芸能人夫婦の離婚問題をきっかけに、「モラルハラスメント」という言葉がよく聞かれるようになった。

 モラルハラスメント(モラハラ)は、モラルを装って、言葉や態度、文書によって陰湿な嫌がらせを行ない、精神的に相手(被害者)を追い詰める心の暴力。フランスの精神科医、マリー=フランス・イルゴイエンヌ博士が定義づけたハラスメントのひとつとされている。

 モラハラの加害者の多くは、自己愛性パーソナリティ障害とされており、心の底に強い劣等感、コンプレックスがあり、ありのままの自分を愛せない人たちだ。周囲には理想の自分を演じて見せる一方で、身近にいる弱い存在に対してはモラハラやドメスティックバイオレンス(DV)を行なうことで、自らの自尊心を保っていると言われている。

 被害者を自らの支配下におき、服従させるのが目的。そのため、被害者が傷つくポイントを探りだして、人格を否定するような言葉を浴びせたり、反対に徹底的に無視したりする。「お前が悪いからだ」「だからお前はダメなんだ」と相手の悪いところをあげつらい、被害者に「自分が悪いことをしたらから、相手を怒らせた」「自分は傷つけられても仕方のない人間」と思いこませようとする。肉体的な暴力行為ではないので顕在化しにくいが、長期にわたって陰湿に繰り返される嫌がらせによって被害者は心に大きな傷を受ける。

 モラハラは夫婦間だけの問題ではなく、家族や友人のほか、職場の同僚などから受けるケースもある。

 たとえば、職場におけるモラハラは、仕事内容ではなく人格を否定したり、仕事に絡めて個人を傷つける言葉や態度をとったりするというもの。また、孤立させるために、一切話をせずにメールなど書いたものだけで意思を伝え、コミュニケーションを拒否するといったことが執拗に繰り返される。

 その結果、被害を受けた人は、ストレスによって心身のバランスを崩し、不眠や胃痛など体調を崩したり、最終的にはうつやパニック障害などの精神的な疾患を発症することもある。

 力関係によって上司が部下に行なうパワーハラスメント(パワハラ)とは異なり、モラハラは上司だけではなく部下や同期など幅広い人が加害者になりうる。

 たんに厳しい叱責だけではモラハラにはならないが、不必要な嫌がらせが執拗に行なわれる場合は、それを疑うべきだろう。自己愛性パーソナリティ障害は、理想の自分を演じ、平気で嘘をつく傾向もあるため、モラハラは顕在化しにくく、周囲の人に理解を得るのが難しいことも多い。

 しかし、嫌がらせが長く続くと心身に影響を及ぼすので、勇気を出して周囲の人に相談することが必要だ。また、原因が見つからないのに、不眠や胃痛などのストレス症状が出ている場合は、できるだけ早くメンタルヘルスの専門医の診察を受けるようにしよう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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