取材に対してこうはんなりと答えている。

 「お稽古事に礼儀作法と、祇園町でご指導いただき学んできました経験を、東京で少しでも活かせられるようにと思っています」

 彼女見たさの客も行くだろうから当座の繁盛は見込めるとは思うが、東京は何かと口うるさいしメディアも京都のようにほっといてはくれない。それにいくらキレイでも女の盛りは過ぎつつある。意外に苦戦するかもしれないと思うのは、そんな高級な店に行けるわけがないこちとらの僻みかね。

第2位。『新潮』が報じている「宇津井健未亡人と長男」の相続を巡る争いは、人生の後始末の付け方を考えさせてくれる。
 名古屋の高級クラブ「なつめ」の名物ママ・宇津井文恵さん(旧姓加瀬・80)は、長い間同棲していた俳優・宇津井健(享年82)が亡くなる5時間前の死の床で入籍した。
 文恵さんは渋っていたが宇津井のたっての頼みだったため、互いに遺産相続放棄を約束して了解したという。
 だがやはり宇津井の死後、財産目当ての結婚ではないかと言われ出し、息子夫婦と揉めているというのである。
 宇津井のお別れ会の案内状にも彼女の名前が入ってなかったことなどもあって、彼女は、「私はもう、遺産を放棄するとは、絶対、言わない。これは女の意地なのよ」と言い出している。
 彼女が遺産などアテにしないという根拠のひとつは、クラブ経営でためたカネで名古屋に2棟のビルを所有しているからで、「私の方が、財産があると思います」と語っている。
 だが『新潮』が確認したところ、ビルはすでに売却されており、彼女には更地の160平方メートルの土地があるだけだそうだ。
 彼女の言い分もだいぶ怪しくなってくるのだが、所属事務所や宇津井健の息子の反論を総合するとだいたいこうなる。
 宇津井健との同棲は死ぬ最後の半年だけ。婚姻届を出すための戸籍謄本や住民票をスタッフが宇津井の病床へ届けると、すでに酸素マスクを付けて虫の息だったという。息子は今後できるだけ本人と直接会い、話し合いを進めていくと答えている。
 問題の宇津井の財産は土地と建物で、大手不動産会社によると実勢相場で2億から2億5000万円近くだという。財産を息子と文恵さんで相続するとなると、それなりの金額を息子側が彼女に支払わなくてはならない。
 宇津井と40年来の付き合いがあった橋田壽賀子さんはこう言う。

 「お別れ会は、彼女と宇津井さんの結婚報告会じゃないんだから。それにしても本当に、“渡る世間は鬼ばかり”ねぇ。ただ、この場合の鬼は、加瀬さんでも息子さんでもなく、お金そのもの。そして厳しいようだけど、一番悪いのは、お金を遺して、こういう亡くなり方をされた宇津井さんだと思います」

 私のように遺すものとてほとんどない身でも、死んだ後に災いを残さないために「遺言」は書いておいたほうがいいのだろう。読後、そう考えた。

 第1位。よくやったで~『フライデー』! 『フライデー』といえば番長・清原和博(47)との付き合いは長い。あの「ワイはの~」という番長言葉は『フライデー』の編集者が考えついたもので、相当誇張した物言いになってはいるが、清原のキャラクターとぴったり合っていたし、本人も気に入っていたという。
 そうでなくては講談社から本まで出すことを認めなかっただろう。その清原だが、少し前に薬物疑惑を報じられたが、今回は自ら報道陣へFAXを送り、カミさんと離婚したことを発表した。
 女癖の悪さと薬物ときては、どんなに惚れている亭主であっても愛想尽かしするのは当然であろう。この亜希夫人(45)はメチャメチャきれいなので、清原の哀れさが、いや増すのである。
 2人には12歳と9歳の息子がいるが、カミさんが一緒に連れて行ってしまったそうだ。
 離婚発表の前日、レインボーブリッジに近い野球場にいた亜希夫人は、試合が終わった次男と一緒に近くの路上に止めてあった愛車ポルシェ・カイエンの中で弁当を食べようとしていたらしい。
 ポルシェで弁当? 何と優雅なことか。そこへ黒いワンボックスカーが走ってきて反対側に止まる。
 息子がポルシェから飛び出して道を横切り、クルマから出てきた清原に「パパ~ッ!」と飛びつく。
 清原は抱き上げて「(おそらく)涙を浮かべながら」(『フライデー』)高い高いをしていた。泣けるね~、いい写真だ。その間わずか5分。息子は母親の元へと走り去ってしまった。
 その後、長男の試合を亜希夫人も見に行き、清原もそこにいたのだが「二人の距離は20m。目を合わせることすらなかった」(同)
 離婚発表で親権も奪われたことを明かした清原はこう語った。

 「いまは自由に子供に会えへんのが一番ツライ。毎日、子供の写真を眺めてはひとりで泣いてんねん……」

 落語の「子別れ」を地でいくような噺である。落語では心を入れ替えた父親がカミさんに詫びを入れて元の鞘に戻るのだが、亜希夫人ほどの美人で生活力のある魅力的な女性を周りが放っておくはずはない。
 カネも底をついたといわれる清原の後半生は、栄光とは無縁の厳しいものになるのかもしれない。西武で大活躍した頃を知っている巨人ファンとしては寂しい限りだ。

(編集部註)『エルネオス』の引用部分、漢数字を算用数字に変更しています。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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