『週刊現代』(1/3・10号、以下『現代』)で1945年から現在までの各界の「立派だった日本人」を100人選び、その中から総合ベスト30を選んでいる。

 週刊誌ではよくある企画だが「立派だった」というところがミソなのだろう。だがスポーツや学術では選べるだろうが、政界や財界は立派でないヤツがこれまでもその世界を牛耳ってきたから、立派という篩(ふる)いにかけたらほとんどが落ちこぼれてしまうはずだ、と、ぶつぶつ言いながら政界から見ていく。田崎史郎と田原総一朗が講評しているのだが、1位に吉田茂ではなく安保条約を改定した安倍首相の祖父である岸信介を挙げていることからも、選考に疑問をつけざるを得ない

 「憎まれ役を引き受けた」「憲法改正も視野に入れていた」(田原)「安倍は岸の政権運営を教訓にしたはず」(田崎)の岸が、「戦前、開戦阻止を唱える」「吉田学校で池田や佐藤を育てた」吉田を上回るのはなぜか。二人は、アメリカにある岸のCIAファイルが未だに非公開であることを知っているのか。読売の社主だった正力松太郎がCIAの手先だったことは公開しているのに、岸のファイルを公開しないのは、そこには日本人に知られてはならない「不都合な真実」があるからであろう。少なくとも立派な人間でないことは間違いない。

 2位に田中角栄、3位に中曽根康弘を入れたのでは、政治家はブラックなほどいいと言っているようなものである。この3人は日本の戦後政治に汚点を残し、政治不信を極限まで高めた“戦犯”として挙げられるべきだと、私は思う。

 財界も1位松下幸之助、2位本田宗一郎、3位井深大(いぶか・まさる)では新味がなさ過ぎるが、井深と共にソニーを創業した盛田昭夫を「会社を私物化した」という理由で外したのはいい。「メザシの土光さん」で親しまれた土光敏夫が入っているのも想定内だが、これならダイエーの中内功を入れてもいいと思うのだが。戦後の流通業界に革命を起こした人間で、中内とヤマト運輸の小倉昌男(16位)はもっと評価されていい。

 芸能界は100人いれば100人が違う人間を選ぶだろう。ベスト3が高倉健、美空ひばり、渥美清。健さんは素敵だが、亡くなったばかりというご祝儀も加味しての評価で、2、3年後に選んだら、だいぶ顔ぶれが変わるのではないか。

 演技力で選べば渥美清、森繁久彌、三船敏郎、藤山寛美、フランキー堺になるだろうし、人気ということでいえば石原裕次郎、美空ひばり、吉永小百合か。立派な芸能人の第1位に祭り上げられて、苦笑しているのは健さん自身であろう。

 スポーツ界はあと10年後にやってみても長嶋茂雄、王貞治、大鵬の3人は不動だろう。4位に五輪で2大会連続金メダルをとった体操の加藤沢男、5位にボクシングのファイティング原田が入っているのがやや意外だ。8位に選んだ野茂英雄の功績はもっと評価するべきである。彼がいなければイチローも松井も田中将大も大リーグにはいけなかったかもしれない。全盛期を過ぎてはいたが日本人の実力を大リーガーに見せつけた野茂は、日本球界の大功労者である。

 文化・芸術分野も異論百出であろうが、手塚治虫、司馬遼太郎、黒澤明のベスト3は順番は別として、大方が納得するのではないか。だが岡本太郎(5位)、阿久悠(7位)、色川武大(8位)、赤塚不二夫(9位)には評価が分かれるところであろう。

 ちなみに私なら1位大岡昇平、2位東山魁夷、3位立川談志にする。

 学術は、1位から湯川秀樹、南部陽一郎、糸川英夫、今西錦司、柳田國男。ノーベル賞を取ったばかりの山中伸弥が6位に入っているのはご愛敬だが、10位に聖路加国際病院名誉院長の日野原重明が入っているのは首を傾げる。彼の魅力はわからないではないが、長生きすれば立派なのか? 少なくとも9位の丸山真男と並べるのは、評者の見識を疑う。

 とまあ、各分野で挙げられた人の中から福田和也がベスト30位までを、彼の独断と偏見で選んでいるのだが、トップは予想通り長嶋茂雄。2位が吉田茂、3位が松下幸之助、4位が美空ひばり、5位が手塚治虫としている(28位に立川談志が入っているのは、談志ほどお辞儀の綺麗な人はいないという理由から)。

 私も熱烈な長嶋ファンだからこの評価に異存はないが、新年の長嶋のドキュメンタリーを見て、その思いをさらに強くした。

 死んでいてもおかしくなかった重篤な脳梗塞から生還し、誰もが驚くハードなリハビリをこなして、もう一度グラウンドで野球に会いたいという前向きで明るさを失わない長嶋の姿に感動させられた。

 彼こそ日本人の最良の部分を体現している真のスーパースターで「人間国宝」にすべきだと思う。

 東京オリンピックでは開催国に種目提案の権利が認められたので、野球が復活する可能性が高いという。日本のオリンピック野球チームを長嶋が指揮することも、夢ではないかもしれない。(文中敬称略)

