オウム真理教が起こしたサリンによる同時多発テロから20年が経った。死者13人、負傷者6300人以上を出した事件は、大きな傷跡を残しいまだ癒えていない。

 95年、私は『週刊現代』(以下『現代』)編集長だった。年明け早々に阪神淡路大震災が起きて、その衝撃が残っている3月20日、朝8時ごろ都内を走る地下鉄内でサリンがばらまかれた

 假谷清志(かりや・きよし)さん拉致・殺害で警察の強制捜査を怖れた麻原彰晃教祖が命じた卑劣なテロだが、当時オウムはイラン・イラク戦争で使用され、特効薬のない「マスタードガス」の製造にも成功していたといわれる。もしそれが使用されたら被害はさらに大きくなっていただろう。

 この年、週刊誌はオウム一色だったといってもいい。自慢話のようで恐縮だが、この事件報道で『現代』はスクープを連発した。古参幹部・岡﨑一明の手記「坂本堤(つつみ)弁護士一家殺害事件」、警視庁内部にもいたオウム信者(この報道によって1年間警視庁管内は取材拒否になる)、麻原の主任弁護士だった横山昭二氏(通称ヨコベン)の手記およびグラビア取材(入浴シーンあり)など数え上げれば切りがない。

 村上春樹氏に地下鉄サリン事件を扱ったノンフィクション『アンダーグラウンド』(講談社文庫)があるが、この取材にも『現代』は協力している。

 そして新年合併号に掲載した「麻原彰晃の検事調書全文一挙公開」である。当時、警察や検察は、逮捕した麻原の調書は一通もないとメディアに語っていたが、それが嘘であることを白日の下にさらした。さらに麻原の自白内容が、一連の事件は部下の信者たちが勝手に起こしたことで、自分は関与していないという内容だったため、メンツを潰されたと怒った東京地検から恫喝(どうかつ)されたが、裁判も始まっていない前の自白調書がメディアで公開されたのは、前代未聞であった。

 地下鉄サリン事件では麻原こと松本智津夫(ちづお)と信者9名に死刑判決が出て、信者4人の無期懲役が確定している。

 しかし、麻原オウムが行なった事件の全容やオウムが目指したといわれる「日本占領」計画の全貌はいまだに明らかになってはいない。それは麻原死刑囚が裁判で何も語っていないからである。

 今週発売された週刊誌にはオウム関連の記事が散見される。『週刊朝日』(3/27号、以下『朝日』)には、サリン事件の被害者の話や、オウムからサリンやVX液攻撃されても、オウムの平田信(まこと)容疑者(逃亡していたが2011年12月に出頭)らの弁護をしている滝本太郎氏の話などが載っている。

 さらに『朝日』は、最盛期在家信者1万4千人、出家信者1400人いた信者数はサリン事件後1000人まで減ったが、残党信者はいま増加していると報じている。

 「組織の再興に取り組み、99年に1500人まで回復。その後も微増の傾向を示している。2007年、オウムは現在『アレフ』を名乗る主流派と上祐史浩(じょうゆう・ふみひろ)氏(52)が率いる『ひかりの輪』の両派に分裂。昨年の信者数は両派を合計して1650人。いずれも依然、麻原の影響下にあるとされる」

 資産額も00年に比べて17倍以上も増加して6億9000万円にもなるという。同誌でオウム信者たちの「脱洗脳」を手がけてきた脳機能学者の苫米地英人(とまべち・ひでと)氏は、事件実行犯の受刑者や死刑囚の洗脳は「解けているかは極めて怪しい。薬物を使った洗脳は簡単に解けるものではない」と話している。

 「麻原死刑囚が収監されている東京拘置所(葛飾区)の周辺は、『麻原のエネルギーが強い』という理由から、信者の間では“聖地”とされている。ぶつぶつと何かを唱えながら巡礼する信者が近所の人の間で、たびたび見かけられている」(『朝日』)

 麻原死刑囚の「呪縛」は、事件当時幼かった彼の子どもたちにも及んでいる。『朝日』は麻原の四女(25)の、『現代』(3/28号)は三女(31)のインタビューを掲載しているが、それぞれの父・麻原への気持ちは違っている。四女はこう語る。

