ギリシャの債務危機がユーロ圏だけではなく世界中を震え上がらせている。一小国の危機が国境を越えて日本やアメリカをも直撃する。グローバル金融時代の恐ろしさをまざまざと見せつけているのである。

 ユーロ圏が誕生したのは1999年。ギリシャは2001年1月に移行している。『ニューズウィーク日本版』(7/14号、以下『ニューズ』)によれば、ギリシャがユーロ圏に加盟した当時はすべてがバラ色に見えたという。外国からの投資が押し寄せ、03年には経済成長率が6%を超えた

 「その一方で、ギリシャは債務をため込んでいた。公的部門は多額の年金を支給。休暇シーズンは給与額が2倍になり、年に13カ月分や14カ月分の給与が受け取れる悪名高いシステムが通用していた。その裏では汚職や脱税など、さらに根深い問題がはびこっていた」(『ニューズ』)

 大盤振る舞いできたのは低金利で借金ができ、金融機関は問題を先送りにしてきたからだが、08年に世界金融危機が発生すると大きな打撃を受け、問題が次々と表面化した。

 ギリシャは粉飾決済を続けてきたことを告白した。09年の財政赤字は対GDP比で12.7%にも及び、失業率は現在25%を超えている。

 ギリシャが破綻すれば同じような状況のスペインやイタリアにも波及することを恐れたドイツを中心とするEUが多額の金融支援をし、厳しい緊縮財政をとるよう迫った。だが、あまりの厳しさに音を上げたギリシャ国民は、急進的な「反緊縮」を唱えるチプラス政権を選択し、6月末に行なわれた国民投票で緊縮策に「ノー」という選択をしたのである。

 そのため7月6日の東京株式市場は一時500円超も値を下げ、その後も乱高下を続けた。

 『週刊現代』(7/18号、以下『現代』)はギリシャ・ショックの影響が現れるのはこれからだという特集を組んでいる。

 『現代』によれば「反緊縮」を掲げて当選したチプラス政権には安易にEU側に譲歩することはできないという事情があったが、それだけではないという。

 「ギリシャは仮にカネを返済しなくても、ユーロ圏に居座ることができるのです。そもそも欧州の団結を謳って結成されたEUには、ユーロ圏から加盟国を強制的に退出させる規定というものが存在していないからです。
 すでにギリシャは借金を返すためにさらに借金をするようなサイクルになっている。そこで支援を打ち切られれば、新たな資金を調達することはできなくなります。だが逆に言えば、IMFへの返済も、ギリシャ国債の元本や金利も支払わなくてよくなる。そうした事情を考えれば、無理をしてまで厳しい緊縮策を受け入れなくてもいいわけです」(FXプライム・チーフストラテジストの高野やすのり氏)

 またギリシャがEUから離脱しようとすれば、EU離脱に関する国民投票を新たに行なわなければいけない。したがって離脱するには少なくとも1年から2年程度かかるというのである。

 だが、ギリシャ国民の現状は目を覆うものがあると、アテネ在住ジャーナリストの有馬めぐむ氏が『現代』で話している。

 「財政危機が発覚し、金融支援と引き換えに緊縮政策が開始されて以降、貧困率が特に上昇しているのは18~24歳の若年層。高学歴でも仕事は得られず、仕事にありつけても700ユーロ(日本円で約9万4700円=7/16現在)以上は稼ぐことが難しいため、彼らは『700ジェネレーション』と呼ばれている。
 『小さい子供を持つ家庭の貧困もすさまじいものです。ある財団が貧困層の多い公立小学校の調査をしたところ、17%の家庭が誰一人収入のある人がいない、25%の家庭が毎日の食事に困っている、60%が明日以降の生活に不安があるという切迫した状況であることがわかりました。公立の小学校では空腹の子供が急増し、体調不良や集中力低下の児童が多く報告されています。
 しかも、以前は多くの公立の保育所には給食センターがあったのですが、資金難でこれを閉鎖して安価なランチボックスのサービスを利用するようになった。それも最近は国からの運営費が来ないため、十分オーダーできない保育所が出てきているので、状況は悪くなるばかりです』」

 このところとんとアベノミクスに言及しなくなった安倍首相だが、ギリシャに続いて深刻さを増している中国の株式市場が、アベノミクスでやや持ち直した日本の株式市場を吹っ飛ばしてしまう「危険性」を深刻にとらえているからであろう。

 『現代』(7/25・8/1号)で元中国有力紙の編集委員で著名コラムニストの丁力氏が中国のバブル崩壊についてこう語っている。

 「中国株は、中国共産党が胴元になっている賭博です。共産党は配下に収めている政府機関と官製メディアを使って煽り、2億人以上の国民を株式市場に駆り立てておきながら、あげくその資産を収奪したに等しい。いまや中国全土は大混乱に陥っていて、夥(おびただ)しい借金を抱えて自殺する人も相次いでいます」

 中国政府は株価が低迷した12年8月に『股民(グ―ミン、個人株主=筆者注)』を増やそうと、自分の持ち金の何十倍分も掛けられる信用取引を解禁した。

 このハイリスク&ハイリターンの信用取引に、一攫千金を狙う中国人が殺到し、昨年の深圳(しんせん)証券市場では取引額の37%にあたる27.5兆元(約540兆円)が信用取引によるものだったという。その人たちが今回の暴落で全財産の何十倍もの借金を抱え込んでしまったのである。

