ジャーナリスト&テレビ解説者。64歳。長野県松本市に生まれる。1973年慶応義塾大学経済学部卒業。NHKに記者として入局。1994年から2005年まで「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年3月定年を待たずNHKを退職。

 2008年『学べる!! ニュースショー!』(テレビ朝日)にニュース解説者として出演。わかりやすい解説が評判になり、多くの番組でニュース解説を担当している。選挙後に行なわれる選挙特番でも、ズバリと政治家の本音に切り込む姿勢が評価されている。

 佐藤優(まさる)氏をして「私がいちばん信頼している日本で最有力の評論家である」と言わせている。池上氏は批判的に物事を観察する高度な力を持ち、相手の意見を丁寧に最後まで聞き、事実関係に反する点や論理的に反する部分について質問し、その反論を聞いたうえで相手の主張に同意できるか否かを決める。この手続きを必ず取るから視聴者への説得力を持つのだと『週刊東洋経済』(1/17号)で話している。

 著書も多く、現代史、世界情勢、経済、宗教から教育問題と多岐にわたっているが、共通しているのは「わかりやすさ」である。

 作家の井上ひさしさんは、私がやるべきことは「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく」 書くことだと言っていた。池上氏にもそれができるのは「週刊こどもニュース」の経験が大きいと思う。何も知らない子どもに次々起こるニュースをわかりやすく解説するということは、実は大変なことである。

 自分がそれについて本当に理解していないと、やさしいことを難しく伝えてしまいかねないからだ。

 彼のわかりやすさの一例を挙げてみよう。

 『週刊文春』(2/12号)の連載コラム「池上彰のそこからですか!?」でイスラム国がなぜ数々の残虐行為を引き起こすのかを解説している。

 イスラム世界では法律を作ることができるのは神のみだとし、これを「神の主権」といい、この世を統治する法律は「神が預言者ムハンマドを通じて人間たちに下された『コーラン』に書かれているルールです」(池上氏)。ムハンマドが死ぬと、信者たちはムハンマドの言動を『ハディース』(伝承)としてまとめ、それで対処できない場合はイスラム教徒の共同体の『イジュマー』(合意)を形成して対処するようになった。

 「『イスラム国』の指導者バクダディはバクダッドの大学院で学んだイスラム法学者ですから、当然この内容を踏まえた統治をしていると見られています」(同)

 当時の諸規定の中には、イスラム教徒は捕らえた多神教徒の兵士を殺してよい、敵を殺すために敵のところまで到達できない場合は、女子どもを殺してもよいという驚くべきものがあるという。

 したがってイスラム国の野蛮な残虐性は

 「彼らは、イスラム法に則って行動していると信じているのです。(中略)
 こうして見ると、単なる無頼の徒に見える『イスラム国』も、彼らなりの法律規範にもとづいて行動していることがわかります。
 でも、いまから一〇〇〇年近く前の戦争の規定を、そのまま現代に適用しようという時代錯誤ぶり。それで後藤さんが犠牲になる。悔しい」(同)

 さらに最近、彼の評価を高めた二つの出来事がある。

 ひとつは昨年末に行なわれた衆院選投票日の夜のテレビ東京の特別番組で、大勝した安倍首相に、これで憲法改正に取り組むのかと直截に問いかけ、安倍首相から「そうだ」という言質をとったことだ。

 ふたつ目は、朝日新聞の連載「新聞ななめ読み」で、慰安婦報道を長い間訂正しなかった朝日新聞は謝罪するべきだと書いたことだ。

 自社で連載をしている人間が朝日を批判したことにあわてた木村伊量(ただかず)社長(当時)は、これを掲載しないという誤った判断をしたため、社内外から猛烈な批判を浴びて謝罪、辞任に追い込まれたのである。

 書いていることは特別なことではなく至極真っ当なことなのだが、池上彰という名前の大きさに朝日が怯えてしまったのだろう。

 池上氏は知の巨人といわれる立花隆氏や歩く博覧強記、佐藤優氏とは違うタイプの知識人である。立花氏は蔵書を収容するために猫ビルを建て、佐藤氏は睡眠3時間、それ以外は読書と執筆に費やしている「活字の人」だ。池上氏は読書やスクラップ作り、地図の収集が趣味だそうだが、基本的には映像の人である。

 テレビ局というところはスタッフとの打ち合わせや事前の準備で相当な時間をとられてしまう。まして池上氏のように特番スタイルの番組が多いと、読書や新しい情報を仕入れる時間は限られるはずである。

