私が小学校に上がる前のことだから60年以上昔のことになる。私の父親は読売新聞に勤めていた。野球を見るのもやるのも好きで、よく日曜日には多摩川にある社のグラウンドに練習に行っていた。

 気が向くと私も連れて行かれ、練習試合を隅のベンチに腰掛けてぼんやり見ていたことが何度かある。

 あるとき、グラウンド隅の入り口から、ユニフォームを着たオジサンが私のほうに歩いて来て、「君は何しているのかね」と聞く。父親が野球をしているので見ているのだと言うと、いったん走り戻ったオジサンが、その頃は欲しくてもなかなか買ってはもらえなかった森永キャラメルの小箱を10個以上も抱えて、「これでも食べて見ていなさい」と私にくれたのだ。

 試合が終わった父親がキャラメルの箱を見つけ、どうしたのだと聞いた。ユニフォームを着たオジサンがくれたと答えると、さらにどんな人だったと聞く。数字ぐらいは読めたので背番号は「16」だったと言うと驚いた様子で、「それは川上哲治というすごいバッターだよ」と教えてくれた。

 いまはわからないが、その当時は巨人軍の練習グラウンドと読売新聞社は隣り合わせだったのだ。

 川上がどんなバッターかは知らなかったが、あのときもらったキャラメルのおいしさが、私を父親と同じ熱狂的な巨人ファンにさせことは間違いない。巨人・大鵬・卵焼き。野球は巨人、司会は巨泉。フライデー編集長時代、巨人が負けたとわかった瞬間、編集部のゴミ箱を蹴って壊したことがあった。そのときいた編集部員たちの呆れた表情が忘れられない。

 前置きが長くなったが、そんな私も、ここ数年は巨人戦よりメジャーリーグを見ることが多くなっている。野茂英雄が切り拓き、松坂大輔や黒田博樹、ダルビッシュ有、田中将大が活躍するMLBを見るには時差の関係でビールに枝豆とはいかないが、日本のプロ野球が失ってしまった「男の夢」がまだ残っている世界のように思う。

 MLBで強打者たちをきりきり舞いさせた松坂と黒田が日本の球場に戻ってくる。松坂は肘の手術を受けて以来本調子にはないようだが、黒田は年齢こそ40歳になったが、ドジャースやパドレスなどからの、20数億円といわれるオファーを蹴ってまで古巣の広島東洋カープに戻るとあって、多くの野球ファンの注目を集めている。

 『週刊現代』(3/28号、以下『現代』)は「さあ、黒田の広島カープを見に行こう!」という特集を組んでいる。

 3月8日に行なわれたヤクルト戦で打者13人をわずか39球で仕留めた圧巻のピッチングに、詰めかけたファンも評論家たちも舌を巻いた。

 メジャー時代も「最後はカープに帰りたい。復帰するからには戦力として帰りたい」と口にしてきた黒田。もう一度広島のユニフォームを着た黒田を生で見たいのはカープファンだけではないが、やはり黒田は広島のファンを忘れていなかったのだ。2007年にFA宣言をした黒田に、ファンたちが熱烈なラブコールを贈ったことを。

 球場全体が背番号15で埋め尽くされ、巨大横断幕にはこう書かれていた。

 「我々は共に闘って来た 今までもこれからも…未来へ輝くその日まで 君が涙を流すなら 君の涙になってやる Carpのエース 黒田博樹」

 ファンの声に後押しされ1年残留。翌年、今度はファンから「1年ありがとう 今度は自分の夢を叶えてくれ」と温かい声援でメジャーへ送り出されたのだ。

 2008年にロサンゼルス・ドジャースに入団し、2012年からはニューヨークヤンキースでプレーした。メジャー7年間で212試合に登板し79勝79敗。防御率3.45。国内では最優秀投手、ベストナイン、ゴールデングラブ賞などを獲得し、MLBでは野茂英雄や松坂大輔に次いで日本人投手史上3人目の開幕投手にもなっている。

 メジャーリーグを代表する投手になった黒田が迷った末に、最後の働き場所として選んだのは広島カープだった。今時珍しい「男気」という言葉が似合うオトコである。

 今年の日本のプロ野球の注目は20歳・大谷翔平(日ハム)と40歳・黒田との夢の対決である。

 だが黒田に心配材料がないわけではない。浜の大魔神といわれ大リーグでも守護神として活躍した元横浜ベイスターズ(現DeNA)の佐々木主浩(かづひろ)は帰国後、十分な働きができずに2年で引退に追い込まれている。

 『週刊ポスト』(3/20号、以下『ポスト』)は、野球を統計学的に分析する指標でよく知られる「セイバーメトリクス」を使って、今シーズンの順位予想をやっている。

 ちなみに昨年は阪神、広島、巨人の順で予想し、結果は巨人、阪神、広島だったが、それほど外れてはいない。パリーグはソフトバンク、オリックス、日本ハムの完璧予想。

 それによると今年は1位・広島、2位・阪神、3位・巨人、以下は中日、DeNA、ヤクルトの順になるそうだ。私は、巨人は3位も危ないと思っている。

 これも『ポスト』(4/3号)だが「原監督も真っ青の異常事態 巨人が弱い」という特集を組み、故障者が続出し、先発投手陣も壊滅して菅野智之1人しかいないと嘆いている。

 元巨人の広岡達朗氏は、原監督にもこう苦言を呈している。

 「原は知恵袋だったオヤジさん(原貢氏)が昨年亡くなってから、何をどうしたらいいかわけがわからなくなっているんじゃないですか」

 監督が自信を失い、選手たちに期待できないのでは、投手力に勝る広島や阪神に勝てるとは思えない。広島は黒田や前田健太が引っ張り緒方新監督の采配がうまく噛めば、91年以来の優勝、いや31年ぶりの日本一も見えてくるのではないだろうか。

