妙なネーミングである。戦前の1943年に、東条英機内閣の湯沢三千男内務相が東京の府市併存の「二重行政」の解消のため東京都に一元化したことに倣って、橋下徹大阪市長が考え出したものだ。

 東京都一元化は戦時中であったため誰も反論できる状況にはなく、それが良かったのか悪かったのかは、専門家の間ではいまだに議論のあるところである。

 橋下市長の言い分は『週刊現代』(5/23号、以下『現代』)「『大阪都構想』橋下徹が勝つらしい」によるとこうである。

 「約270万人が住み、24の行政区に分かれている大阪市を、5つの特別区に再編する。これまで市が担ってきた、住民生活への目配りは特別区に任せる一方、広範囲にまたがる鉄道や道路などの政策は府(都)が行う」

 大阪の二重行政は以前から「府市合わせ(不幸せ)」と言われてきたように、元府知事の太田房江氏も「大阪新都」を打ち出していたから、これ自体は筋違いではないようだ。

 大阪市内に府立、市立の図書館が建てられ、大阪市がワールドトレードセンタービル(現・大阪府咲洲(さきしま)庁舎)を建てれば、府が関西国際空港の近くにりんくうゲートタワービルを建てるというように、両者が対抗意識を燃やして無駄なハコモノをつくっているのは税金の無駄遣いだと主張する、橋下市長の言い分も頷けるところがある。

 だが、大阪都になれば住民のために使える予算が増えるのか、減るのかが議論の分かれるところである。反対派は「都政移行にコストが600億円かかる」と批判し、橋下側は、行政の統廃合が進めば2033年度までに予算が2762億円増えると主張している。

 民主党も政権を取る前は、無駄をなくせば何兆円かは捻出できると言っていたが、政権を取ったら雀の涙ほどしか出てこなかった。

 『現代』で在阪のジャーナリスト吉富有治氏がこう言っている。

 「橋下氏が大阪府知事になった08年以降も大阪府の借金は増え続け、今では6兆5000億円にのぼっています。総務省の設けた基準で言うと、すでに財政破綻している水準です」

 大阪都構想ができようとできなかろうと、税金を稼ぐ以外大阪が生き延びる道はないのである。

 その方策はあるのか? 橋下市長は企業を誘致して「東京都と並ぶ一大経済拠点にする」と言っているようだが、実現性には疑問符がつけられている。

 カジノ誘致にも熱心なようだが、莫大なインフラ費用がかかるのと、世界的にカジノは縮小傾向にあるそうだから、成功する保証はない。

 『現代』で、橋下市長の本当の目的は市役所を潰すことだと、維新の会の大阪市議が話している。

 「大阪市役所というのは職員から何人も逮捕者が出ているようなメチャクチャな組織。そのくせ、何かやろうとすると抵抗する。(中略)
 自民党市議には、コネで市役所に後援会関係者の就職を斡旋している連中がゴロゴロいます。もし市役所が壊されれば、彼らは猛反発を喰らって選挙で負け、政治生命を断たれかねない」

 このような複雑な背景を抱え、さらに市・府議会でもこの法案は否決されたが、橋下市長は「住民投票」で信を問うという奇手に打って出たのである。

 公明党は自主投票という方針を出したが、自民党大阪府連は安倍首相や菅官房長官の意向を無視して共産党と組むという、ねじれにねじれた争いになった。

 新聞の世論調査では反対派が優勢だったが、橋下市長が乾坤一擲(けんこんいってき)「負けたら引退する」という退路を断った闘いに出てじりじり追い上げ、5月17日の投票結果は予断を許さない状況になったのである。

 東京はもちろん名古屋と比べても地盤沈下の著しい住民たちの不満や、「何かを変えたい」という漠とした期待が膨らみ、『現代』のタイトルように「橋下徹が勝つらしい」と予測する向きも多かったが、結果は約1万票差で反対票が上回った