 彼の凄いところは、テレビで売れ始めた2011年の春、いったんテレビやラジオの仕事を休んで勉強する時間を取り戻していることだ。

 田原総一朗氏や筑紫哲也氏とはタイプの違うTVが生んだスター・ジャーナリストだ。課題は池上氏が古巣のNHKを含めたテレビ報道のあり方ついて斬り込めるかどうかだろう。彼ならできそうな気もするが。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 イスラム国による人質事件一色だった誌面にややバラエティがでてきた。今週は週刊誌ならではの記事を楽しんでください。

第1位 「心に魔物を育てた老女殺害『名大女子学生』19歳の履歴書」(『週刊新潮』2/12号)
第2位 「酔い潰れた私はみずほ幹部行員にレイプされた」(『週刊ポスト』2/20号)
第3位 「『高倉健の最期』養女が初めて綴った!」(『週刊文春』2/12号)、「高倉健さん『伝説の授業』を入手」(『週刊現代』2/21号)、「未発表ヌードを発見! 児島美ゆき」(同)

 第3位。文藝春秋が『永久保存版 高倉健 一九五六─二〇一四』を出したが、その中に健さんの養女になった小田貴(50)さんが文章を寄せている。
 『文春』がその抜粋を掲載。18年間健さんのそばにいて最期を看取った貴さんの言葉を紹介してみよう。

 悪性リンパ腫が判明し、昨年4月から百日間の入院を余儀なくされたとき。
 「高倉は担当医に『先生、何もしないとどうなるんでしょうか?』と、冷静に問いました。教授が答えて下さいました。『死にます』。それまで、帰ろう、帰ろうと入院を嫌がった高倉でしたが、『人間いずれは死ぬんだけど、まだ、死ぬわけにはいかないんですよね。仕事があるんです。じゃあ、お願いします』とそれまでの抵抗が嘘のようにあっさり治療を承諾したので、皆、拍子抜けしました」

入院中は、
 「夕食の献立として最も喜んだのは、大量のガーリックチップを添えたフィレステーキ。グリーンサラダとフルーツとともに満足の笑顔が戻る時でした」

 病状が急変したのは11月9日のこと。
 「苦しい呼吸の中、一生懸命言葉を発し続けてくれました。最後に聞きとれたのは、『慌てるな、慌てるな』でした」

 目を閉じた顔は安らかだったという。
 「2014年11月10日午前3時49分、担当医による告知。モルヒネが使われることなく、高倉は自分の力で生き切り旅立って参りました」

 先日、『現代』に載っていた健さんが好きだったというアップルパイを注文して食べてみた。林檎の甘みをいかした上品な味だった。

 『現代』には2012年11月22日に早稲田大学で高倉健が「授業」をしたときのグラビアが掲載されている。
 これは健さんと付き合いのあった毎日新聞客員編集委員で同大学大学院非常勤講師の近藤勝重氏が受け持つ授業を、健さんが受講したいと言ってきたことから実現したそうだ。
 学生の数は15人。幸せな奴らだ。この日は文章論と演技論を絡めて話をしたと近藤氏は話している。
 続けて健さんが学生たちの質問に答える「特別講義」になった。
 「近藤さんから(流浪の俳人だった)山頭火の句をいただいて、これがまたいい句でしてね。
〈何を求める風の中ゆく〉
 たぶん山頭火はダウンコートをもっていたわけじゃないと思いますから、つらかったと思いますよ。でも、何かを求めて行ったんですよね。何を求めたかということ。これが一番大事なんです」

 デ・ニーロ主演の映画『ディア・ハンター』についても熱く語り、こうも言っている。
 「国がやった間違いを書かないとジャーナリストはたぶん駄目なんだと思いますよ」

 その通りだね、健さん。

 その健さんと一時期付き合っていたと告白した女優・児島美ゆきのヌードを『現代』は袋とじにしている。
 03年のものだというから、健さんと付き合っていた時期からだいぶ後になる。50代初めの彼女は、体もお顔もやや衰えが目立つ。こういう身体が好みだったのか健さんはと、ややガッカリ。

