国が基準を定めた認可保育園に子どもを入園させたくても、定員オーバーで断られる待機児童問題。この待機児童解消の一助とするために、2006年10月にスタートしたのが「認定こども園」だ。今、その認定こども園が補助金問題をめぐって揺れている。

 小学校に入学する前の未就学児の預け先は、大きく分けると認可保育所と幼稚園のふたつ。

 認可保育所は、0歳から就学前の「保育に欠ける」乳幼児のための保育施設。保育時間は原則8時間で、入所できるのは親が働いているなどの条件がある。児童福祉法に基づき、厚生労働省が管轄している。

 一方、幼稚園は、満3歳から就学前の幼児の心身発達を助ける教育施設という位置づけだ。保育時間は4時間程度で、こちらは親が働いていなくても入園できる。管轄は文部科学省で、学校教育法に基づいて運営されている。

 保育所と幼稚園は異なる目的のもとに作られ、共働き世帯の子どもは保育所、妻が専業主婦の世帯は幼稚園と概ねの住み分けがあった。しかし、時代の流れとともに保育ニーズも変容。共働き世帯の増加や核家族化によって、保育所の入所希望者が増える一方で、保育時間の短い幼稚園の入園者は減少。規制緩和が求められるなか、小泉自民党時代の構造改革によって「幼保一元化」が進められ、保育園と幼稚園の両者の機能をあわせもつ「認定こども園」が誕生した。

 認定こども園は、就学前の乳幼児の保育と教育を一体的に捉えて提供する施設で、親が働いている・働いていないに関わらず、すべての子どもが入園可能だ。また、地域の子育て支援ステーションとしての役割も兼ね備えており、都道府県が認定することになっている。こうした利便性によって、それまで幼稚園だったところが鞍替えするなどで認定こども園は年々増加し、2014年4月1日時点では全国で1359施設が認定を受けるまでになった。

 ところが、昨年、国が来年度からの補助金削減を打ち出してから、認定こども園返上の意向を示す施設が相次いだのだ。

 これまで、認定こども園は、文部科学省と厚生労働省の両省から補助を受けていたが、2015年度から始まる「子ども・子育て支援新制度」によって、補助金も内閣府に一本化されることになった。そのなかで補助金の大幅な減額も打ち出され、施設からは「これでは運営できない」「保育料を値上げせざるを得ない」といった声が聞かれるようになっていたのだ。

 しかし、メディアなどで、認定こども園を利用していた親たちの窮状が大きく報じられると、有村治子(はるこ)少子化担当大臣(当時)は「必要な措置を講じる」と一転。

 今年1月22日に、国は認定こども園の補助金の引き上げを決定。既存の園で、幼稚園部分と保育園部分それぞれに施設長がいる場合は、経過措置として従来通りに2人分の人件費補助を行なうなど、減収を避ける対策を講じることになったのだ。

 アベノミクスでは、成長戦略のひとつに「女性の活用」を掲げている。だが、打ち出す政策は、評判が悪すぎて廃案になった「女性手帳」、「育児休業期間を3年に延長」など、ちぐはぐなものが多い。そして、今回はようやく増えてきた認定こども園を減らすような政策を平気で行なおうとする。これでは、国が本当に女性に社会進出を望んでいるのか疑わざるをえない。

 厚生労働省の発表では、待機児童数は全国で2万1371人となっている(2014年4月1日現在)。しかし、しぶしぶ認可外の保育施設を利用したり、育児休暇を延長したりしている人も含めると、潜在的な待機児童数は85万人に達するといわれている。

 安心して子どもを預けられる施設が見つからなければ、子を持つ親の働きに期待するのは難しい。「女性の活用」を謳うのであれば、まずは保育施設の充実に予算を投入するのが筋というものだ。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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