「雇用改革」に力を入れる安倍政権だが、次のターゲットは「年功序列賃金の見直し」らしい。2014年9月29日、政府と経済界、労働界の代表でつくる「政労使会議」で、安倍晋三首相がこう発言したからだ。

 「年功序列の賃金体系を見直して、労働生産性に見合った賃金体系に移行することが大切である」

 年功序列賃金とは、企業などで「給料を若い時は抑えて、その後、勤続年数や年齢とともに上げていく賃金制度」のことをいう。「新卒者の一括採用」「終身雇用制」と合わせて「日本型雇用」システムの基軸とされてきた。この見直しを経済界、労働界のトップの前で安倍首相自らが提案したわけだ。

 背景にあるのは、グローバル化が進み、国際競争に打ち勝つためには日本固有の賃金体系を見直し、成果主義に基づく賃金システムに移行せざるをえない、という理屈だ。

 日立製作所は国内の管理職(約1万1千人)について、年功序列をやめて成果主義にすると発表した(同年9月26日)。同社は「役割や評価と報酬との関係を明確化することで、経験者、女性、外国人などを含む多様な人材の意欲を高める」と説明する。ソニーやパナソニックも年功序列賃金の廃止を検討中と報道されている。

 ただ、日立やソニーといったグローバル企業はそれでいいが、そうではない多くの国内企業の労働者の間には、「年功序列賃金の廃止は、賃下げの方便にされないか」との不信感が広がるだろう。

 思わぬ影響も懸念される。

 北陸地方に住む中学生と小学生の男の子がいるサラリーマンは「うちの会社で年功序列賃金が廃止されたら、息子を大学に進学させられない」と頭を抱える。家庭で教育費が一番かかるのは、大学教育だが、サラリーマンの場合、それを支えているのが年功序列賃金だという事情がある。50代で賃金のピークが来るが、その時期が子どもの大学進学とだいたい重なるからだ。

 政労使会議は毎月1回程度会議を開き、12月に政府、労働界、経済界の「共通認識」をまとめる予定というが、民間企業の雇用の在り方まで政府が指図するのはいかがなものか。「企業の論理」が幅をきかしている。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


板津久作(いたづ・きゅうさく)
月曜日「マンデー政経塾」担当。政治ジャーナリスト。永田町取材歴は20年。ただいま、糖質制限ダイエットに挑戦中。
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