春と夏の真ん中にあたる立夏。5月5日の端午の節句には、粽(ちまき)を食べたり、菖蒲(しょうぶ)湯に入ったり、日本人は昔から神秘的な力を借りて邪気を払う風習を守ってきた。薬玉はもっとも古くから宮中で行なわれてきたまじないの一つで、菖蒲、蓬(よもぎ)、麝香(じゃこう)、沈香(じんこう)、丁字(ちょうじ)などの薬草や香料を丸めて錦の袋に入れ、季節の花や造花を挿して飾り、五色の糸を長く垂らしたものである。これを柱などにかけて魔除けとし、招福や長寿のめでたいしるしとした。このような風習は、室町時代には武家や一般の人にも広まっていたと伝えられており、薬玉を文様化した薬玉文(くすだまもん)は、端午の節句を代表する文様の一つになっている。また、お祝いの席などで、頭上の玉を割って華々しい紙吹雪を散らす「くす玉」は、この薬玉が原型になったといわれている。

 薬玉と関連するのか詳しくわからないが、旧暦5月5日には薬日(くすりび)という異称がある。日本古代の神話や歌には、この日に野山で薬草や鹿の角を採集する薬猟(くすりがり)を行なったという記録が残されており、時代と共に、摘み草から山遊びなどの行楽へと移り変わっていったという。


1921年(大正10)に発行された「南天荘蔵幅写真帖(井上通泰編、日本巧芸社)」に掲載された薬玉の図。(国立国会図書館「近代デジタルライブラリー」より)


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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