 「私は父の死刑は執行されなければならないと思っています。父が死刑になったからといって、亡くなられた被害者の方が帰ってくるわけではありませんが、何度死刑になっても償いきれない罪を父は犯しました。(中略)
 やめようとは思っても、今でも自殺未遂を繰り返してしまいます。実を言えば、法律できちんと裁いてもらえる父がうらやましくもあります。たとえ死刑であっても自分がすべき償いの方法が決まっているのですから。私はどう償えばいいのかもわからないのです。生きていていいのだろうかと毎日考えています」

 事件当時アーチャリーとして知られていた三女は、実名で彼女の写真も1ページ大で掲載されている。彼女は講談社から『止まった時計 麻原彰晃の三女・アーチャリーの手記』を出すそうだ。

 その本を読むと彼女は「今もなお父に対する強い愛情を抱いていることがうかがえる」(『現代』)そうだ。04年9月に、彼女は裁判所で麻原と再会を果たしたそうだ。

 「九年以上も夢に見た『尊師!(お父さん!)』と思わず叫ぶような感動の場面はありませんでした。それでも、『父』に会えているという喜びで感無量になり、(中略)父の姿は涙でかすんでいました」

 またこうも書いている。

 「父について多くの批判があることは、身にしみています。/それでもわたしは、父が事件に関与したのかについて、今でも自分の中で留保し続けています。/父を守れる者が子どもしかいないなら、わたしだけでも父を信じよう/世界中が敵になっても、わたしだけは父の味方でいたい

 この発言には多くの批判が集まるであろう。だが、それだけオウム事件が残した後遺症は大きく、事件の解明が十分なされていないことの証だと、私は思う。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は珍しく『週刊現代』がスクープし、国会でも取り上げられたNHK籾井(もみい)会長の公私混同スキャンダルが第1位。それにしてもこの会長、早く辞めさせないとNHKの恥だけではなく、日本の恥になりかねない。

第1位 「『みなさまのNHK』が『オレさまのNHK』になった日」(『週刊現代』3/28号)
第2位 「小泉今日子と豊原功補『連泊の大人愛』」(『フライデー』3/27号)
第3位 「『米ネットTV』上陸で日本のテレビ局が全滅する!?」(『週刊ポスト』3/27号)

 第3位。私は知らなかったが、この春に発売された新型テレビのリモコンには、今までの地上波やBS、CSに加えて、もう一つのボタンが付いているそうだ。それは「NETFLIX(ネットフリックス)」といって、映画やドラマなどをインターネットを介して配信する米ネットTV最大手で、今秋から日本でサービスを開始すると『ポスト』が報じている。
 ここは世界的に大ヒットしたオリジナルドラマの自主製作も手掛け、アメリカでは既存のテレビ局(地上波、衛星、ケーブル)よりも影響力のある「新興ネットTV」として認知されているという。
 同社は宅配のDVDレンタル会社として97年に創業し、09年に定額見放題で映画やドラマを配信するサービスを始めて爆発的に成長した。現在の料金は月額7.99ドルで、13年の売り上げ高は約43億ドル(約5200億円)だそうだ。
 2年間で株価は6倍、時価総額は約200億ドル(約2兆4000億円)にまで跳ね上がった。

 「成功の理由のひとつは、豊富な資金力を背景にしたオリジナルドラマだ。13年2月に配信開始された政治サスペンスドラマ『ハウス・オブ・カード』の制作費は120億円(1億ドル)。監督に実力派デビッド・フィンチャー、主演にアカデミー賞俳優のケビン・スペイシーを起用するなど、ハリウッド映画にも引けを取らない豪華メンバーを実現した」(『ポスト』)

 私も最近録画して見ているのはBSばかりだが、地上波のお笑い芸人ばかり出てくる番組は騒々しいだけで時間の無駄だ。
 『ポスト』がいうように「電波利権にあぐらをかいてきた日本の『テレビ60年体制』はいよいよ終焉を迎えようとしている」かどうかわからないが、確実にテレビの影響力が低下しているのは間違いない。

