「アジアインフラ投資銀行(Asian Infrastructure Investment Bank、AIIB)」への参加をめぐって、世界の動きが慌ただしくなっている。

 AIIBは、アジア太平洋地域のインフラ整備を支援するために、中国が主導して今年末に設立が予定されている国際開発金融機関だ。

 アジア太平洋地域の途上国支援を行なう国際金融機関は、すでにアジア開発銀行(ADB)が存在している。フィリピンのマニラに拠点を置き、67の国と地域が加盟しているが、こちらはアメリカと日本が最大の出資国。貸出には両国の思惑が色濃く反映される。

 実質的に米ドルを基軸通貨と定めた1944年のブレトン・ウッズ体制以降、米国は国際通貨基金(IMF)と世界銀行を通じて、途上国の開発援助の名のもとで世界の金融を牛耳ってきた。ADBは、その一翼を担う国際金融機関だ。

 過去、IMFや世界銀行などが行なった途上国支援では、対外債務の返済に支障をきたした国に対して「構造調整プログラム」が強制された。このプログラムは、教育や福祉など公共サービスの削減、水道や電力など国の事業の民営化、多国籍企業参入のための規制撤廃などを強制的に推し進めるものだった。その結果、貧困の解消のために行なわれたはずの融資が、逆に新たな貧困をつくり出し、世界中のNGOから激しい批判を浴び「債務の帳消し」を求める声が上がることになったのだ。

 IMFや世界銀行からの融資には、構造調整プログラムで受けた傷に対するアレルギーもある。だが一方で、近年、アジア各国の経済成長に伴い、地域内におけるインフラ整備には2020年までに毎年8000億ドルが必要になると見込まれている。融資に厳しい条件や管理が伴うADBとは別の枠組みで、その資金を調達するのがAIIBの目的だ。

 ただし、AIIBの組織運営や融資審査基準などが不透明と言われており、アメリカや日本は距離を置いている。だが、中国の楼継偉(ロウ・ジィウェイ)財務相は3月22日の国際会合で「AIIBは途上国中心の国際機関であり、途上国のニーズをより考慮する必要がある」と発言。

 インフラ需要の多いアジア太平洋地域への投資は、欧州諸国にとってはビジネス拡大のチャンスでもあるため、当初は参加に難色を示していた国々も徐々に態度を軟化。アメリカの友好国であるイギリスが参加を表明したのを皮切りに、イタリア、ドイツ、フランスなどが雪崩をうって参加に転じた。3月31日現在、51か国・地域が参加表明しており、日本は微妙な立場となっている。

 AIIBが設立されれば、1944年のブレトン・ウッズ体制以降、米ドルを中心に回ってきた世界の金融地図を大きく塗り替える可能性を秘めている。

 現在、証券会社や銀行などでは、世界銀行やADBの債券に投資する投資信託が販売されているが、近い将来、そのラインナップに、アジアのインフラに投資する「AIIBファンド」なるものが登場するかもしれない。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1700冊以上(総額750万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る