「きわ」は漢字の「際」と書き、年末や歳末、商家の勘定日などを意味することばである。「きわの日」とは、月末最後の日のこと。京都は昔から商人の町でもある。商いも、日常的な買い物も、代金は売り掛け(後払い)が当たり前だった時代なので、月末といえば、集金や支払いに誰もが頭を痛めていた。そこで、商家のお決まり料理として定着したのが「きわの日」の「きらず」である。「きらず」は切らなくても料理ができるという意味から、豆腐殻の「おから」を意味している。昔の人は「おから」が「空」(から)に通じる音を嫌い、「きらず」と言い換えてしまったともいわれている。それゆえ「お金を切らさないように、きらずを食べる」とか、「財布がからっぽになったから、おからを食べる」とか、「おからをよく煎って食べると、お金が入る」などと、いろんな風に使い回しながら、おもしろおかしく表現してきた。

 京都は豆腐や湯葉などの大豆の加工品がたくさんつくられているので、おからの種類にも気を配る。生湯葉をつくっている店のものが一番きめ細かく、しっとりしておいしいといわれており、材料選びに失敗すると、ぱさぱさして食べられないこともある。おからと一緒に、さつまいもの賽の目切り、にんじん、お揚げ、椎茸、葱などを入れ、だしで炊きあげると、豆腐の絞りかすとは思えないような、おいしい「おぞよ」(おかず)ができあがる。

 おから一つとっても、「だしじゃこの背とはらわたを除いて加えると絶品」とか、「えび豆の煮汁を混ぜるとうまい」などと、いろんな工夫を楽しみながら、本当においしい料理にするあたりが、いかにも京都人らしいといえるのかもしれない。


おからのたいたんの調理中。椎茸の戻し汁やだしじゃこの風味をいかして煎り上げたおからは、おばんざいの代名詞的存在。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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