衆議院議員。40歳。大学を卒業後、TBSに入社し『はなまるマーケット』のアシスタントディレクターなどを務めていた。

 父・小渕恵三が総理大臣に就任したのを機に私設秘書になるが、2000年に小渕総理が脳梗塞で倒れ死去したため、同年6月の衆議院議員選挙に出馬。父親のジバン・カンバン・カバン(カネ)をバックに16万票超の大量得票で初当選する。

 2004年にTBSの同期の男性と結婚。二人の男の子の母親でもある。議員を務める傍ら早稲田大学大学院公共経営研究科専門職学位課程に入学し、少子化について学ぶ。

 2008年、麻生内閣で男女共同参画・少子化対策の内閣府特命担当大臣に任命され、戦後最年少の入閣を果たす。

 今年の9月3日に発足した第二次安倍改造内閣では、幹事長かという下馬評が流れたが、経済産業大臣に就任した。

 永田町の口さがない人々の噂によると、反対の多い原発再稼働をすすめたい安倍首相が、国民的人気のある小渕を起用して押し切りたいという思惑があったといわれている。

 ここまでは順風満帆に見えた小渕だったが、10月16日に発売された『週刊新潮』(10/23号、以下『新潮』)が「『小渕優子』経産相のデタラメすぎる『政治資金』」と報じて暗転、辞任に追い込まれてしまう。

 『新潮』の記事については後で触れることとして、優子を語るうえで欠かせないのが父・恵三元総理である。恵三は群馬県吾妻(あがつま)郡中之条町で製糸業を営む光平の次男として生まれる。光平は後に衆議院議員。

 父親がやはり脳梗塞で亡くなったため、早稲田大学在学中は政治家になるためのスキルを学ぶために「雄弁会」など多くのサークルに所属し、活動した。

 大学院在学中の1963年11月の衆議院選挙に自民党公認で出馬し初当選する。26歳だった。

 この選挙区には福田赳夫や中曽根康弘という大物議員がおり「上州戦争」とまでいわれる激戦区だったが、恵三はかろうじて議席を確保し続ける。彼は自分のことを「ビルの谷間のラーメン屋」と自嘲することがたびたびあった。

 だが自民党の中では常に保守本流を歩き、田中角栄や竹下登に可愛がられ、1987年11月に発足した竹下内閣では官房長官に就任する。恵三が注目を集めるのはこのときからで、昭和天皇が崩御し元号が変わったとき、「新しい元号は『平成』であります」と額を掲げ、恵三の知名度は大いに上がった。

 東京佐川急便事件で竹下派(経世会)会長・金丸信が議員辞職に追い込まれ、小沢一郎派と対立するがかろうじて派閥の領袖に恵三が座る。

 1998年に参議院選挙敗北の責任を取って橋本龍太郎が辞任すると、後継首相に就任する。だが、『ニューヨーク・タイムズ』に「冷めたピザ」と書かれるなど、当初の評価は高くなかった。

 だが、誰彼お構いなしに電話をかけまくる「ブッチフォン」や優しそうな人柄が愛され、ITバブルもあり次第に支持率も上がっていった。

 だがそうした外面とは相反して、周辺事態法、国旗・国歌法、通信傍受法(いわゆる盗聴法)、住民コード付加法(国民総背番号制)などを次々に成立させている。労働者派遣法を改正し派遣容認へと大きく転換させたのも彼の時である。総理在任中に62歳で亡くなった。

 小渕優子は父親の人がよさそうで優しい「見かけ」を味方につけ、“将来の総理候補”といわれるまでにのし上がってきたのである。だがそれは彼女の「実力」からではなかったことが今回明らかになってしまった。

 『新潮』によれば、毎年のように日本橋浜町にある「明治座」に「小渕優子後援会女性部大会」のご一行様が次々にバスを連ねて到着するという。その数ざっと1000人超。

 明治座側はチケット代は3分の2ほど値下げして出していると話している。

 S席は通常1万2000円だから1枚8000円ほどになる勘定だが、たとえば2010年分の政治資金報告書で、小渕後援会が群馬県選挙管理委員会に届けたのは「観劇会」として372万8000円だけ。これでは1人あたりの切符代は3700円程度にしかならない。

 「一方で支出を見ると、組織活動費の『大会費』扱いで、844万円余りが『入場料食事代』として明治座に支払われたことになっている。その結果、実に470万円もの差額が生じているのだ」(『新潮』)

 小渕には政党支部として「自民党群馬県ふるさと振興支部」という団体があり、そこからも2010年10月1日の日付で約844万円が支払われている。『新潮』が領収書のコピーを取り寄せたところ2枚の領収書は連番だから、合計1688万円の支出を二等分して届けたとわかる。