 橋下市長は記者会見ではさばさばした表情で、12月に市長の任期満了になったら、政界から引退すると明言し、「権力者は使い捨てがいい」と迷言を残した

 『週刊現代』(5/30号)で全国紙の記者がこんなことを言っている。

 「今年12月には大阪市長選がありますが、橋下氏は自分の後継候補を立てて身の振り方を決めるようです。『負けたら政界引退』と囁かれていましたが、単にいなくなるということはないでしょう。
 民主党政権を経て自民党政権が戻ってきた時、ものすごい高支持率でしたが、橋下氏はそれに学んでいます。もし今後一旦退場しても、『やっぱり僕がいないとダメでしょ?』と言って再登場してくる。そのときには、憲法改正の議論もある程度熟している。彼はそこまで計算しているはずです」

 私はこの説に反対である。島田紳助もそうだったが、橋下と紳助に共通するのは「あきらめのよさ」だろうと思う。

 カネもできた名前も売った、これ以上ここにいたらこれからは落ちる一方だから、潔く引くことで名を残し、次のおもしろい何かを見つけることができるはずだと考えるタイプではないのか。

 芸能界も政治の世界も、中に入れば嫉妬と足の引っ張り合いの醜い世界である。安倍首相は、憲法改正に前向きな橋下に期待をしていたようだが、あの憲法を蔑ろにするむちゃくちゃなやり方を見ていて、橋下のほうが嫌になったのかもしれない。どちらにしても「平成の独裁者」を夢見た橋下徹の時代が終わったことは間違いない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は硬派記事に目立ったものがない。早くも夏バテだろうか、誌面に活気がないのが気になる。それは部数にも表れていて、ABCの雑誌販売部数2014年7月~12月が発表されたが、軒並み苦戦している。
 中でも『週刊現代』の落ち込みが目立つ。週刊誌の中では『週刊文春』が首位の座を守り、43万7892部だが、前期比は97.23%、前年同期比だと93.39%である。
 2位が『週刊新潮』で32万5292部、前期比98.75%。3位は『週刊現代』で31万8769部、前期比90.43%、前年同期比だと86.90%と大幅な落ち込みだ。
 『週刊ポスト』は26万0817部で前期比では93.51%、前年同期比だと何と81.63%で、これまたすごい落ち込みである。
 『フライデー』は部数こそ16万3017部だが、前期比104.86%と伸びている。ちなみに『週刊朝日』は9万8450部、『AERA』が6万3687部、『サンデー毎日』が5万3046部、『ニューズウィーク日本版』が3万9513部。月刊誌だが『文藝春秋』が32万4388部で前期比117.09%と健闘している。
 もはや新聞社系週刊誌は危険水域をはるかに超え、いつ休刊してもおかしくない。それに『現代』と『ポスト』が続いているという構図である。この両誌だけではないが読者が高齢化して「死ぬまでセックス」してみたいと思う読者が減っていることは間違いないだろう。
 手遅れかもしれないが、いつまでもセックスのグラビアや記事で読者をつるやり方は早急に考え直したほうがいい。『現代』と『ポスト』の編集長はさぞ頭の痛いことであろう。

第1位 「『日経「私の履歴書」は嘘ばかり!』ニトリ社長に実母が怒りの大反論」(『週刊文春』5/21号)
第2位 「これがJKビジネス『折り鶴作業中』の女子高生だ!」(『フライデー』5/29号)
第3位「日本の女社長31万人『学歴』『出身地』『名前』の秘密がわかった」(『週刊ポスト』5/29号)

 第3位。最初は『ポスト』から。東京商工リサーチの協力で31万人の女社長を調べたそうである。この中には女医が多くいるそうだから、出身大学では日本大学の次に東京女子医科大学が入っているのがおもしろい。それに女性社長は高齢者が多く、平均は62.72歳だそうだ。社長全体では60.63歳だからかなり高い。
 ここで女性社長に多い名前トップ12をあげておこう。順に和子、洋子、幸子、裕子、京子、恵子、久美子、由美子、陽子、順子、悦子、智子だそうだ。
 あなたがこれから女の子を産むとしたら、和子、洋子、幸子がいいのかもしれない。だが、社長になったから幸せになれるわけではないがね。

