『週刊現代』(12/6号、以下『現代』)が「全角度調査『収入』と『幸福度』の相関関係」という特集を組んでいる。のっけから申し訳ないがつまらない企画である。

 お笑い芸人の島田洋七氏は「(カネは)あの世に持って行けるわけでもない。火をつけたら燃える、ただの紙ですしね」、漫画家の黒鉄ヒロシ氏は「昔の日本人には、カネがなくても晴耕雨読で生きていけるという高い精神性がありました」、映画監督の井筒和幸氏は「カネというのは人心を左右させる、汚いものだ」、林家三平(故人)のカミさん・海老名香葉子(かよこ)氏は「この歳になってみると、おカネよりも情の貯蓄が大切ですね」と口々に言っている。

 だが、私に言わせればカネはないよりあったほうがいいに決まっている。カネがなくても幸せに暮らしていけるなどとほざくのは負け犬の遠吠えでしかない。

 FXトレードで資産10億円を築いたがサブプライム・ショックで転落して3億円の借財を負ってしまった人間が「喜びや苦しみを分かち合えるパートナーがいる今のほうが人間らしい生活」、売れっ子だったが人気がなくなり、いまは結婚式の司会などで食いつないでいるお笑い芸人が「猫がかわいい、なんて小さなことに幸せを感じます」と話しているが、本音では「もう一度カネを稼ぎたい」「売れっ子になりたい」と思っているのに違いないのだ。

 「02年にノーベル経済学賞を受賞した米プリンストン大学の心理学者、ダニエル・カーネマン教授が面白い研究をしています。それによると感情的幸福は年収7万5000ドル(約900万円)までは収入に比例して増えますが、それを超えると比例しなくなるんです」(慶應義塾大学前野隆司教授)

 一時はテレビ出演・講演で年収1億円を稼いだこともあるという宗教人類学者の植島啓司氏も「ある経済誌の調査では、米国の大富豪とタンザニアの遊牧民の幸福度はたいして違いませんでした」と語っている。これなどもGNPではなくブータン王国のようにGNH(国民総幸福量)で豊かさを測るべきだという、一見正しいようだけれど、では日本人の多くがブータンへ引っ越すかといえば、ほとんどいないのと同じように、机上の空論のようなものである。

 あのチャップリンでさえ映画『ライムライト』で「人生は生きるに値する。希望と勇気とサムマネーがあれば」と言っている。「おカネは大事だよ~」というCMを流し続けたサラ金の言っていることは正しいのだ。

 と、ここまで『現代』の記事に悪態をついてきたのには訳がある。ノンフィクション・ライターの本田靖春風に言えば私が「由緒正しい貧乏人の小倅」だったからである。

 「人びとは飢えていた。私の場合は、住む家がなく、納屋の暮らしから戦後の生活が始まった。着る物がなく、履く靴がなく、鞄がなく、教科書がなく、エンピツがなく、ノートもなかった」(本田靖春著『「戦後」─美空ひばりとその時代』より)

 これは敗戦直後の描写である。私はその年に生まれた。私の父親は、その頃まださほど大きくなかった読売新聞に勤めていたが給料は安かった。襖を隔てた向こう側で両親がカネの工面について話し合っているのを何度聞いたことだろう。

 カネに数々の恨みがあったはずだ。だが、周りもみな貧しく「桎梏から解放されて自由」(同著)な気持ちと、今日よりは明日が良くなるという“希望”があったと、子ども心にも感じていた。

 わが家にも三種の神器である冷蔵庫、洗濯機、テレビが入り、客が来ると寿司や鰻の店屋物を取れるぐらいに“豊か”にはなった。

 70年に社会人になり、石油ショックはあったが順調に給料は上がり、取材と称して銀座のクラブにも出入りできるようになった。日本中がバブルで浮かれ狂っていた。

 両親でさえ、新聞に出る「土地の公示価格」を見て「うちの土地がいくら上がった」と喜んでいたものだ。そしてバブルが破裂し株が暴落し、闇に消えた膨大な不良債権処理に税金が注ぎ込まれた。

 戦後初めて、今日より明日が悪くなる「負の連鎖」が始まったのだ。私のサラリーマン生活は、小過はいっぱいあったものの大過はなく無事定年を迎えて年金生活に入った。

 株も不動産投資もやらなかったが(競馬にはそうとう貢いで損をしたが)、蓄えは少なく、両親が遺してくれた築50年の家に暮らして江戸時代の歌舞伎役者・五代目市川團十郎の歌のように「たのしみは春の桜に秋の月 夫婦仲良く三度食う飯」という日々である。

 だが、こんな暮らしもどちらかが病気になれば吹き飛んでしまう。老後の資金を貯めてこなかった私が悪いのだが、老人性うつ病の一種だろう、ときどき気が滅入って仕方なくなるときがある。

 たしかにカネでは買えない幸福があることはわかる。ブランド品や三つ星のレストランでワインを飲みたいとも思わない。しかし、たまの外食、たまの観劇、たまの小旅行に出かけるにもまとまったカネがいる。孫はまだいないからいいが、いればたまには小遣いをやりたいと思うに違いない。

 だが今の年金制度を見れば、年寄りは早く死ねと言っているのも同然である。長生きは美徳ではなくなった。一部の人間を除いて、若者も年寄りも生きがたい世の中になったものだ。 

 川柳に、下の句に「それにつけてもカネの欲しさよ」とつける言葉遊びがある。「名もいらぬ 美女もいらぬと思えども それにつけてもカネの欲しさよ」。お粗末!

