和歌山県太地(たいじ)町のイルカ漁が、世界的な非難にさらされていることは報道によって広く知られるところとなった。日本動物園水族館協会としてはそうした非難に対応せざるを得なかったようで、漁を通してイルカを入手するルートは消えた。国内におけるイルカショーの先行きは暗い。なぜなら、イルカの繁殖という手段をとることができるのは、予算の潤沢な水族館などわずかばかりなのだ。

 受難のときを迎えた水族館だが、泣きっ面に蜂、もう一種の「人気者」についても危機的状況である。いま、愛嬌あるしぐさで老若男女を夢中にさせてきたラッコの数が、極端に減っていることにお気づきだったろうか。6月16日の産経新聞の記事によれば、「ピーク時の平成8年には、全国の水族館で118頭飼育されていたが、現在はわずか15頭にまで減少」。

 ワシントン条約で取引が制限されているラッコは、入手が困難だ。ラッコはアラスカなどの北米沿岸に生息するが、現在のところアメリカが取引を禁止している状態で、ここ10年ほど日本に入ってきていない。にもかかわらず、ストレスなどに弱いからか、繁殖もうまくいっていない(ラッコの扱いが難しいことは、国内での飼育が本格化した1980年代前半にはすでに業界でよく知られるところだったそうだ。そこから進展が得られなかった)。いつの間にかラッコの高齢化は進み、いま、次々と寿命を迎えているという。

 もともと、ラッコは水族館という「箱」に適していなかったのかもしれない。しかし、多くの家族連れの足を水族館に向かわせたスターであり、おそらくは自然環境に対する日本人の意識を高める役割も果たしていただろう。だからこそ、なんともさみしい話ではある。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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