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 新年明けの『週刊現代』と『週刊ポスト』は、年末に作り置きのものだから企画が勝負になるのだが、残念ながらこれといったものはない。申しわけないが、何とか3本を選んでみたので暇つぶしに読んでください。

第1位 「有名500社『年収ランキング』」(『週刊ポスト』1/16・23号)
第2位 「2015年まるごと完全予測 景気・株・円安・会社 こう動く!」(『週刊現代』1/17・24号)
第3位「いま日本で『本当にうまい役者』ベスト100人を決める」「いま日本で『本当に歌がうまい歌手』ベスト50人を決める」(『週刊現代』1/17・24号)

 第3位。『現代』のうまい歌手、うまい役者という企画自体は褒められたものではない。これまで何度も繰り返されてきた古臭い企画だが、まあ新年ということで許そう。
 「うまい歌手」は二昔前なら1位は美空ひばりで決まりだったが、いまはよくいえば群雄割拠、悪くいえばドングリの背比べである。
 ベスト5まであげると、1位から順に桑田佳祐、中島みゆき、山下達郎、小田和正、井上陽水。3位の山下がやや意外だが、そのほかは順当だろう。6位に五木ひろし、7位に沢田研二、8位に都はるみがランクイン。
 紅白でニューヨークからライブ中継で出演した中森明菜は12位で、紅組のトリを務めた松田聖子が20位。失礼だが明菜は目がうつろで口パクではないかと心配になるほど体調がよくなさそうだった。
 NHKが強引に口説いたのかもしれないが、歌姫完全カムバックとは当分いかないようである。
 意外な低評価は氷川きよし39位、森進一、吉幾三40位。氷川は同性愛疑惑やマネジャーへの暴力沙汰が響いたのか?

 同じような企画が「うまい役者は誰」だ。すぐに上がるのは役所広司、佐藤浩市、西田敏行あたりだが、最近私が評価するのは岡田准一(じゅんいち)だ。NHKの大河ドラマ『軍師官兵衛』は一度も見ていないが、期待していなかった映画『蜩(ひぐらし)の記』の岡田が地味な役柄だったがいい味を出していた。
 さて、ベスト1には“意外な?”役者が選ばれている。『クライマーズ・ハイ』やNHKの朝の連ドラ『マッサン』で好演した堤真一 (50)が、コメディから人情もの、シリアスまで幅広くこなせると評価が高い。
 2位以降は、香川照之、藤原竜也、役所広司、浅野忠信、大森南朋(なお)、堺雅人、佐藤浩市、渡辺謙、濱田岳(がく)と並ぶ。
 岡田准一は意外に低評価で15位。中井貴一が18位。三浦友和19位、西田敏行21位、水谷豊が22位だ。
 反対に高評価だと思うのは本木雅弘の24位。お茶の宣伝と映画『おくりびと』しか印象にないが、一つ一つの仕事がていねいだそうだ。
 役所広司は何の役をやっても役所広司になってしまうところが難だし、普通の格好をしていても不潔な感じがするのはいただけない。佐藤浩市は若いころのほうがよかった。オヤジの三國連太郎を意識しすぎるためか、佐藤のよさを殺してしまって、個性を失っているように見える。
 田中邦衛のように、画面に出てきたら圧倒的な存在感を示す役者になってもらいたいと思うのだが。

 第2位。朝日新聞の1月5日付社説で安倍政権の経済政策をこう批判している。

 「金融緩和で物価を押し上げることが果たして好ましいのか。企業がきちんと利益をあげて働く人の賃金が増え、その結果、消費が活発になって物価も上がっていく。求められるのはそんな経済の姿だろう。
 物価が将来どれだけ上がると考えるか、人々の期待(予想)に働きかける政策から、実需を見る政策へ。経済のかじ取りを切り替えるべきではないか」

 日本の現実は「年収200万円以下の働き手が1100万人を超え、住民税が非課税となる低所得世帯の人が2400万人を数える。かつて日本経済を支えた中間層が細り、低所得層が増えた。それが、日本経済のいまの姿である」(同)。格差がますます広がり、わずかな富裕層やアベノミクスで恩恵を受けている一部の大企業だけが「我が世の春」を謳歌しているだけである。
 『現代』は、世界的な投資家ジム・ロジャース氏にこう言わせている。

 「日本はすでに多額の政府債務を抱えており、本来であれば財政支出を減らすべきです。そもそも人口減少が急速に進む国に、新しい道路や橋を作る必要がどこにあるのか。大規模な財政支出を止めれば減税することも可能で、そうすれば国民の生活水準は改善されていく。しかし、安倍総理がやっているのはそれとは真逆。アベノミクスは今年も日本を破壊する方向に進んでいくということです」

