自慢ではないが大学時代、第二外国語はドイツ語だったが「Ich liebe dich.」しか覚えていない。

 言葉は話せないがドイツへは何度も行った。西ベルリンで開かれた国際会議に出席した際、東ベルリンへも行ってみた。バスの車体の下まで金属探知機で調べる厳重な検問にはいささか辟易したが、いくつかのビルに戦争中に撃ち込まれた弾の痕を残す東ベルリンの街はしっとりとした落ち着いたたたずまいだった。

大学の町であるハイデルベルクの美しい夕暮れ時、どこからか流れてくる学生たちの歌声に心が洗われる気がしたものだった。

 ドイツと日本の国交は江戸末期に始まり、政治、経済、文化から軍事までドイツから多くのものを取り入れてきた。伊藤博文が大日本帝国憲法を作成するにあたってドイツ憲法を手本としたことはよく知られている。私の世代にはドイツを兄のように慕った明治の人たちの想いがわずかだが残っている気がする。

 だが、第二次世界大戦で敗北したドイツと日本の戦後の歩みはかなり違ったものだった。アメリカの占領下に置かれた日本は、アメリカの影響力の下で経済力をつけてきたが、ドイツは東西に分断され、ソビエト連邦が崩壊した後の1990年に再統一されるまで続いた。

 ともに経済大国となった両国だが、世界からの信頼感にはかなりの差ができてしまった。それは戦争責任の取り方にも表れている。

 以下は、1985年に行なわれた有名なヴァイツゼッカー大統領の演説「荒れ野の40年」(『ヴァイツゼッカー大統領演説集』〈岩波書店〉より)の抜粋である。

 「罪の有無、老幼いずれを問わず、われわれ全員が過去を引き受けねばなりません。全員が過去からの帰結に関り合っており、過去に対する責任を負わされているのであります。
 心に刻みつづけることがなぜかくも重要であるかを理解するため、老幼たがいに助け合わねばなりません。また助け合えるのであります。
 問題は過去を克服することではありません。さようなことができるわけはありません。後になって過去を変えたり、起こらなかったことにするわけにはまいりません。しかし過去に目を閉ざす者は結局のところ現在にも盲目となります。非人間的な行為を心に刻もうとしない者は、またそうした危険に陥りやすいのです。(中略)
 若い人たちにかつて起ったことの責任はありません。しかし、(その後の)歴史のなかでそうした出来事から生じてきたことに対しては責任があります」

 今の日本に決定的に欠けている「過去に対する慚愧(ざんき)の念」がここにはある。こうしたことが、かつて侵略し多くの人たちを殺戮した隣国からの信頼を回復させ、EUの事実上のリーダーと認められるまでになったのである。

 『週刊現代』(7/4号、以下『現代』)は、同じ敗戦国なのに世界の評価がこんなに違うのはなぜかという特集を組んでいる。

 いまや新車販売台数で世界1位となったVW(フォルクスワーゲン社)と業務提携をしたトヨタ自動車の幹部社員が、「技術職の人間は相当辛い目にあったようです。トヨタ側は自社で培った技術を惜しみなく教えるのですが、VW側は一切教えてくれませんでした。『自分たちが世界一の自動車メーカーだ。トヨタから学ぶことなどないし、教える必要もない』と考えていたのでしょう」。仕事中は無駄話をしないし、終わるとすぐに帰ると言っているが、ドイツ人からすると、仕事中でも無駄話ばかりしている日本人のほうがおかしいと思っているはずだ。

 『現代』は、両者の国際的な評価がここまで違ったのは「したたかなドイツ人」と「優しすぎる日本人」の性格の違いだとしているが、浅薄な見方である。

 強靱なドイツ人と優柔不断な日本人だからである。ドイツ在住の作家・多和田葉子(たわだ・ようこ)氏が政治の話をするときの違いについてこう言っている。

 「彼らは自国の社会を批判するときでも、明快で建設的に議論します。頭を使って、言葉を使うこと自体が、彼らにとって高揚感にも繋がっているのでしょう。日本では、そうはなりません。周囲のことや社会、政治に不満があっても、『そんなことは忘れて飲もうよ』となる」

 先ほど言った戦争責任の問題でも賠償問題にしても、ケジメをつけるところはきちっとし、「ギリシャからナチスドイツの非道に対する賠償金36兆円を求められているが、『解決済み』とし、払う必要はないと態度は明確」(『現代』)。要は謝るべき時には徹底的に謝る。日本のように曖昧にして長引かせないのだ。

 メルケル首相の外交手腕も評価が高い。ロシアのウクライナへの軍事拡張にはEU諸国と足並みを揃えて反対したが、旧ソ連がアウシュビッツを解放してくれたことに対する礼を示すため、プーチン大統領と一緒に戦争の犠牲者が眠る墓に揃って花を供えるという、高度な政治力を見せた。