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は脈絡はないが、私がおもしろいと感じた記事を3本(芸能は3本一緒)選んでみた。選挙関連では見るべきものはない。これは有権者の関心の薄さとパラレルなのであろう。困ったものだ。

第1位 「専門家50人が徹底分析 日本経済1年後はこうなっている」(『週刊現代』12/13号)
第2位 「白鵬『天皇陛下に感謝』発言に隠された『モンゴル人親方』の決意」(『週刊ポスト』12/12号)
第3位 「共演者キラー『向井理』が『国仲涼子』に陥落してしまった理由」(『週刊新潮』12/4号)/「西島秀俊は不器用じゃない! 16歳下結婚相手は元“地下アイドル”」(『週刊文春』12/4号)/「ダルビッシュと交際 山本聖子父が絶賛『遺伝子的には最高!』」(『週刊文春』12/4号)

 向井理(おさむ)と西島秀俊、ダルビッシュ有(ゆう)は当代のモテ男だそうだ。その3人がそろって婚約や交際中だと公表したから、女性たちから悲鳴が上がったという。
 ゲゲゲとちゅらさんの結婚と『新潮』が書いている向井理(32)と国仲涼子(35)。12月下旬に入籍すると伝えられているそうだ。
 向井と国仲の交際が始まったのは2年前に遡るとスポーツ紙の芸能担当がこう語っている。

 「最初は向井の事務所は2人の結婚に反対していたと聞いています。“1年待て”と言われ、1年たったら“もう1年待て”と言われたようです。しかし、国仲はもう35歳。子供を産むなら早いに越したことはない、すでに2年待ったので、もういいだろうと結婚に踏み切ったのだと思います。国仲は3歳年上ですが、どちらかといえば引っ張っていってもらいたいタイプ。向井は気の強い性格ですが、前々から“結婚するなら、自分と違うタイプが良い”と言っていました。そういう意味で控えめな国仲と向井の相性は良かったのだと思いますね」

 お次は向井に次いで結婚したい男ナンバーツーの西島秀俊(43)。『文春』によれば11月19日の報道各社宛のファックスで結婚を報告したという。
 2人については『フライデー』が5月2日号で、渋谷区にある瀟洒なマンションで、西島が彼女と半同棲生活を送っていると報じた。3年間の交際が実を結んだのだ。
 『フライデー』が張り込みに成功した当時、彼女は某自動車メーカーのコンパニオンだった。
 だが彼女は、学生時代にはカメラ小僧の間でちょっと名の知られた地下アイドル的存在だったそうである。

 「女子大生イベントコンパニオンとして有名でしたが、素人カメラマンを集めた撮影会もやっていて、まるでアイドルみたいでした」(地下アイドル事情通→こんなのがいるんだね)

 「16歳下とはいえ、ハードボイルドなイメージの西島の妻としては少し軽薄なようにも」と『文春』は心配してるが、2人にはよけいなお節介であろう。

 ダルビッシュ有(28)も女性関係なら西島、向井にひけはとらない。これまでもプロゴルファーの古閑(こが)美保、明日花キララや横山美雪といったAV女優、フジテレビの加藤綾子アナとのデートなど、様々報じられている。
 だが今度のはちと違う。バツイチだが元レスリング世界王者の山本聖子(34)なのだ。
 ダルのツイッターに仲良く抱き合っている2人が写っている。
 山本のところはレスリング一家だ。父親の郁榮(いくえい)氏はミュンヘン五輪の代表選手、姉は美憂(みゆう)で兄はKIDである。聖子は4度の世界選手権制覇をしている。
 このレスリング一家にダルの血が入ればどんな凄い子どもが生まれるか。父・郁榮氏に、お孫さんを期待しているのでは? とインタビューをしている。

 「ははは、そんなの思ってないよ(笑)。ただ、イラン(ダルの父親はレスリングが国技のイラン人=筆者注)はアジア圏でも(レスリングが)一番強い。遺伝子的に見たら、(ダルは)もう最高ですよ。才能というのは遺伝がベースだから。遺伝的な良さがない人がいくら努力しても、ある程度のところまでしかいけない。世界で優勝するか二番手になるかの違いはそこです」

 何しろ聖子の全盛期は後輩の吉田沙保里(さおり)が歯がたたないほど強く、吉田との通算成績も5勝5敗の五分。吉田が119連勝する前に最後に負けたのも聖子だった。
 ダルもそろそろ自分の父親の遺伝子をどう受け継いでいったらいいのか、考え始めたのだろうか。

