映画俳優。転移性肝がんによる肝不全で亡くなった。享年81。代表作は『仁義なき戦い』『トラック野郎』『現代やくざ 人斬り与太』など多数。

 「立ち小便が出来なくなったら菅原文太じゃねえ」

 2007年に膀胱がんと診断された文太は、こう言って自分を鼓舞したと『週刊新潮』(12/11号、以下『新潮』)が書いている。

 11月10日に亡くなった高倉健に続いて28日に菅原文太が逝ってしまった。健さんより2歳年下である。宮城県仙台市で生まれ、県立仙台第一高校を卒業して早稲田大学第二法学部へ入るも中退。178センチの長身と端正なマスクが画家・中原淳一の目にとまり、モデルになったことがきっかけで芸能界入りする。

 新東宝、松竹と移り、安藤昇(元安藤組組長で俳優)に勧められて67年に東映に移籍する。だが長いこと鳴かず飛ばずで、任侠映画でトップスターになっていた高倉健は仰ぎ見る存在であった。

 『週刊文春』(12/11号)で東映の古参幹部がこう語っている。

 「本当に天と地くらい格が違っていた。健さんの前では文ちゃんは直立不動でしたから。ただ健さんは誰にでも優しくて、『文ちゃん、東映ではこうなんだよ』と先輩としていろいろ教えてあげていましたね。二つ違いの兄貴と弟みたいな関係に見えました」

 文太も71年の『まむしの兄弟』シリーズで注目を浴び、73年から始まった『仁義なき戦い』で演じた広島のヤクザ広能昌三(ひろのう・しょうぞう)役でスターの座をものにする。

 東映のなかでは当初、外様の文太起用に異論があったというが、当時力を持っていた俊藤浩滋(しゅんどう・こうじ)プロデューサーが彼のことを気に入っていて押し切ったという。

 75年には高倉健と『大脱獄』と『神戸国際ギャング』で共演した後、健さんは独立し、文太は『トラック野郎』シリーズで喜劇の才能も開花させ日本映画界の看板スターになっていく。

 『週刊ポスト』(12/19号)でビートたけしが健さんと文太の違いをこう述べている。

 「一言でいうと、菅原文太さんは『二面性の役者』で、高倉健さんは『一本柱の役者』じゃないかな。
文太さんは73年から『仁義なき戦い』、75年から『トラック野郎』の両輪で活躍した。『2つの当たり役を同時につかんだ』なんていわれてるけど、そんな生易しいもんじゃない」

 たけしは自分が『戦場のメリークリスマス』に出演したとき、映画館で見た光景にショックを受けたという。シリアスなドラマなのに、たけしが出る場面でどっと笑いが起きたという。以来、お笑い芸人のたけしを消し去るために、テレビで凶悪犯を立て続けに演じたという。

 文太はヤクザもコメディもどちらも軽々とこなしてしまった。

 「これって神業なんだよ。(中略)文太さんに『巧い役者』って評価はそんなになかったけど、本当はもの凄い『テクニックの人』だったと思う。頭をフル回転して役に取り組んでいたはずだ」(たけし)

 ともにヤクザ映画から国民的スターになったが、健さんは生涯「高倉健」を演じ続けたのに比べ、文太は映画だけではなく、有機農法を始めたり政治的な発言も多くするようになっていく。

 映画監督の崔(さい)洋一は『新潮』でこう語る。

 「東日本大震災の後は、文太さんなりに日本という国を悲観なさっていましたね。ご自分も東北出身で、自分になにができるかを考えておられました」

 『文春』で鎌田實(かまた・みのる)諏訪中央病院名誉院長がこんな話をしている。

 「八月に会った時、初めて父親の話を聞きました。お父様は四十歳を過ぎていたのに徴兵されたそうです。そして『帰国した時には夢も生きる気力も失っていた』『自分も戦争によって疎開させられ、惨めな生活をした。今日本は、戦争を再びやる国になろうとしている』とおっしゃっていましたね。(中略)
 最後に話したのは十月の電話でしたが、『原発が再稼働しそうだけど、まずいよな』『ミツバチが減っているのは農薬の使いすぎじゃないだろうか』という、至って真面目な内容でした」

 私生活では66年に9歳年下の文子夫人と結婚し、1男2女に恵まれた。子煩悩な親だったが突然悲劇が一家を襲う。長男が31歳の時、踏切事故で亡くなってしまうのだ。息子の死のショックで文太は1年も話ができなくなってしまった。

 07年に膀胱がんが発症し、その時は切らずに治したが2年前には転移が見つかった。だがこのことは文子夫人の判断で本人には知らせなかったそうだ。

 私は菅原文太と面識はない。彼を見かけたのは3、4年前、西麻布の秋田料理の店だった。たしか中畑清と一緒だったと記憶している。髪は白くなってはいたが豊かで、背筋のピンとした後ろ姿はやはり格好良かった。店を出て行くとき、大きな声で話していたことを気にかけたのだろう、われわれの席に向かって少し頭を下げて出ていった。