 安倍首相がいろいろな国を回ってカネをばらまいているが、尊敬を集めないのとは対照的である。

 『現代』で、両国の勝敗を見てみよう。今年2月にドイツの株価指数は1万1000ポンドを突破して過去最高を記録した。国民一人当たりのGDPでも、ドイツは4万7000ドル、日本は3万8633ドル。

 14年にドイツは財政黒字になったが、日本は一向に回復の兆しが見えない。自動車でも世界のVIPが乗るのはドイツ製のベンツやBMW。人口は日本がかなり上回っているが、ドイツでは移民を受け入れているため、年々増加している。

 消費税は日本が8%、ドイツは19%だが、食料品や本は7%に軽減されている。月の労働時間は日本が144.6時間、ドイツは115.7時間でドイツのほうが短い。

 失業率は日本が3.4%、ドイツが4.7%で日本の勝ち。出生率も日本が1.41人、ドイツが1.38人で日本の勝ち。ここにはないが3・11を機に2022年までに原発を全廃することを決めたドイツと再稼働に執念を燃やす安倍政権では、圧倒的にドイツの勝ちであろう。

 こうして見てみると、人情やサービスのよさなどの「住みやすさ」では日本に分があるが、国としての成熟度や政治・外交力などの国際的な評価ではドイツの圧勝となる。200年近くたっても「賢兄愚弟」の関係は変わらないようである。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 政権に批判的なことを書く新聞などのメディアには広告を出すなといったバカな作家や政治家の発言が問題になっているが、トヨタクラスの大企業になると、役員が逮捕されても後追い取材は新聞もテレビもほとんどしない。そんなときは週刊誌の出番だが、トヨタの社内規制が厳しいのか、驚くような話は出てこないのがチョッピリ不満だがね。

第1位 「麻薬密輸で逮捕 トヨタ抜擢米女性役員の素顔」(『週刊文春』7/2号)/「トヨタ女性役員が溺れた麻薬『オキシコドン』の快感」(『週刊ポスト』7/10号)/「トヨタVS.警視庁『麻薬』常務をめぐる攻防」(『週刊現代』7/11号)
第2位 「地方局女子アナ『7月デビュー』でAV業界に革命が起きる」(『週刊ポスト』7/10号)
第3位 「山口百恵 息子の明暗 弟は映画年10本も兄はスーパーでライブ」(『週刊文春』7/2号)

 第3位。山口百恵(56)と三浦友和(63)夫妻には息子が二人いて、二人とも芸能界へ進んだが、くっきりと明暗が分かれているというお話。
 弟の三浦貴大(たかひろ)(29)は「いま日本映画界からもっとも期待される存在です。仕事のオファーが殺到し、慎重に選んで断っているものもある状況だそうです。今年、映画だけで十本も出演する“超売れっ子”です」(スポーツ紙芸能デスク)。『RAILWAYS』でデビューし日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。その後も『わが母の記』、高倉健の『あなたへ』などに出ている。
 一方の兄・祐太朗(31)は母と同じ歌手になり、バンドを組んでデビューしたが2年後に活動休止。その後、松山千春の自叙伝をもとにした舞台の主役に抜擢されたが、集客はままならずCDも千枚単位でしか売れなかったという。
 写真で見る限り貴大は両親のいいとこをとり、祐太朗は母親似だが華がなさそうだ。偉大な母を持った二人は、これからどう生きていくのか。父・友和は心配でたまらないのではないかな。

 第2位。AV業界のことなら『ポスト』にお任せと、今週もバリバリ地方の局アナだった女性が7月にAVデビューすることで、業界革命が起きると報じている。
 何しろAV業界の市場規模は『ポスト』によると、映画産業の倍の4000億円超といわれるそうだ。年間3万5000本もの作品が製作されるというから、あるAV監督にいわせると「渋谷のスクランブル交差点で石を投げればAV女優に当たる」というほどだそうだ。
 先の元地方局アナウンサーの芸名は「皆道(かいとう)あゆむ」と言うそうだが、地方局に勤務していたことは間違いないそうである。だがメディアに露出しないのは、いまは一般企業に勤めていて、勤務先にバレるのが怖いからだという。
 ほとんどのAVが顔のクローズアップなどしているのに、バレないのか? メイクを工夫するとわからないそうだが、ホントかね?
 AV女優になりたい女性は多くて、面接しても断ることがあるそうだ。そうした中で需要が多いのは「現役」の看護婦や教師、女医などだそうだ。
 だが「現職」でもそれを打ち出せない職業もあるという。現役自衛官がそれだ。AVメーカー関係者によると、現役の女性自衛隊員は、知っているだけでも5人いるという。

 「バレると自衛隊をクビになるだけでなく、新聞沙汰になり社会的な制裁も受けますから」(AVメーカー関係者)

