安倍晋三首相が今国会会期中に成立を目指している安全保障関連法の一括改正案と国際平和支援法案が、ここへきて圧倒的多数の憲法学者たちから「違憲」だと指摘され、先行きが不透明になってきた。

 『週刊新潮』(6/18号)は、「棺桶に片足を入れた『安保法制』は蘇生できるか?」の中で、6月4日の憲法審査会に呼ばれた3人の憲法学者のうち、自民党推薦の長谷部恭男(はせべ・やすお)早稲田大学大学院教授までが「集団的自衛権の行使は違憲」と発言したのに対して、菅官房長官が会見で、「“違憲じゃない”と言う著名な憲法学者もいっぱいいる」と発言したことをこう揶揄している。

 翌日、朝日新聞の記者から「合憲と判断する憲法学者とは具体的に誰のことか」と質問されて、菅は「有識者(安保法制懇)にも憲法学者がいた」と答えたが、記者から「安保法制懇に憲法学者は1人。“いっぱい”ではないのでは?」とたたみかけられ、しどろもどろになってしまったというのである。

 『週刊朝日』(6/26号、以下『朝日』)で長谷部教授はこう述べている。

 「日本が攻撃された時の個別的自衛権と、外国が攻撃されたときの集団的自衛権はまったく違う。正当化できるはずがありません。いかにも限定的に見える言葉は武力行使を限定する役割を果たしていない。従来の政府見解の論理とは整合せず、枠を踏み越え、法的安定性は大きく損なわれた。憲法違反です」

 要は、自国が攻撃を受けたときの自然権としての自衛権は憲法が認めているが、他国が攻撃された場合に一緒に戦う集団的自衛権は一切認めていない。だから、それをするなら憲法改正しかないという至極当然の論理なのである。

 長谷部教授を選んだのは船田元(ふなだ・はじめ)自民党憲法改正推進本部長だが、自民党内からは「人選ミスだ」と批判が出ている。私の推測だが、船田氏はこうなることを知って選んだのではないのか。

 私が知る限り、船田氏は小泉内閣以降の自民党の右傾化には批判的で、安倍が掲げる「戦後レジームからの脱却」にも否定的である。しかし集団的自衛権を容認して、戦争のできる国づくりに猪突猛進する安倍首相のやり方に党内から批判の声が大きくならないことに危惧した彼が、最後の切り札として仕掛けたのではないのか(希望的観測だが)。

 安倍首相や菅官房長官らは、集団的自衛権が憲法違反であることは十分に承知しているはずだ。だから、憲法の番人である内閣法制局長官に、法制局勤務経験がない元外交官で、集団的自衛権行使容認に積極的な考えを持つ小松一郎氏を無理矢理据え、集団的自衛権について触れていない「砂川判決」を持ち出して、世論に自分たちの正当性を訴えようとしたのである。

 だが『報道ステーション』で憲法学者の木村草太(きむら・そうた)氏は「砂川判決は個別的自衛権についてすら判断を保留している。この判決を集団的自衛権の根拠にしている人は判決文を読んでいないと思います」と批判している。

 国会軽視と批判されることを承知で、夏までには法案を成立させるとアメリカ議会で「確約」してしまった安倍首相は、強行採決しか道はないと思い定めたに違いない。

 維新の党の最高顧問である橋下徹大阪市長と急遽、会談し、採決の時に欠席しないでくれと頼んだようだ。与党だけで強行採決すれば世論の大きな反発を招き、支持率が下落することを恐れてのことであろう。

 これまで日弁連などが集団的自衛権行使は憲法違反だと批判してきたが、週刊誌はもちろんのこと新聞やテレビも大きく報道してこなかった。だが、憲法の専門家たちが「違憲」のお墨付きを与えたことで、一気に批判のボルテージが上がった。

 6月16日付朝日新聞の社説は「国会で審議されている法案の正当性がここまで揺らぐのは、異常な事態だ。 (中略)憲法学者からの警鐘や、『この国会で成立させる必要はない』との国民の声を無視して審議を続けることは、『法治への反逆』というべき行為である」と威勢がいい。