 今年いい働きができなければ引退するとインタビューにも答えている黒田だから、来年のことは考えていない。大リーグで切れを増した、ツーシームやシンカーで凡打の山を築く姿を、ビールに枝豆、それに焼き鳥をプラスしてじっくり楽しもうではないか。私は軟弱な巨人ファンだから、巨人もチョッピリ応援しようかな……。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 さて今週は、我々庶民より高いお金をもらっている偉い方々が、どんなことをやっているのかを知らせてくれるスクープを3本紹介しよう。身銭を切らずに政治資金で遊ぶ財務相。中国で女装して踊り狂う日本大使館のナンバー2。株価が上がって一番喜んでいるのは内閣の大臣たちだったというお粗末な話。さあ、怒りを持って読むべし。

第1位 「『安倍内閣』大臣たちの持ち株リスト」(『週刊新潮』3/26号)
第2位 「外務省『中国大使候補』の“女装写真”」(『週刊文春』3/26号)
第3位 「麻生太郎財務相が政治資金で通う六本木ママの店 年間798万円!」(『フライデー』4/3号)

 第3位。『フライデー』が麻生太郎・財務大臣が夜ごと六本木のママの店に通っている姿を載せている。3月も16日までに9回。国会に出席するより、多いのじゃないだろうか。
 この店は「Bovary」でママは雀部(ささべ)敏子氏。日銀OLから銀座のホステスに転身した元モデルだそうだ。60歳を過ぎた今も写真を見る限り容色は衰えていない。
 だいぶ前にも麻生氏の愛人ではないかと噂されたことがある。しかも『フライデー』によれば、麻生氏の資金管理団体「素淮会(そわいかい)」の13年分の政治資金収支報告書を見ると、2月15日の97万円(すごい!)をはじめとして、1年間に798万円がこの店に支払われていたという。しかも政治活動費として。
 麻生さん、株でも立派に利益を出しているのだから、なんで自腹で払わないのかね。この店で勉強会でもあるまい。ましてや財務大臣という日本中のおカネを取り仕切る要職にあるのだから、愛人でも何でもいいが、遊びに政治資金を使うのはやめてくれないか。

 第2位。『文春』のグラビアに茶髪のカツラを振り乱しAKB48のようなスカートをはいて踊っている男性の写真が載っている。どこぞの会社の宴会で撮られた写真かと読んでみると、この男性は中国・北京の日本大使館のナンバー2、和田充広筆頭公使(54)だというではないか。
 和田公使は東大法学部から外務省に入り、その後中国の人民大学に留学したいわゆるチャイナスクールのひとり。中国語を流ちょうに操り、このままいけば中国大使との呼び声もあったそうだ。
 だがこの御仁、王府井の高級クラブに出入りして、そこのホステスをお持ち帰りしていた「噂」もあり、ハニートラップに引っかかるのではないかと心配されていたという。
 先の「女装写真」が撮られたのは2月6日。日本大使館で開かれた懇親会でのことだった。写真は外部にも漏れ、現地メディアや中国の情報当局にも渡っているそうだ。
 中国に神経を尖らせている安倍首相が怒り、指示したのかどうかはわからないが、結局、和田氏は着任わずか7か月で更迭されることになってしまった。
 芸は身を滅ぼすということか。

 第1位。『新潮』によれば、官邸の執務室には刻々変わる株価を映し出す電光掲示板があり、安倍首相はそれを“凝視”しながら一喜一憂しているそうだ。
 ロータス投資研究所の中西文行代表によれば、市場関係者が「クジラ」という符丁で呼んでいる巨額公的マネーが5頭、所狭しと遊泳しているから、日本株買いの余力は27兆円を超えているという試算もあり、まだ上を目指せるという。
 それはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)、もちろん日本銀行、それに国家公務員などの3つの共済、かんぽ生命と続き、最も大きいクジラがゆうちょ銀行だそうである。
 これらの公的資金が株価を釣り上げているから、当面、日本株は「買い」なのだそうだ。
 『新潮』は、そのクジラの運用に影響を及ぼす立場にある政治家たちが、どんな銘柄を保有し、どれだけ儲けているかを調査している。意外なことに安倍首相は夫人の実父が社長を務めていた森永製菓の株だけ4万9000株。昨年6月の閣議決定発表以降、約916万円の「含み益」をもたらしているという。
 もしかすると、安倍首相は本当に株が上がると信じていなかったのでは?
 山谷えり子・国家公安委員長は第5位で、住友不動産、三菱商事など多くの銘柄を持ち、含み益は916万4860円
 第4位は塩崎恭久(やすひさ)・厚労大臣でパナソニック、帝人、全日本空輸など、これまたスゴイ数を持っている。総額1285万9594円の含み益。
 ブリヂストン株は1000株だが、専門家にいわせると追い風が吹いていて、原材料費のコストダウンで収益が上がっていて、いまが買い時だそうだ。ちなみに100株単位で買えるから購入額は50万円弱。
 3位は甘利明・経済再生担当大臣で、保有する株はディズニーランドを運営するオリエンタルランドだけ1000株。それでも株価は倍増し1833万円もの含み益をもたらしている。
2位は麻生太郎・財務大臣で九州電力や西日本鉄道、ブリヂストンなどいくつも保有して、含み益は4148万1258円にもなる。
 堂々のナンバー1は竹下亘(わたる)・復興大臣で、義父が経営する福田組や山陰合同銀行、それに夫人の持ち分を合わせると1億7856万円の含み益になるという。

 さあ、怒りが湧いてきたでしょう。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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