 亡くなってしまったが、鬼才・若松孝二だったら女性自衛官を主人公にして過激な「ピンク映画」を撮ったのではないか。美人自衛官がイスラム国のゲリラたちを次々に「悩殺」していくような映画かもしれない。

 第1位。今週最も話題なのはトヨタの女性役員の逮捕だろう。だが、新聞もテレビも大スポンサーに気兼ねしてかほとんど続報がない。こういうときは週刊誌を読むしかないのだ。
 6月18日、トヨタ自動車の女性常務役員ジュリー・ハンプ氏(55)が麻薬取締法違反(輸入)の疑いで、警視庁組織犯罪対策五課に逮捕された。超一流企業の役員がなぜ? そう思った人は多いだろう。
 逮捕容疑は、麻薬である「オキシコドン」を含む錠剤57錠を密輸したというものだ。
 『文春』によれば、アメリカのセレブの間でオキシコドン中毒者が増えており社会問題化しているという。薬物依存厚生施設「東京ダルク」の近藤恒夫氏が解説する。

 「もともとは末期ガン患者に使用される鎮痛剤で、医療用麻薬です。モルヒネが効かない患者に使われるため、相当強く、乱用すると多幸感と陶酔感が得られ、抜け出せなくなります。医者の処方箋があれば手に入るので、医師にパイプのあるエリートやセレブを中心に、乱用が広がっています。09年に亡くなったマイケル・ジャクソンも、オキシコドンの依存症でした」

 ハンプ氏は1959年にニューヨーク州クイーンズ地区で生まれた。ミシガン州に移り、州立大学でコミュニケーションを専攻し、同州のデトロイトに本社があるゼネラルモーターズ(GM)に入社した。
 GMでは南米、中東、アフリカの最高広報責任者(CCO)を経て、GMヨーロッパの副社長になったという。そして2012年にCCOとして北米トヨタに移籍し、今年4月、複数の候補の中から本社役員に抜擢されたそうだ。
 『文春』で捜査関係者は「ハンプ容疑者は、取り調べに対して、麻薬だと分かって輸入したことをすでに認めている。強力なヤメ検弁護団を使って国外退去処分は避けたいと考えているようです」と語っているが、このままトヨタにいられるのだろうか(編集部注:6月30日で辞任)。
 彼女が逮捕された翌日、トヨタ東京本社の会見場で豊田章男(あきお)社長は約200人の報道陣を前に、こう話している。

 「ハンプ氏は私にとってもトヨタにとっても、かけがえのない大切な仲間でございます。従業員は私にとって、子どものような存在です。子どもが迷惑をかければ謝るのは親の責任。ハンプ氏に法を犯す意図はなかったと信じています」

 よほど豊田社長に目をかけられているようだが、こうした軽率な間違いを犯す人間が広報の最高責任者では、トヨタの前途に暗雲漂う気がしないでもない。
 『ポスト』で、職場の危機管理を扱う米専門誌『リスク・マネージメント・モニター』編集者のキャロライン・マクドナルド氏はアメリカの職場に蔓延する薬物汚染についてこう話している。

 「14年10月、企業の経営者・幹部など660万人を対象にした大規模な尿検査の調査が行なわれました。その結果、マリファナ、コカイン、覚醒剤など違法薬物を使用している人が4.7%に上った。内訳は,1位がマリファナで2.4、2位が覚醒剤の1.0%、そして3番目に多く使われていたのがオキシコドンで0.8%でした」

 巨額な報酬を手にするアメリカの大企業の経営者たちは、株主たちから成果を求められ、達成できなければクビになるため、プレッシャーがすごいらしい。そのためその緊張をやわらげるために薬に手を染めるケースが多いといわれる。
 失礼だが、今度ソフトバンク入りして165億円も手に入れたインド人副社長は大丈夫なのだろうか?
 『現代』によれば、豊田社長がハンプ常務の逮捕に異議を唱えるような発言が会見であったため、警視庁の逆鱗に触れて本社がガサ入れされてしまったのではないかという声が社内にあるという。
 また、これは日本の大企業を狙い撃ちした外国からの脅しではないかと見る向きもあるようだ。

 「安倍政権が推し進める金融緩和と過剰な円安のために、日本企業は今『調子に乗りすぎている』と、世界経済の中で白眼視されているのが実情です。
 今回の事件には、円安で実力以上に儲けている日本企業に対して、海外から厳しい目が向けられていることが背景にあったのではないでしょうか。トヨタだけでなく、日本の大企業の不祥事が明るみに出ることが、今後増えると見ています」(元外交官で国際戦略情報研究所の原田武夫氏)

 穿ちすぎる見方だとは思うが、もしギリシャでデフォルトが本当に起これば、日本への風当たりはますます強くなることは間違いないだろう。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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