 『報道ステーション』では『憲法判例百選』の執筆者である198人の憲法学者にアンケートを行ない、151人から返信をもらった。

 6月15日にその結果を発表したが、集団的自衛権行使は違憲だと答えたのが132人、違憲の疑いがあるは12人、違憲ではないと答えた憲法学者はわずかに4人だった。本来ならこうしたものはNHKがやるべきものだが、安倍首相の傀儡(かいらい)会長の下ではできないのだろう。

 小林節(こばやし・せつ)慶應義塾大学名誉教授は日本記者クラブで会見し、こう発言している。

 「(集団的自衛権が)違憲というのはもちろんですが、恐ろしいのは、憲法違反がまかり通ると、要するに憲法に従って政治を行なうというルールがなくなって、北朝鮮みたいな国になってしまう。金家と安倍家がいっしょになっちゃうんです。これは絶対に阻止しなければならない」

 『朝日』の連載で田原総一朗氏は、安倍首相の安保政策は2012年に日本に影響力を持つアーミテージ(元国務副長官)とナイ(ハーバード大学教授で元国防次官補が発表した「第3次レポート」の丸写しだったと書いている。

 違憲だと自分でもわかっているのに強行採決しようとしている安倍首相は、アメリカの言うがままなのだ。

 専門家からはダメを出され、自民党OBたちからも反対の声が上がり、支持率も下落している中で強行採決などしたら、それこそ日米安保条約改定で辞任した岸信介の二の舞になる。

 否、岸も憲法を改正したかったのだろうが、まずは日米の同盟関係を見直す安保条約をやってからという「常識」はもっていた。その孫である安倍は、違憲状態を作り上げてから憲法改正に持っていくという、本末転倒どころか「憲法違反」を白昼堂々と行なおうとしているのだ。狂気の沙汰である。

 これがまかり通れば日本国憲法はただの紙切れになる。そうさせないためには主権者たる国民が憲法の擁護者になり、憲法を蔑ろにする安倍の支持率を徹底的に低下させ、怯えた安倍に法案成立を諦めさせることだ。その次には来る選挙で自民党を与党の座から引きずり落とす。

 まずは安倍首相の支持率を下げる国民運動を始めようではないか。もし、安倍首相の暴挙をストップできれば、今年もノーベル賞の候補になった日本国憲法(9条)が、その持つ力を発揮したと評価され受賞するかもしれない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は読んでおくべき記事が多かった。身体をシェイプアップするために高額な料金を取るジムの問題点を指摘したもの。自転車に乗ることを躊躇させる怖~い記事。あの神戸連続児童殺傷事件の加害者の手記に対する反応など、ぜひ読んでじっくり考えてほしい。

第1位 「2カ月で37万円『ライザップ』の客とスタッフが危ない!」(『週刊新潮』6/18号)
第2位 「自転車事故で賠償金9500万円」(『週刊現代』6/27号)
第3位 「あの酒鬼薔薇聖斗はここで生きている」(『週刊現代』6/27号)

 第3位。さて、97年の2月から5月にかけて世を震撼させた酒鬼薔薇聖斗(さかきばら・せいと)事件を覚えておいでだろうか。当時14歳だった少年Aが、山下彩花さん(当時10歳)と土師(はせ)淳君(当時11歳)をむごく殺した神戸連続児童殺傷事件だ。
 あの事件から18年という月日が経ち、長い沈黙を破ってAが太田出版から『絶歌』を6月11日に発売して大きな波紋を広げている。
 出版元である太田出版で編集を担当した落合美砂氏によれば、出版の話は元少年のほうから持ち込まれたという。こんなことが書かれている。

 「僕は知らず知らずのうちに、死を間近に感じないと性的に興奮できない身体になっていた」
 「次から次に近所の野良猫を捕まえては様々な方法で殺害」していったが、「中学に上がる頃には猫殺しに飽き、次第に、『自分と同じ“人間”を壊してみたい。その時にどんな感触がするのかこの手で確かめたい』という思いに囚われ、寝ても覚めても、もうそのことしか考えられなくなった」