 急激な原油安でロシアが喘いでおり、アメリカもシェールガス景気に水を差された格好だ。欧州は経済不振から抜け出せず、中国の成長率の鈍化がはっきりしてきた。世界的にいつ何があってもおかしくない「90年代末と似てきた」(英エコノミスト誌)不安定な時代である。
 株価も不安定ながら2万円の大台に乗るのではないかと見られているようだが、『現代』によれば6月に最大の山が来るというのだ。
 それはアメリカのFRB(米連邦準備理事会)のイエレン議長が9年ぶりに行なうといわれる「利上げ」だ。これまでアメリカはゼロ金利政策をとり続けてきた。景気を刺激するアクセルをふかしてきたわけだが、それをやめてブレーキを踏めば、スピンしてアメリカ経済が失速する可能性が出てくるというのである。
 そうなれば投資家たちは株などのリスク資産に投資したカネを引き上げるリスクが高まるという。
 また、もし利上げしないという判断をすればアメリカ経済が減速していることを意味するわけだから、アメリカ株の売りにつながる。こうしたアメリカ経済の余波が日本に押し寄せ、株大暴落のシナリオも考えられるというのだ。
 ところでいま世界的なベストセラーにフランスの経済学者トマ・ピケティ氏が書いた『21世紀の資本』(みすず書房)がある。その本が5分でわかるという記事を『現代』がやっている。
 こうした企画はもっとやるべきである。アメリカではこうした重要だが読むには時間がかかる大著には必ず要約本が出て、それが売れるのだ。5分とはいかないが1時間程度で内容のダイジェストをする記事が、日米の本を問わずもっとあっていいと思う。それが読みたくて週刊誌を買う読者も必ずいるはずだ。
 この本の翻訳を手がけた山形浩生(ひろお)氏がこう解説している。

 「本書で主張していることは、実はとても簡単なことです。各国で貧富格差は拡大している。そして、それが今後大きく改善しそうにないということです。
 なぜかというと、財産をもっている人が、経済が成長して所得が上がっていく以上のペースでさらに金持ちになっていくからです。ピケティの功績は、このことをデータで裏付けたことにあります」

 この格差を是正するのには相続税の増税が必要だとしているが、これは日本にも当てはまるはずだ。

 第1位。『ポスト』は、日本の企業間の格差もどんどんアベノミクスで広がっていると、有名500社の企業の平均年収を調べて公表している。
 これによるとフジ・メディア・ホールディングスが2012年度の1479万円から1506万円にアップして第1位。2位もTBSホールディングスで1484万円から1499万円。
 3位が野村ホールディングスで1334万円から1488万円。5位が日本テレビホールディングスで1491万円から少し下がって1454万円。6位が電気機器のキーエンスで1321万円から1440万円。
 7位が日本M&Aセンターで1217万円から1412万円。8位にもメディアでテレビ朝日ホールディングスが1303万円から1395万円。20位にもテレビ東京ホールディングスが入り1210万円から1221万円。
 そのほかにも20位までに損保や商社がズラッと顔を見せている。アベノミクスの「トリクルダウン」効果とは、富めるヤツがさらに儲かれば、そヤツらがどんどんカネを使って貧しい人間にも行きわたるというものだが、そんなものは気配も感じられない。
 『ポスト』は、財務省の法人企業統計を出して、「アベノミクスが始まった2013年度に『資本金10億円以上の大企業』は経常利益を平均約34%も伸ばしたが、『資本金1000万円未満の中小・零細企業』は平均マイナス2%の減益だった」と言っている。
 『ポスト』はさらに「リストをさらに細かく見ていくと、日本の政治が明らかに権力者の取り巻きだけが利益を得る『途上国型』へと大きく退化しつつあることがわかる」としている。
 円安でたっぷり利益を上げたトヨタ自動車の平均年収も43万円増の794万円、日産は67万円増の766万円にはなっているが、トヨタは13年度で1兆8231億円の純利益をあげているのに、社員の給料アップに使った金額は約240億円、純利益の1.3%しか使っていない。
 トリクルダウン効果がないことを象徴的に示すのが、自動車業界を中心に人材派遣を行なっている東証一部上場の企業「アウトソーシング」で、同社の平均年収は5万円しか上がっていなくて289万円だという。
 大企業はまるまる肥え太り内部留保で貯め込み、社員には雀の涙ほどのベースアップを施し、下請けには涙も出さない。
 驚くのはトヨタや新日鐵の大卒事務職や技術職の年収の高さだ。トヨタの大卒は入社7年目の29歳で約650万円、出世の早い人間は40歳課長で約1200万円になるという。
 新日鐵も平均年収569万円だが、これは高給の管理職を排除しているからで、30歳そこそこで管理職に昇格すると年収1000万円台に近づくという。
 大企業と中小とで格差が広がり、社内でも高卒と大卒で格差があり、出世するかしないかで大きく賃金格差が広がっていく。
 大手商社では大きなプロジェクトを成功させれば40代でも3000万円に届くという。年収200万円しかないワーキングプアは、この数字をどう見るのだろうか。
 こうした富める者だけをさらに富ませるアベノミクスは、日本人の大多数の貧しさの上にあることを、安倍首相は気付いてはいまい。
 アベノミクスを盲目的に礼賛する大新聞やテレビは、これからますます安倍首相にすり寄っていくであろう。週刊誌は、常に弱者や貧しい者に寄り添って、政権批判をこれまで以上に強めていかなければならないはずだ。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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