 これにより収入との差額は1316万円に広がってしまうことになるのだ。地元の支援者の票がほしいために送り迎えして観劇させ、飲み食いさせて手土産のひとつも持たせることは、昔なら地方のどこでも見られた光景だった。

 だがいまは政治資金の使い方に厳しく網がかけられ、政党助成金制度までできているのである。これについて『新潮』で、神戸学院大学法科大学院の上脇博之教授がこう話す。

 「1万~2万円なら会計ミスで通るかもしれませんが、これだけ巨額では見逃すわけにはいきません。報告書の不記載ないし虚偽記載にあたり、それを行った者や、場合によっては団体の代表までも罰則を受ける可能性があります」

 それ以外にも『新潮』によれば、実姉のやっているブティックに対して、10~12年にかけて小渕の各団体から330万円あまりの支払いがなされている。そのほかにも地元の農業協同組合や地元農家から大量の下仁田(しもにた)ネギやこんにゃくを購入しているが、これらも「組織活動費」や「交際費」に計上されているそうである。

 先の上脇教授は「小渕大臣の使い方は、どうも政治資金を私物化しているような印象を受けるのです」と言っているが、これでは先ごろ話題になった「大泣き県議」のやっていたこととあまり違いはないのではないか。

 とまあ、小渕元首相の忘れ形見のお嬢ちゃんとはいえ、卑しくも現役の議員、それも経産相という重職についている大臣のやることではない。

 『週刊現代』(11/1号)でジャーナリストの松田賢弥氏がまだほかにもあると語っている。

 「小渕氏の地元の群馬県吾妻郡中之条町では、彼女の母親の千鶴子さんが'01年10月に約132坪の土地を取得し、2階建てのビルを建てています。この土地はもともと、千鶴子さんの親族が経営していた木材工場の一部。問題は、このビルに事務所を構える『小渕優子後援会』が、不可解な家賃を計上していることです。
 直近の過去3年間の収支報告書によれば、このビルは千鶴子さんが所有するものであるにもかかわらず、小渕優子後援会が毎月6万3000円の家賃を支払っています。1年間で75万6000円、'10~'12年の3年間では総額226万8000円。しかも、家賃の受取人は母親ではなく、小渕本人になっているのです」

 これでは小渕の後援会が母親のビルを通して小渕本人に献金をしていたと疑われても仕方ないというのである。

 蝶よ花よと大事に育てられてきた深窓育ちのお嬢ちゃまが初めて遭遇するスキャンダルだったが、あえなく辞任ということになってしまった。

 小渕は辞任記者会見で「長年、私が子どものころからずっと一緒に過ごしてきた、信頼するスタッフに管理をお願いしてきた。その監督責任が十分ではなかった」(asahi.com10月20日より)と悔しさをこらえて話した。

 父親の時代からいた古株のスタッフが、若くて何も知らないお嬢ちゃんに知らせずに、これまで通りにやってきたということだろう。

 何か聞かれても「私たちにお任せを」というだけで、報告義務を果たしていなかった。

 親の地盤を引き継いだ二世、三世議員にはよくあることだが、何も知らされなかった彼女は悔しかったのだろう

 だが政治家としては甘いというしかない。彼女は原発再稼働に疑問を呈し、親中国派議員としても存在感を高めつつあるのだから、一兵卒に戻って危険な方向へと舵を切っている安倍首相に異を唱える存在になってほしいと思う。

 雑巾がけに精を出し、子育てを終えてからでも総理の座を狙うのは十分間に合うのだから。

 松島みどり法相も「うちわ問題」で辞任に追い込まれた。第一次安倍内閣が潰れたのも閣僚の不祥事が次々に表面化したためであったが、同じような道を辿って第二次も崩壊していく予感がする。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は『週刊新潮』発の小渕優子スキャンダルが新聞、テレビを巻き込んで大きな話題になったため、ほかに目立った記事は残念ながら見当たらない。そんな中でもキラッと光った3本を選んでみた。

第1位 「オックスフォード大学が認定 あと10年で『消える職業』『なくなる仕事』」(『週刊現代』11/1号)
第2位 「ノーベル物理学賞中村修二『名誉もカネも』」(『週刊文春』10/23号)
第3位 「竹野内豊と朝ドラヒロイン超超厳戒『深い愛の現場』初中継!」(『フライデー』10/31号)

