厚生労働省の「ホームレスの実態に関する全国調査(概数調査)結果」によると、2014年1月現在、確認されたホームレスは7508人(男性6929人、女性266人、不明313人)。

 リーマンショックのあった2008年調査の1万6018人と比べると、その数は半分以下まで減少したが、この調査の対象は公園や河川、道路、駅舎などで寝泊りしている人の把握にとどまっている。特定の家を持たない人は、深夜営業のネットカフェやファーストフード店、サウナなどで夜を明かすことも多く、潜在的なホームレスは、この調査より多いことは想像に難くない。

 「ホームレスになるのは、きちんと仕事をしてこなかった本人が悪い」といった自己責任論が展開される場面が多い。しかし、NPO法人「ビッグイシュー基金」の『若者ホームレス白書』によると、若者ホームレスの8割以上が正社員として就職した経験があると答えている。だが、転職を繰り返したり、リストラにあったりしているうちに、再就職が困難となり、製造業派遣や短期アルバイトなどの不安定就労につかざるをえなくなる。そして、派遣切りにあったと同時に、それまで暮らしていた社宅や寮などを追われて路上生活を送るようになっている。

 転職したり、リストラにあったりする可能性は誰にでもある。その些細な出来事がきっかけとなり、最終的には家を失うという悪循環に陥っているのだ。特別な人だけがホームレスになっているわけではない。

 だが、一方で、同じ状況でもホームレスになるのを踏みとどまった人もいる。決定的な違いは、頼れる家族や親戚、友人などの存在と、福祉や就職のための情報があったかどうかだ。

 『路上脱出ガイド』は、ホームレスに仕事を提供して自立を応援する「ビッグイシュー基金」が、路上生活者が命を失うことなく、自立への道を歩めるように必要な情報を一冊の冊子にまとめたもの。「食べ物がない」「体調が悪い」「泊まる場所がない」「仕事をしたい」「生活保護を申請したい」などと思ったときに、どう行動すればいいのかを具体的に紹介している。

 ビッグイシューでは、リーマンショックの翌年の2009年に大阪、東京から配布を開始。現在は、札幌、名古屋、福岡、熊本を加えた全国6都市で、路上で暮らす人々に、自立への道を歩むための情報を届けている。そして、実際に、ガイドを読んで自立への道を歩み始めた元路上生活者もいるという。

 最近は、図書館でも『路上脱出ガイド』を置いているところが増えている。また、ビッグイシューにメールや電話で連絡すれば、郵送料の負担のみで、ガイドを送ってもらうことも可能。一部地域では、ウェブ上からPDFをダウンロードできるようにもなっている。 もしも、あなたの周囲に「もしかして、家がなくて困っているのでは?」と感じる人がいるなら、このガイドを渡してみてはいかがだろうか。それが、彼らの路上脱出の応援になるかもしれない。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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