 『文春』によると、死ぬ10日前、病室で健さんの悲報を聞くとこう言ったという。

 「健さん、東映、映画のことは自分で書きます」

 11月1日、沖縄県知事選に出馬している翁長雄志(おなが・たけし)候補(仲井真氏に約10万票の差をつけて当選)の応援に行ったときの菅原文太の演説は、県知事選の流れを決定的に変えるものだったと言われている。

 私はこのなかの「仲井真さん」を「安倍さん」と読み替えてみると、少し溜飲が下がった。

 「『仁義なき戦い』の裏切り者の山守、覚えてらっしゃるかな? 映画の最後で、『山守さん、弾はまだ残っとるがよ。一発残っとるがよ』というセリフをぶつけた。その伝でいくと、『(対立候補の)仲井真さん、弾はまだ一発残っとるがよ』と、ぶつけてやりたい」

 今夜は文太の『現代やくざ 人斬り与太』(深作欣二監督)でも借りて見よう。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は話題の人物の「話題」を3本取り上げてみた。特に林真理子の「言い分」は今のメディア全体が抱えている宿痾(しゅくあ)のようなものを見事に言い当てている。週刊誌も所詮商売ジャ-ナリズムということだ。

第1位 「林真理子『夜ふけのなわとび』」(『週刊文春』12/11号)
第2位 「『読売新聞』全社が固唾を呑んだ『ナベツネ主筆』重症入院の悪い知らせ」(『週刊新潮』12/11号)
第3位 「私の体を貪ったちょいワルオヤジ『LEON』元編集長・岸田一郎を許さない!」(『フライデー』12/19号)

 第3位。ファッション誌『LEON』を創刊して「ちょいワルオヤジ」という言葉を流行らせたチョッピリ有名人の編集者・岸田一郎氏(63)のスキャンダル。
 彼は現在、9月に創刊された男性誌『MADURO(マデュロ)』の編集長。
 その岸田氏が23歳の美女A子さんに「枕営業」を強要していたというのだ。
 A子さんは現在モデルとして活躍中で岸田氏が好きなタイプらしい。『MADURO』の関係者から『東京ガールズコレクション(TGC)』の仕事の話をもらったA子さんは、雑誌関係者らと今年2月に岸田氏と会食し、出演と引き換えに岸田氏に肉体関係を無理やりもたされたと「涙の告発」をしている。
 会食前に、『MADURO』の関係者から「岸田氏をもてなすよう」にと指示されていたという。岸田氏は「聞いているよね? このまま帰るとTGCには出さないよ」と脅されて、従うしかなかったそうだ。
 岸田氏はその後もA子さんの体を貪り続けたというが、結局、A子さんはTGCに出られなかったそうだから、怒るのも無理はない。
 A子さんは岸田氏に対し訴訟を起こすつもりだという。これが事実なら、編集者としての一線を越えてしまった岸田氏は編集長を辞任すべきだろう(反論があるなら堂々とすべきである)。ファッション雑誌のイメージを傷つけた代償は大きいはずだ。

 第2位。読売新聞の首領・ナベツネこと渡辺恒雄主筆(88)が11月14日に自宅で倒れて救急車で運ばれ、未だに退院できない状態にあるというのだ。
 何しろ年も年だし以前に大腸にポリープが見つかっているし、耳も不自由になってきているというから、何が起こっても不思議ではないが、長年読売だけではなく政界にも強力なパイプを持って影響を与えてきた人だけに、気になる病状ではある。
 いろいろ情報が交錯するなか、広報に確認すると、主筆自らが病床から回答を寄せたというではないか。そこには泥酔した上に睡眠薬を飲んだため、寝室で滑って転んだ。その際本棚に左肩をぶつけ上腕部を骨折したため、リハビリを続けているから長引いているが、年内には退院できるだろうと書かれていたという。
 この通りなら、時間は経ってもまた出社できるのだろうが、本人自らが返事を寄越したという点に、いささか疑念が生じる。週刊誌の取材などにまともに答える人ではないのに、ナゼ今回だけは答えたのか。
 あたかも読売内部では「ポスト・ナベツネ」をめぐって政治部と社会部が争っているそうだ。ナベツネがこのまま引退するにしても、後継を自ら指名しておかなくては内紛が収まらず、社を揺るがす事態になるやもしれないのである。
 後継などつくらず独裁を続けてきた超ワンマンが消えるとすれば、読売社内の問題だけではなく永田町にも何らかの影響が出ることも考えられる。続報を注目したい。

 今週の第1位は林真理子の連載コラムに捧げたい。

 「一ヶ月近くたって巷でこれだけ話題になっても、どの週刊誌も一行も報じないではないか。やしき氏(やしきたかじん=筆者注)の長女がこの本によって、
 『名誉を傷つけられた』
 と提訴し、出版差し止めを要求した。が、相変わらずテレビも週刊誌も全く報道しない。私はこのこともものすごい不気味さを感じるものである。この言論統制は何なんだ!
 大手の芸能事務所に言われたとおりのことしかしない、テレビのワイドショーなんかとっくに見限っている。けれど週刊誌の使命は、こうしたものもきちんと報道することでしょう。ネットのことなんか信用しない、という言いわけはあたっていない。そもそも、
 『やしきたかじんの新妻は遺産めあてでは』
 と最初に書きたてたのは週刊誌ではなかったか」