 第3位。10月17日の各スポーツ紙には『フライデー』の張り込みネタが大きく取り上げられていた。永遠のモテ男といわれるそうだが、竹野内豊(43)が17歳年下の女優のマンションに通っているというのだ。
 このスクープ、袋とじである。「超超厳戒『深い愛の現場』初中継!」とタイトルを打ち、竹野内がマスク姿で食料の入ったビニール袋を持ってこちらをにらんでいる。「この中に1年分の恋物語入ってます!」と書いてあるが、この引き文句、なかなかいい。
 このところ浮いた噂がなかったという竹野内だが、愛車の助手席に彼女を乗せているそうだから、本気度がうかがえる。
 彼女は女優の倉科(くらしな)カナ(26)で、06年の「ミスマガジン」グランプリ。NHK朝ドラの「ウェルかめ」でブレイクしたそうだ。
 彼女は妹と同居しているそうだが、竹野内はそんなことはお構いなしに逢瀬を重ねているという。こういう場合、逃げ口上としてよく使うのが「妹と3人だったから」だが、事務所も交際を認めているようだから、結婚の可能性は高そうだ。

 第2位。ノーベル物理学賞を受賞した3人のうち、中村修二氏は歯に衣着せぬ発言で物議を醸す異端の研究者として知られている。
 徳島県の蛍光材料メーカー・日亜化学工業の技術者として、88年から青色LEDの研究に着手し93年に量産する独自の技術を確立したが、中村氏は研究の対価として日亜化学工業相手に200億円請求訴訟を起こし、05年に同社が約8億4000万円を支払うことで和解した。
 『文春』によれば、中村氏はアメリカに渡りサンタバーバラの地に2億6千万といわれる大豪邸を建てて住んでいるそうである。だが前妻とは離婚し、数年前に別の女性と再婚しているという。その中村氏がこう語っている。

 「新聞、テレビは、『青色LEDは赤崎、天野両氏が発明し、中村氏は量産化する技術を確立した』と紹介する。こんな認識は日本だけです。世界では『青色LEDは中村が発明した』というのは、共通認識です」

 やはり相当な自信家であることは間違いない。

 ところで大発明には違いないが、青色LEDは「青色LEDが発するブルーライトは目に悪影響を及ぼすことが指摘されてきました」(岐阜薬科大学薬効解析学研究室の原英彰教授)という。それに「体の老化を進める活性酸素が、緑の光を当てた細胞で一・五倍に増加したほか、白が二倍、青が三倍に増えました」(原教授)とマイナスの面もあるようだ。
 LEDは便利で消費電力も少ないが、目に対する影響はまだ研究の余地があるのかもしれない。

 今週の第1位は『現代』の記事。コンピューター技術はすさまじい勢いで進んでいるようだが、英国の名門大学・オックスフォードでAI(人工知能)などの研究を行なっているマイケル・A・オズボーン准教授が、同僚研究員とともに著した『雇用の未来──コンピューター化によって仕事は失われるのか』という論文が世界中で話題になっているという。
 この論文の凄いところは、702の職種すべてについて、コンピューターに取って代わられる確率を子細に試算したところにあるそうだ。
 件のオズボーン氏はこう語る。

 「各仕事に必要なスキルはどのようなもので、そのスキルを機械がどれだけ自動化できるのかを、テクノロジーの発展のトレンドを考慮して詳細に調べ上げました。具体的には、コンピューター化の障壁となりうる9つの仕事特性を抽出して──たとえば、手先の器用さ、芸術的な能力、交渉力、説得力など──、702の職種を評価したのです。(中略)
 経済の歴史を見ると、技術的な進歩といえば、たいていは身体を使う手作業を機械化することを表していました。しかし、21世紀の技術的な進歩は、これまで人間の領域とされてきた認知能力を必要とする幅広い仕事を機械化することを意味するのです」

 オズボーン氏は、今後、より複雑な作業まで機械化できるようになるという。
 コンピューターが発達し、ロボットが人間に代わって自動車の運転や介護の手助けをしてくれるようになるとは思うが、彼が言うにはもっと複雑で人間でさえも手に負えないことまでロボットに取って代わるというのである。
 これまでの産業革命は新たな仕事を生み出してくれた。だが、IT化やコンピューター化は、仕事を人間から奪って省力化する方向へと進んでいくのだ。
 オズボーン氏は、近い将来人間の行なう仕事の半分は機械に奪われると言っている。
 たしかに「銀行の融資担当者」「金融機関のクレジットアナリスト」「訪問販売員、路上新聞売り、露天商人」までロボットに取って代わられるというのだから、人間がやることなどほとんどなくなるのかもしれない。
 氏は、その空いた時間を使って芸術やクリエイティブな仕事をするようにすればいいというが、そうしたことに向いていない人間はどうしたらいいのだろう。
 逆に、知的な作業はロボットに、単純作業は人間を使って安く働かせる。そんな時代が来るような気がするのだが。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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