 第2位。キョンキョンといえば小泉今日子のことだが、彼女の大人の恋が話題のようだ。『フライデー』が目撃した様子をこう書いている。

 「ポツリポツリと言葉を交わしては、見つめ合い、笑顔になる。まるで長年連れ添った夫婦だ。
 そして──時が過ぎて、深夜0時。
 キョンキョンと豊原が席を立つ。時間差で店を出ると、二人は距離をとって歩き始めた。だが、明るい商店街を抜けるとその距離が3m、2m、1mと縮まる。そして最後には、豊原が先行する形で、一緒にキョンキョンの自宅へ。(中略)
 キョンキョンが再び姿を見せたのは翌日夕方。豊原に至っては、彼女は出かけた後に愛車のジープで彼女の家から外出するという有り様。19時間近い滞在もスゴイが、彼が合鍵を持っていることに驚いた」

 袋とじ2つで8ページはやりすぎだとは思うが、芸能界入りして間もなく35年になろうとする小泉今日子(49)と俳優・豊原功補(こうすけ・49)との“大人の恋”熱愛現場中継だ。こんな会話もしている。

 「ごはん、炊かなきゃだね」
 「当然だろ」
 「硬めがいいんでしたっけ? 柔らかめがいいんでしたっけ?」

 『文春』も小泉を取り上げ、芸能界のドンといわれている周防郁雄(すほう・いくお)氏の「バーニングプロダクション」から独立したことを報じている。 豊原については「ボクサーを目指したこともある身長一七九センチの肉体派。『平清盛』(NHK)や『時効警察』(テレビ朝日)などテレビドラマの他に、舞台でも活躍している。小泉とは〇三年にドラマ『センセイの鞄』で共演している」と書いている。
 小泉と周防氏の関係は「芸能プロ社長と所属タレントの関係を超えた父と娘のようでもあった」(『文春』)といわれるのに、小泉がなぜ独立を? 背景には最近「バーニング」に国税が入ったことなどが絡んでいるのではないかと『文春』は推測しているが、周防氏も了解した独立のようだ。
 小泉が代表取締役の個人事務所の名前は「明後日」。それは豊原の個人事務所の中にあるというから、この大人の恋は本物のようである。

 第1位。さて『現代』が久々のクリーンヒット。NHKの籾井勝人会長の公私混同を告発している。
 筆者はノンフィクション・ライターの森功(いさお)氏。籾井会長はハイヤー使用が私的なのに会社に払わせたというのである。

 「内部告発のあった籾井会長のゴルフプレイ日は、今年の正月2日だった。場所は東京都小平市にある『小金井カントリー倶楽部』だ。同クラブは37年(昭和12年)にオープンした日本でいちばん古い名門中の名門のゴルフ場である。会員数445人限定、田中角栄が通ったことでも知られる。(中略)接待ゴルフならまだしも、プライベートなのに、局の車で往復。その事実をつかんだ関係者が、NHKの総合リスク管理室に電話してきたのである」(森氏)

 そうして内部調査が開始されたが、籾井会長がゴルフに公用車を使っていたのは紛れもない事実で、籾井会長もそれを認めたが、

 「プライベートなゴルフなので、あとでハイヤーの代金を支払うつもりだったんだ」

 と言い訳をしたそうである。そんな子どもじみた言い分が通用するはずはない。
 1月2日の正月ゴルフにかかったハイヤー代は税込みで4万9585円。しかもこの代金はすでに会社が払っているそうだ。

 「つまり、いくら本人がポケットマネーで払うつもりだったと言い張っても、しょせんあと付けでしかないのである」(同)

 これだけでも会長辞任ものだが、安倍首相の威を借る狐の籾井氏にはそんなことさえわかるまい。
 3月16日の朝日新聞は朝刊で早速「NHKの籾井勝人会長が今年1月2日、私用でゴルフに出掛けた際に利用したハイヤー代が、NHKに請求されていたことがわかった。NHK経営委員でつくる監査委員会が、内部の指摘を受けて経緯を調べている。籾井会長は後で代金を自己負担したが、NHK関係者によると、支払ったのは監査委が調査を始めた後だったという」と報じたが、ここには『週刊現代』がスクープしたとはまったく書かれていない。いつもながら困ったものだ。
 籾井会長はすぐに参考人として呼ばれた参議院予算委員会で、NHKを通して発注した車両を私用で使っていたことを認めたが、「菅義偉(すが・よしひで)官房長官は16日午前の記者会見で、籾井会長のハイヤー報道について、『私が承知する限りにおいては全く問題がない』との認識を示した」(asahi.comより)という。
 安倍首相のお友達の「困ったちゃん」のひとりは、図々しさだけは一人前である。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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