秋は新豆の季節である。小豆は乾物として一年中売られているけれど、旬のこの時期は、いつもよりふっくらしているようでおいしく感じられる。「大納言」は、大粒の小豆をふっくらと炊きあげ、粒餡状のゆで小豆を半割にした青竹の古式ゆかしい器に詰めた、亀末廣(かめすえひろ、中京区)の和菓子である。京都府中部の亀岡市以北の丹波地方で栽培される質の良い小豆が手に入る、晩秋から翌春までの間だけ販売されている。味の決め手となる小豆と和三盆糖を厳選し、家伝の炊き方にあくまでこだわるという、簡素にして贅沢な姿勢が甘党にはたまらない魅力である。

 さて、大納言という名称は、そもそも小豆のよしあしの程度を表す基準である。日本の小豆は、豆の大きさと皮の破れにくさで品質を決める、独特の評価基準のある作物で、大粒のものから大納言、中納言、少納言の3段階に分けられている。では、なぜ大納言という、公卿の官職の名称が小豆の基準を表すようになったのか。その理由には諸説があるが、もっとも有力な説は、小豆を炊いたときに皮が破れてしまうことを「腹切れ」と表現することに由来するというものだ。これは武家のような切腹という慣習がなかった大納言(公卿)になぞらえて、「腹切れ」しにくい優れた品質のことを表しているといわれている。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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