4月1日から、食品表示法による食品表示の新制度がスタートした。これまで、JAS法、食品衛生法、健康増進法のそれぞれに義務付けられていた食品表示を一元化し、消費者にわかりやすくするのが目的。同時に、健康への効果が表示できる「機能性表示食品」制度も導入された。

 新制度では、食品の表示項目が見直されて、アレルギー表示、原材料と食品添加物の区分、製造所固有記号などのルールが細かく変更された。また、加工食品の栄養表示も義務化される。たとえば、ナトリウムは食塩相当量で表示するなど、栄養表示基準をベースに新たな基準が定められることになった。

 だが、食品表示基準が公示されたのは3月20日。4月1日の施行までの期間があまりにも短く、現場からは混乱の声も聞かれている。本来なら十分な周知期間を設けるべきところ、制度改正が急がれたのは、規制改革会議が進めてきた機能性表示食品の導入に合わせたからだと言われている。

 健康効果を表示できる食品は、これまでは特定保健用食品(トクホ)と栄養機能食品のみ。機能性表示食品は、その第3のカテゴリーとして作られたもので、食品表示法のもとで管理される。同制度の導入を急ぐ食品業界の意向で、なかば見切り発車的に食品表示の新制度はスタートしたというわけだ。

 トクホは、国が効果と表示内容を審査・許可するため時間がかかり、認められるためのハードルが高い。また、栄養機能食品は特定のビタミン・ミネラルに限られている。

 だが、機能性表示食品は、論文や実験の結果を消費者庁に届け出るだけでよい。食品の成分が体にどのような効果があるか、一定の科学的根拠を示せれば、事業者の責任で表示できる。

 あくまでも食品なので、「糖尿病の人に」「骨粗鬆症の予防に」など、病気の診断、治療、予防の効果を暗示する表現、「肉体改造」など健康の維持・増進の範囲を超えた表現は認められない。ただ、「血圧が高めの人に」「目の健康に役立つ」などの表現を使って、食品の機能をアピールできるようになる。

 サプリメントや加工食品のほか、魚や野菜など生鮮食品でも届け出が可能(ただしアルコール類は除く)。食品なら幅広く活用できるため、食品業界では市場拡大のチャンスとして期待されている。

 だが、機能性表示食品には、問題も指摘されている。消費者庁は、医薬品と誤解されるような表現のチェックは行なうが、事業者が届け出た論文の中身までは精査しない。業界団体が、機能性表示食品の届出内容を調査する動きもあるが、すべての食品が対象になるわけではないだろう。

 行政によるチェック機構がないため、責任の所在は曖昧になり、健康への効果が不確実なのにも関わらず、機能を謳う食品が出回る可能性も否定できない。いわば、「言ったもの勝ち」の世界だ。

 機能性表示食品は、販売の60日前に消費者庁に届け出ることが義務付けられているため、制度が始まった4月1日早々に届け出たものは、6月になると販売できるようになる。6月以降、スーパーには「抗菌作用の高いブロッコリー」「骨の健康を保つみかん」「目や鼻の調子を整えるお茶」などと表示された食品が目につくようになるだろう。

 だが、それだけ食べていれば健康になれる食品などは存在しない。6月から始まる機能性表示食品ブームに踊らされないように、消費者も冷静に対応したい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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