 第2位。『フライデー』はJK(ジャパンナレッジではなく、女子高生!)ビジネスで摘発された「アキバ観光 池袋作業所」の“現場”を隠し撮りしていた写真を載せている。
 この店は、客が40分5000円を払い、半個室でマジックミラー越しにミニスカ姿の女子高生たちが折り鶴を折るのを眺めるというものだ。
 低い椅子に足をM字形にして座っているため、ピンクのパンツがチラチラ見えたり、壁にもたれかかって足を開いているので純白のパンツが丸見えの少女がいる。
 女の子は5分ごとに入れ替わり、指名もできるそうだ。店側は折り紙作りをさせている「作業所で、その仕事姿を見学するだけ」だから問題ないとしていたそうだが、月に200万円近くの利益を上げていたという。
 その上、『フライデー』によれば罰則は労基法違反しか適用できないので、ほとんど罰金刑(30万円以下)で終わるため、業態を変えてまた始めるケースが多いそうだ。

 第1位。今週の第1位はこれ! 4月1か月間、日本経済新聞の「私の履歴書」に「ニトリホールディングス」社長の似鳥昭雄氏が連載したときは、大変な評判になった。
 その中で似鳥氏は、子どもの頃の極貧生活や、父親の理不尽な暴力、クラスでの陰湿ないじめ、高校進学時にはヤミ米を一俵校長に届けて「裏口入学」、大学時代は授業料を稼ぐためにヤクザを装って飲み屋のツケを回収するアルバイトをやっていたなどと赤裸々に告白した。
 だがその似鳥氏の書いたことに「あれは嘘ばかり」と批判したのは誰あろう似鳥氏の実母であると、『文春』が報じたのだ。
 今や年商約4000億円、国内外に約350店舗を構える家具量販店の雄「ニトリホールディングス」社長の母・似鳥みつ子さんがこう語る。

 「調子に乗って、あることないこと書いて。あの子は小っちゃい頃から嘘つきなのさ。いつも『母さん、母さん』って擦り寄ってきては、私を騙してきた。今回もワルぶって恥ずかしいことばかり書いて。開いた口がふさがりませんよ」

 少し前には「大塚家具」の父と娘の骨肉の争いが話題を呼んだが、家具屋というのはどうも骨肉相食む騒動が多いようだ。しかも、北海道の財界関係者が言うには、骨肉の争いでは「ニトリ」が元祖だという。

 さらに彼女は、息子が自分のことを「鬼母」のように書いているのが悲しいという。父親が応召された後、女手ひとつで子どもたちを命がけで育て、父親は兵隊帰りだったから厳しかったが「虐待なんてとんでもないさ。父さんが殴り倒したのも、年に数回。月一回なんてオーバーですよ」と語る。
 昭雄氏が6歳くらいになるまでは貧しかったが、ヤミ米の仕事を始めてからは豊かになり、家には三輪自動車も白黒テレビもあったそうだ。彼が、米を食べられずに稗(ひえ)や粟を麦に混ぜて食べていたという話も、「私は稗や粟なんて見たことない。うちは米屋だったのに米がないわけないでしょう」と全否定。
 米一俵で裏口入学の件も捏造。大学の授業料も私が出したというのだ。そして、一番腹が立っているのは、家具屋を始めたのは似鳥氏が調べ抜いた末のアイデアだったというところだ。

 「家具屋は父さんがやるっていって始めたの。あの頃、昭雄は親戚の水道工事の仕事に行っていて、家にいなかったんだから。父さんが店を家具屋に改装してから『戻ってこい』と昭雄を呼んだの」

 要は「ニトリ」は家族で力を合わせて作った会社で、昭雄氏が一代で築いた会社ではないと言いたいのだ。
 そのため父親が死んでから18年も経った07年に、母親、弟、妹たちが、父親が残したニトリ株(今では200億円にもなるという)を、不当な手段で昭雄氏が相続したと訴えている。昭雄氏側も徹底抗戦した結果、一審では全面勝訴、控訴審で和解している。
 似鳥氏は広報を通じて『文春』に、日経に書いたことはほんとうのことだが、和解後、母を訪ねたが会ってもらえなかった。生きているうちに「打ち解けたい」と話している。
 だが母親は「もう昭雄の嘘にはうんざり。死ぬまで会うことはない」と言いきる。最後に涙ながらに、昭雄に会ったら伝えてくれとこう言った。
 「『週刊現代』のインタビューで私の年齢を九十六って話していたけど、母さんまだ九十四だって。母親の歳まで忘れて母さんは悲しいって」
 どうやら、こちらの争いは、母親の一本勝ちのようである。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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