 巻末には「被害者の家族の皆様へ」と題された、謝罪と反省の言葉が収められている。

 「自分の過去と対峙し、切り結び、それを書くことが、僕に残された唯一の自己救済であり、たったひとつの『生きる道』でした。僕にはこの本を書く以外に、もう自分の生を掴み取る手段がありませんでした。
 本を書けば、皆様をさらに傷つけ苦しめることになってしまう。それをわかっていながら、どうしても、どうしても書かずにはいられませんでした。あまりにも身勝手すぎると思います。本当に申し訳ありません」

 A自らが書き、タイトルも付けたという。読んでいないので内容はわからないが、『現代』に載ったところを読んだだけでも、身勝手で今に至っても被害者のことを真剣に考えていないのではないかと思わざるを得ない。
 被害者の親たちが憤り、本の回収を求める気持ちはよくわかる。
 また、この手の本を出して話題づくりをしようという出版社の「心根」も私は好きではない。だが、こうした人間の身勝手な言い分があることを、世に知らせることを否定はしない。
 したがって啓文堂書店を運営する京王書籍販売(東京・多摩市)などが、遺族の心情を考慮してこの本を取り扱わないとしたことは理解できない。
 書店は、裁判所が発売禁止にしたり、出版社が回収するといった書籍以外は置くべきであること、言うまでもない。読みたい読者がいる限り、書店が勝手に判断して読者の手に渡らないようにすることは、絶対やってはいけないのだ。
 そういうことを私に言ったのは、酒鬼薔薇聖斗の顔写真を載せた『FOCUS』が批判され、多くの書店が『FOCUS』を置かなかったとき、書店は読者のニーズに応えるためにあると『FOCUS』を置き続けたジュンク堂書店の社長だった。
 多様な言論が民主主義を担保する。多様な言論を踏みにじるこうしたやり方に対して、新聞やテレビは物言わなくてはいけないのに、どこからもそうした意見が出てこないのは、どうしたことなのか。

 第2位。今週一番身につまされたのは、『現代』の「自転車事故で賠償金9500万円」の記事だ。
 『現代』によれば、08年、男子高校生が歩道から車道を斜めに横切って24歳の会社員男性と衝突。男性に言語障害が残るケガを負わせたとし東京地裁では9300万円の賠償命令が下された。
 10年には、スポーツタイプの自転車に乗った会社員の男性(42歳)が、信号無視をして横断歩道に侵入し、横断中の女性(75歳)と激突。女性は意識不明のまま事故の5日後に死亡するという事件が起こり、賠償金4700万円の判決が出ている。
 その事件で被害者側の代理人を務めた正田光孝弁護士がこう語る。

 「自転車は身近な乗り物であるため、深く考えずに乗っている人が多いですが、法律上、自転車はれっきとした『車両』です。免許のいらないクルマなんです。よって事故を起こしたときの損害賠償は自動車事故の場合とまったく変わりません」

 こんなケースもある。小学5年生(11歳)の男の子が乗る自転車が、ブレーキもかけずに突っ込み、追突された69歳の女性は約2~3メートルもはね飛ばされ頭を強打。一命は取りとめたものの脳に重い障害が残った。
 事故の悲惨さをもっと知ってほしいという意味を込めて、その夫が加害者である男児の母親を相手取り、損害賠償請求を起こした。そして13年、大阪高裁は「子供の監督義務を怠った」として、母親に対して9500万円の賠償命令を下した。
 結局、母親は自己破産して1円も賠償金をもらうことができなかったというが、その夫はこう語る。

 「その危険性を国民全員が認識して、自転車保険には、あらゆる人が入るべきだと思います。事故を起こしてからでは遅いのですから」

 日本自転車普及協会理事の渋谷良二氏が話す。

 「今回の法改正(編集部注:改正道路交通法、6月1日施行)により、危険運転に定められている14項目を、3年以内に2回違反をした者は『安全講習』を受けなくてはならなくなりました。違反した者は受講手数料5700円を払い、受講命令を無視すると5万円以下の罰金を払わされます。
 いままでは違反運転をしても、よほどの場合でない限り注意で済みましたが、これからはキップを切って講習を受けさせるということです。(中略)
 一方通行を逆走するのも違反です。一時停止を怠ったり、停止線を超えて止まるのも禁止。イヤホンをつけての運転や、携帯電話を見ながらの運転も摘発対象になりうる。
 もちろん飲酒運転は自転車の場合も論外。もし飲酒運転で事故を起こせば、懲役や罰金などの刑事罰を受けます」

