妊娠・出産を機に、勤務先を解雇されたり、役職から下ろされたりするマタニティーハラスメント(マタハラ)。昨年8月の本コラムでも取り上げたが、今年10月23日、そのマタハラに関して「妊娠による降格などの不利益な扱いは原則違法」という最高裁の判断がはじめて示された。

 訴えを起こしていたのは、広島市の理学療法士の女性。1、2審判決によると、女性は2004年に管理職の副主任に昇格したが、2008年に第2子を妊娠し、負担軽減の配置転換を希望したところ、異動先で管理職をはずされたという。これを不服として、女性は2010年に勤務先だった病院の運営母体に対し、約170万円の損害賠償請求などを求めて提訴。

 今回の裁判で争点となったのは、妊娠や出産を理由に不利益な扱いをすることを禁じた男女雇用機会均等法第9条3項の解釈だ。

 2012年2月の広島地裁の1審判決では、「女性の同意を得たうえで、病院側が裁量権の範囲内で行なった措置」として請求を棄却。同年7月の2審、広島高裁でも、1審判決が支持された。

 しかし、最高裁第1小法定(桜井龍子裁判長)では、「負担軽減のための配置転換を契機とする降格措置は、本人の自由意思に基づいて承諾しているか、業務上の必要性など特段の事情がある場合以外は、原則として無効」と判断。「女性が自由意思に基づき降格を承諾したといえる合理的な理由がない」と指摘し、2審判決を破棄。広島高裁に審理が差し戻されたが、これは5人の裁判官による全員一致の意見だった。

 今回の判決によって、男女雇用機会均等法9条3項違反についての一定の基準が示された。原告の女性も、判決を受けて「安心して子を宿し、子を産み、子を育てながら、働きがいのある仕事を続けられるようになるため、今日の判決が役立ってほしい」とコメントを出しており、今後、マタハラが撲滅されることを期待したい。

 そもそも、男女雇用機会均等法では、妊娠・出産を理由にした不当な扱いは禁止している。しかし、罰則規定がないため、これまでは「妊娠を報告したら、会社から退職勧奨を受けた」「派遣先から契約更新しないといわれた」「妊娠中・産休明けに残業や重労働を強いられた」などのケースが報告されてきた。とくに、就業規則のあいまいな中小零細企業、立場の弱い派遣で働く女性労働者たちが泣き寝入りしているケースが多い。2013年度は3371件のマタハラ相談が厚生労働省に寄せられた。

 今回の最高裁判決は、妊娠・出産を理由に不当な扱いをする企業全体へのダメ出しとも受け取れる。労働者の働きによって利益を得ている企業には、規模の大小を問わずに、労働者の権利を守る義務もあるはずだ。

 いまだ日本には、「法律を守っていたら、会社が潰れる」などと、平気で口にする経営者もいる。だが、今回の判決を契機に、そうした違法行為が一掃されることを願いたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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