 第2位。九州場所で大横綱・大鵬の記録に並ぶ32回目の優勝を飾った白鵬だが、優勝インタビューで語った「天皇陛下に感謝したい」という言葉が波紋を呼んでいると『ポスト』が報じている。
 私は聞いていなかったが、白鵬は最初モンゴル語で挨拶し、続いて日本語でこう話したという。

 「この国の魂と相撲の神様が認めてくれたから、この結果があると思います。明治初期に断髪事件が起きた時、大久保利通という武士が当時の明治天皇と長く続いたこの伝統文化を守ってくれたそうです。そのことについて天皇陛下に感謝したいと思います」

 日本人でも知らない「故事」を出したのはどうしてなのだろう。なぜ唐突に日本人をアピールしたのだろうと話題になっているそうである。
 古くからの角界関係者はこう語っている。

 「白鵬はモンゴル国籍のまま親方になることを目指している。近しい人間を通して、帰化せずに親方になれるよう角界の重鎮に相談している。白鵬には一代年寄を襲名して『白鵬部屋』を創設したいという希望があるが、それをあくまでモンゴル人として実現したいと考えているようだ」

 白鵬は日本人女性と結婚しているから、帰化することはさほど難しくないはずだ。だがこれまで帰化していないということは、モンゴル人に誇りを持っているのであろう。また相撲の起源はモンゴル相撲からきたと言われるから、そうした“意識”もあるのかもしれない。
 だが大相撲には厳然とした規定がある。「年寄名跡は日本国籍を有する者しか取得資格がない」というものだ。北の湖理事長も特例を認める気持ちはない。
 そのために、今回天皇の名前を出すことによって、白鵬に特例を出してもいいのではないかという声が協会の外から出ることを期待しているのではないか、という見方が出ている。
 モンゴル語で話したのは、モンゴル人の誇りをピーアールしたのではないかとも言われる。
 このままいけば白鵬があと数場所優勝することは間違いない。そうした場合、閉鎖的で融通の利かない相撲協会は少しは動くのだろうか。
 私はモンゴル出身の力士が上位に君臨している今の大相撲ならば、モンゴル籍の親方が誕生してもいいと思う。一定の枠、白鵬部屋でもモンゴル出身の力士は半数を超えてはいけないとかの縛りをすればいい。
 モンゴルの横綱に日本人力士が挑み負かす日が来るのを待ちかねている相撲ファンも多いのだ。そうしてこそ再び「若貴」時代のような隆盛が戻ってくるはずである。

 第1位。まったく盛り上がらない衆議院選だが、安倍首相の言うように「アベノミクスの成果に対してイエスか、ノーか」というのであれば、『現代』の巻頭特集が判断基準になりえるのではないか。
 専門家50人にアベノミクスをこのまま続けた場合、1年後にはこうなっていると予測させているからだ。
 私は自慢ではないが経済についてはずぶの素人だから、アベノミクスについてもいい悪いの判断はつかない。だが、急激な円安と見せかけだけの株高が日本経済をいい方向へ持って行けるとは到底思えないのだ。

 「米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスは1日、日本国債の格付けを『Aa3』から、『A1』に1段階引き下げた。21段階ある格付けの上から5番目。消費税率の再引き上げの延期などで、財政赤字の削減目標が達成できるかどうか、『不確実性が高まった』とした」(朝日新聞12月2日付)

 10月の毎月勤労統計調査(厚労省)によると労働者の実質賃金は1年4か月連続で減っている。
 これからも安倍首相が怖れていることが次々に顕在化してくるのは間違いない。その前に解散・総選挙をしてしまえというのが安倍の真意である。
 この50人の回答を見てみても、1年後の日本経済が少しでもいい方向へ向かうと見ている人間はほとんどいないのだ。
 その数少ないものを紹介しよう。

 「年金制度とNISA(少額投資非課税制度)が充実する」(大江英樹 オフィス・リベルタス代表)、「4月に株価が落ち込むが、その後反発する」(窪田真之 楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト)、「歳出削減、社会保障改革が本格化する元年」(小林喜光 三菱ケミカルHD社長)、「緩やかながら着実な成長が持続する」(榊原定征 東レ会長、経団連会長)、「1000億円超の大型不動産取引が活発化」(関大介 アイビー総研代表)、「夏頃に政府がデフレ脱却宣言」(中野晴啓 セゾン投信代表)、「日本経済は2%前後のプラス成長を達成」(野間口毅 大和証券株式ストラテジスト)、「インフラ投資ブームで福祉施設が充実化」(藤和彦 世界平和研究所主任研究員)、「日経平均株価が2万5000円に迫る」(武者陵司 武者リサーチ代表)

 全部で9人。その多くが企業の社長クラスか株価が上がることに期待を寄せている人たちのようである。
 後の41人とほとんどがアベノミクスでは経済が復活しないか、それほど期待できないと言っているのだ。こうしたことを頭に入れ、我が物顔に振る舞って国民のことを蔑ろにする安倍自民党をギャフンといわせる投票行動を国民が示すことが、今回の選挙の最大のテーマだといってもいい。
 そのためにも12月14日は投票に行こう。自分の考えを国政に反映させるために。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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