 林真理子が『文春』の連載「夜ふけのなわとび」で怒る怒る。週刊誌が自分の役割を果たさないのはどういうこっちゃ! と真っ当に怒り狂っている。
 この騒動は百田尚樹(ひゃくた・なおき)という物書きが幻冬舎から出した『殉愛』という本についてである。 1月に亡くなった大阪のカリスマ芸人・やしきたかじんの闘病の日々と、彼を献身的に介護する新妻との日々を描いた“ベストセラー狙い”のお涙ちょうだいノンフィクションだ。
 だが、この新妻というのが実はイタリア人と結婚していて、「重婚」の疑いがあるというのである。
 また、やしきの友人でもあり彼の楽曲に詞を提供していた作詞家の及川眠子(ねこ)が『殉愛』の中で資料として提示されているたかじん「自筆」とされるメモの字の筆跡について、真贋を疑問視するツイートをしたのだ。

 「『殉愛』の表紙に感じたすっごい違和感。なんでだろーと思っていたが、はたと気付いた。たかじんってあんな字を書いたっけ? もっと読みづらい変ちくりんな字だった記憶が・・・。病気になると筆跡まで変わっちゃうのかな?」

 その上、やしきの長女が幻冬舎に対して「出版差し止めと1100万円の損害賠償を求める」訴訟を東京地裁に起こしたのである。
 これに対して百田は「裁判は面白いことになると思う。虚偽と言われては、本には敢えて書かなかった資料その他を法廷に出すことになる。傍聴人がびっくりするやろうな」とツイートしたものの削除してしまった。
 Web上のまとめサイトでは「百田尚樹氏、ほぼ作家生命終了」とまで断定されてしまっている。
 これだけ話題になっている本についての「醜聞」は週刊誌の格好のネタであるはずだ。だが、不可解なことに出版社系はどこも取り上げないのだ(『サンデー毎日』と『週刊朝日』はやしき氏の長女のインタビューなどをやっている)。
 『週刊現代』を出している講談社は『海賊とよばれた男』が大ベストセラーになっている。『週刊新潮』は百田の連載が終わったばかり。タブーは他誌に比べて少ないはずの『週刊文春』だが、林によると「近いうちに連載が始まるらしい」から、これまた書かない。
 小学館の『週刊ポスト』も百田の連載をアテにしているのかもしれない。
 私がここでも何度か言っているが、いまやメディアにとってのタブーは天皇でも創価学会でも電通でもない。作家なのである。
 昔『噂の真相』という雑誌が出ていたときは、毎号作家についてのスキャンダルや批判が載っていたが、いまや作家について、それもベストセラー作家のスキャンダルを読みたくても『サイゾー』以外どこを探しても見つからない。

 「私は全週刊誌に言いたい。もうジャ-ナリズムなんて名乗らない方がいい。自分のところにとって都合の悪いことは徹底的に知らんぷりを決め込むなんて、誰が朝日新聞のことを叩けるであろうか」(林真理子)

 私も週刊誌OBであるから恥ずかしくて仕方ない。ネットで現場の記者や編集者は、そんな状況を打破しようとしているというコメントを見つけた。

 「文春や現代、ポストの週刊誌編集部には関西生まれの記者や編集者も多く、彼らは子供の頃からたかじんの番組に慣れ親しみ、親近感を持っており、今の状況は許せないと思っている。若手記者たちは『企画を出しても通らない!』と憤っています。中には仕方なく自腹で取材に動いたり、情報収集をしはじめる記者もいます。ある版元の、ノンフィクションが得意の敏腕編集者の下には、こうした情報が続々と集まっていると聞きました。騒動の裏側が本格的に暴かれる日も近いのでは」(夕刊紙記者)

 これに似たようなことを私も聞いているが、どこまでやれるかはなはだ心許ない。この本の版元は見城徹(けんじょう・とおる)という人間がやっている幻冬舎で、彼の裏には芸能界の「ドン」と言われている周防郁雄(すおう・いくお)がいるそうだ。百田はベストセラー作家であり安倍首相のお友達である。
 だが、この程度の「圧力」に屈して、この「事件」を書かないとしたら週刊誌など廃刊したほうがいい。
 私は百田の『永遠の0』を30ページほど読んで捨ててしまった程度の読者である。したがって百田の物書きとしての才能を云々することはしない。だが「文は人なり」である。安倍首相のような人間と親しいことをひけらかし、下劣な発言をたびたび繰り返している人間のものなど読むに値するわけはない。
 『殉愛』は現在市場に30万部ほど出回っているそうだが、出版関係者によれば「半分も売れれば上出来ではないのか」と言われるほど失速しているという。

 林真理子の“怒り”に慌てたのだろう。次号で『文春』は百田尚樹の言い分を、『新潮』は騒動の途中経過を載せているが、これについては次回触れたい。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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