 自転車に乗るのが怖くなってきた。

 第1位。ダイエットブームである。次から次へと怪しげなのが出てくる。少し前に流行ったものに「ビリーズブートキャンプ」というのがあった。だが、あれほどハードなダンスや運動をすれば、誰だって痩せたりムキムキマンになるのは当たり前だと思うのだが、熱に浮かされている人たちはそれに気がつかなかったようだ。
 『新潮』は、テレビCMを1か月に558本も打っている「ライザップ」というトレーニングジムを取り上げ、このままでは「客とスタッフが危ない!」と特集を組んでいる。
 私も目にしたことはある。「2ヶ月で、このカラダ」。そうならなければ「30日間全額返金保証」などと謳い、赤井英和や香取慎吾が広告塔になっている。
 「ライザップ」のCMがいかに多いかは「アメリカンファミリー生命保険(アフラック)」が同期間で半分の279本だったことでわかる。
 ここを立ち上げたのは健康食品の通販を手がける「健康コーポレーション」という会社で、社長は37歳の瀬戸健(たけし)という人物。
 14年3月期の売上高は約239億円。それに対して広告宣伝費は約49億円、約20%にもなる。
 『新潮』によれば「ライザップ」の特徴は、ジムでのトレーニングと炭水化物などの摂取を徹底的に排する「低糖質食事法」にあるという。しかも入会金は5万円で、トレーニングを週2回、2か月で計16回行なう最もポピュラーなコースでさえ29万8000円だそうだ。
 だが、マンツーマンで指導されるというから、トレーナーたちがプロフェッショナルなら、このくらいは仕方ないのかもしれない。
 現役店舗責任者は「現在、全体でトレーナーは800人ほどいますが、その内8割から9割はパートタイマーです。時給は基本的に900円となっていて、ゲスト(客)のトレーニング中は1400円にアップします」と語り、元トレーナーは「ライザップは短い研修で大勢の未経験者をトレーナーにしてしまっており、危険です。(中略)研修を担当している人が、“こんな短期間じゃ使える人材は育たない”とボヤいていましたよ」と話している。
 それに労働時間が長く「中には(残業時間が=筆者注)100時間を超えている人さえいますよ」(現役店舗責任者)というから「まさにブラック企業」(同)のようだ。
 食事制限については、調味料の糖質まで抜けという厳しいものだそうで、しかも短期間で激しい筋トレを行なうから、「これはもはやボクシングの減量の世界で、『あしたのジョー』の力石徹を生み出しているようなもの」(秋津壽男秋津医院院長)。それにトレーニングが終わってからも同じ食生活を維持できなければリバウンドしてしまうそうである。
 そのためかどうか、血圧が高くて降圧剤を飲んでいた客がトレーニング中に失神したり、ヘルニアになってしまった客がいたり、「去年の夏、品川店では、客がトレーニング中に脳卒中になるという“重大な事故”が起こりました」(元トレーナー)
 客がトレーナーの対応に怒って入会金を返せと言うと、会則では「(返金は)会社が承認した場合」(編集部注:会則を変更し、いかなる理由でも30日以内なら全額返金に応じると発表、6月18日付)と書かれていることを持ち出して渋るそうだ。
 瀬戸社長は『新潮』のインタビューに答えてはいるが、いちばん聞きたいトレーナーたちの研修時間の短さや技量アップ問題をどう考えるのかについては質問していないため、私には不満足なものであった。
 ここがインチキジムだとは言わない。これだけの食事制限とハードトレーニングをすれば、それなりの結果が出て当然であろう。それならボクシングジムへでも通ったほうが費用も安くて達成感もあるのではないか。所詮、カネで買った肉体はそうとう強固な意志がなければ維持できないはずだ。
 そんな無理をせず、おいしいものを食べて、新宿御苑や神宮外苑でも散歩していたほうが人生は楽しい。少しくらい太っているほうが男も女も見場がいいと思うのだがね。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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