『スター・ウォーズ』の新作や『アベンジャーズ』といったヒットが最初から見込めるハリウッド映画の場合、シリーズの公開予定が数年先まで決まっている作品が増えている。「三部作」が多いのは、観客が興味を保てる長さとして経験則的なところからきているのだろう。いったんフィナーレを描いて、それでもシリーズを続けたければ、「新三部作」を発表するのが手である。

 これに近い動きではあるが、少々事情が異なるのが昨今の邦画界の「前後編ブーム」である。ブームの背景にあるのは、日本ではマンガを原作とする映画が多いことだ。海の向こうでもアメコミを映画化したヒーローものが多いが、設定やキャラクター造形には監督の作家性が色濃く反映される。一方、日本では原作改変にファンの拒否反応があり、「実写映画で見るマンガ」とでも言おうか、演じる役者の顔が原作マンガに似ているほど、ストーリーが原作通りであるほど高評価となる傾向がある。単行本にして何巻もある人気エピソードを、劇中ですべてこなそうとすると、普通の尺では足りない。前後編ぐらいが収まりがいいようなのだ。

 「前後編」に先鞭をつけたのが、2006年公開の『デスノート』であろう。「マンガ原作のうまいまとめ方」のお手本のような存在になっている。以降、『GANTZ』(2011年)、『僕等がいた』(2012年)、『るろうに剣心』(2014年)、『寄生獣』(2014、2015年)と続き、8月に前編が公開される『進撃の巨人』もおおいに期待されるところだ。

 前後編は、2本分とは言わないまでも予算が余分に確保できるので、CGや特殊効果を多用した映画に向いており、派手なシーンを具現化できる。一方では、まとめて撮影されるので、時間やコストカットの手段としても有効だ。とはいえ、2本とも狙い通りにヒットさせるのは難しい。これまで後編の興行収入が前編を上回った作品はごくわずか。その理由の一つに、長大な原作を端折りながらシナリオ化しているので、原作通りのラストを迎えることにムリが出るということが挙げられよう(公開時に原作がいまだ連載中ということもある)。ひっきょう、原作ファンの観客にとって不満の残る幕切れになりやすいのである。オリジナルでつけたオチが秀逸だった『デスノート』は、後編のほうがヒットしているが、これは例外的ということだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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