 第2位。次は、みずほ銀行の30代の総合職女子行員が、幹部行員にレイプされたと告白している『ポスト』の記事。
 都内のみずほ銀行の支店に勤務するA子さんは昨年の11月の終わり、個人営業をかけていた会社経営者から会食の誘いを受けた。同僚男性と、その上司で40代後半の管理職の男性Bに同席を頼んで高級フレンチの個室で食事をしたが、経営者の飲むピッチにあわせて飲みすぎ、管理職の男Bに送られて自宅へ帰る途中で記憶を失ってしまった。
 気がつくと自宅で裸にされていて、その男Bが覆い被さってきて彼女を犯したというのだ。
 翌日、休暇を取り自宅で呆然としている彼女にBからショートメールが何通か入る。同日、一緒に仕事をしている先輩から連絡があったとき、「実はこんなことがあった」と話すと、「僕に預からせてくれ」と言われた。
 以来、人事部から当日の詳細を聞かれ、支店長から「Bと接触するな。会社を休め」と言われ、4日間の休みを取る。
 だが、Bへの処分は遅々として進まない。そこでA子さんは父親を同行して支店長、人事担当者と面談する。彼らは「銀行として早急に対処する」と断言するが、銀行側が彼女に言ってきたのは、部署を異動しないかなど、彼女を「黙らせる」案を持ってきただけだったという。
 やがて彼女は、会社は自分を辞めさせたいのだと気づき、1月末に警察に被害届を出す。『ポスト』は「証言が事実なら、B氏の行為は準強姦罪に問われる可能性があり、それが職務中の出来事である以上、みずほ銀行の対応も問題視されよう」と指摘する。
 A子さんは「この事件をきっかけに社内の悪しき体質が変わってくれることを心の底から望んでいます」と話しているが、これを読む限り「臭いものには蓋」をする銀行という組織の体質は変わっていないと思わざるを得ない。
 だが「事件」から2か月以上が経っている。警察がこの件をどう処理するのか、気になるところではある。

 第1位。さて、国外だけではなく国内でも暗い事件ばかりが続くのは、日本という国が下り坂を滑り落ちている証拠なのだろうか。
 19歳の女が77歳の女性を惨殺した事件は、ノーベル賞受賞者を輩出した名古屋大学の現役大学生という点でも驚かされた。
 多くの雑誌で特集を組んでいるが、やはり「事件の新潮」と言われているだけあって、『新潮』の記事は読み応えがある。
 それに『新潮』は他誌が少年法を遵守して匿名なのにも異を唱え、名大理学部1年生の実名を出している。2000年2月に出された大阪高裁判決で「社会の正当な関心事であり凶悪重大な事案であれば実名報道が認められる場合がある」との判断が下されているのに、他のメディアはなぜ出さないのかという問題提起だ。
 私が現役の編集長だったらどうしただろう。「人を殺してみたかった」という犯行動機は許されるものではないと私も思うが、各誌を読む限り、彼女は以前からそうとう病んでいたと思われる。今のところ別の殺人事件に関与しているとも思われないから匿名にするだろう。よってここでも実名は伏せておく。
 この女と被害者・森外茂子さんとの接点は、森さんが新興宗教「エホバの証人」(ものみの塔聖書冊子協会)の古参信者で、昨年10月に勧誘がきっかけで知り合ったという。
 二人は急速に仲良くなったようだが、12月7日、女子大生が自室に森さんを請じ入れ、斧で背後から頭部を殴りつけた後、森さんのマフラーで首を絞め、遺体を浴室に置いた。
 森さんの捜索願が出され、仙台市の実家に帰っていた女子大生に県警が連絡し、アパートに戻ってきた彼女に千種署署員が部屋を見せるように言ったところ拒んだため、踏み込み浴室で森さんを発見した。
 仙台市青葉区で暮らす両親の家は豊かで、彼女のピアノの腕前は、母親がコンクールにも出られるほどの腕前だと話すほどだという。
 だが、中学時代から斧やカッターナイフを所持し、友だちの飼っている猫に向かって「これで尻尾を切ったらどうなるんだろう」と言ったり、彼女の周辺で猫の変死が相次いで起きたことがあったという。
 高校ではクラスの男子生徒が突然視力を失い、杖なしでは歩けなくなる状態になった。かろうじて失明は免れたが今でも障害が残っている。その症状からタリウム中毒の疑いが濃厚で、今回の事件後の女のアパートからもタリウムと思われる薬品が押収されたといわれる。
 酒鬼薔薇聖斗(さかきばら・せいと)やタリウムで母親を殺そうとした少女を好きだとツイートし、「日常を失わずに殺人を楽しめることが理想なんだと思う」「名大出身死刑囚ってまだいないんだよな」ともツイートしていたそうだ。
 「殺すのは誰でもよかった」殺人が増えるのはどうしてなのだろうか。だいぶ前に言われた「衝動殺人」とは違うようだ。こうした犯罪を事前に抑止する意味でも、彼女の取り調べや精神鑑定の結果などを公表し、社会全体で考えていくことは必要であろう。いたずらに少年法で守り、すべてを闇に葬ってしまっては、こうした事件の再発を防ぐことはできない。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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