 これまで『現代』はアベノミクスで株が上がると鉦や太鼓で煽ってきた。それが「振り返れば、株価が2万868円をつけて『ITバブル超え』と騒がれたのはつい最近、6月24日のことである。『次は96年につけた2万2666円を目指していくぞ』という威勢のいい声が響き渡っていたのが、いまはウソのようである」と意気消沈し、「株も投信も不動産も、まだ傷の浅いうちに逃げ出したほうがよさそうである」とまで言っている。

 ギリシャ危機は当面、欧州連合(EU)のユーロ圏19か国がギリシャへの金融支援再開に原則合意し、財政破綻とユーロ圏離脱は回避される見通しとなった。

 支援額は最大860億ユーロ(約11兆7000億円)にのぼるそうだ。だが、ギリシャ発の金融危機が収束したわけではない。

 『現代』(7/18号)はノーベル経済学賞を受賞した米イエール大学教授のロバート・シラー氏が、現在の米国株は歴史的にも異常なほどに高値警戒感が出ているとして、「この株式市場バブルはバースト(破裂)する可能性がある」と警鐘を鳴らしていると報じている。

 新自由主義という奇形のモンスターが世界中を席巻した結果、いつどこで金融危機が起きてもあっという間に国境を越えて広がり、極東の島国の経済に大打撃を与えるのだ。その悲劇の幕開けは明日かもしれない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週は『新潮』の中川郁子(ゆうこ)代議士の記事が週刊誌的ですこぶるおもしろい。中川代議士はどうということない陣笠代議士だが、記者の質問に切れて(?)応酬するやり方はまさに肉食系そのもの。
 1位の“ユニクロ帝国に陰り”は、私にはかつてのダイエー中内功(なかうち・いさお)氏を髣髴とさせる。何度か一緒に酒を飲んだが、そんなときはどこにでもいる普通のおじちゃんだった。一代で築いた王国は永遠に続くかと思われたが、無理を重ねた拡大路線が仇となり、最後は可哀想なものだった。まさか柳井氏がそうなるとは思わないが、帝国を維持することの難しさを感じているのかもしれない。

第1位 「ユニクロが突然、売れなくなった」(『週刊現代』7/25・8/1号)
第2位 「肉食系『中川郁子代議士』の不倫相手と『再デート』実況中継」(『週刊新潮』7/16号)
第3位 「『寛仁殿下』が『信子妃』に家庭内暴力というひどい嘘」(『週刊新潮』7/16号)

 第3位。『新潮』が『文春』の記事に噛みついている。66歳で亡くなった三笠宮寛仁(ともひと)殿下の奥さん、信子妃(60)が「寛仁殿下の家庭内暴力で長い療養生活を強いられた」と話したことは「ひどい嘘」(『新潮』)だと、寛仁殿下の長女・彬子(あきこ)女王(33)に語らせている。

 「私が見ていた限り、父が母に対して手を上げたことは一度もありませんでした。また、母とは子供の頃から一緒にお風呂に入っていましたが、痣やこぶを作っていたことなど一度もありませんでした。(中略)父が母に対して暴力をふるっていたという話が何の検証もなく、さも事実のようにさまざまな雑誌で書かれてしまい、そのことだけは否定したいと思いまして」(彬子女王)

 これを書いたノンフィクション作家の工藤美代子氏によれば、「結局のところ、10年以上にわたって寛仁殿下は離婚をしたいと望んでいたが、信子妃と麻生家はその切実な願いを拒否し続けたのだ。殿下はそのために心労が重なり、アルコールの量も増えていった。アルコール依存症で暴力を振るったというのは、まったく事実無根であり、信子妃が宮邸を出るほど夫婦関係が悪化したから、殿下は依存症になった。つまり、その原因は明らかに信子妃との関係にあったということだ」

 どちらの言い分が正しいのか、私にはわからないがすごい話である。かくも夫婦関係というのは難しいものなのか。まあ、私の家もカミさんの考えていることはさっぱりわからないし、同じようなものだがね。

 第2位。自民党でタガが緩んでいるのは男ばかりではない。『新潮』はあの同僚議員・門博文(かど・ひろふみ)代議士(49)と激しい「路チュー」をして有名になった中川郁子代議士(56)が、またその同僚議員と居酒屋で酒を酌み交わしていたと報じている。しかもグラビアでも「太もも露わに『中川郁子』代議士『肉食系の夜』」とタイトルを打って、ご丁寧に短いスカートから伸びた足を接写しているのだ。
 『新潮』によれば6月30日、午後5時過ぎにグレーのスーツ姿で車に乗り込んだ中川氏は、2つのホテルでの会合を済ませた後、7時過ぎに世田谷の自宅に戻った。しかし30分もたたずに再び外出。今度の出で立ちはGジャンに白いシャツ、膝上10センチほどの茶色のミニスカート姿。「なにかに“勝負”するかのような挑発的な出で立ちに改まっていたのだ」(『新潮』)
 タクシーを拾って国道246号線沿いの居酒屋に入りテーブル席に座る。5分ほどして件の門代議士と、彼女たちが所属する二階派の事務総長・江﨑鐵磨(えざき・てつま)代議士(71)が到着。
 『新潮』は3人が仲良く話し合っている姿をバッチリ写しているから、すぐ後ろの席あたりにいたのだろう、彼らの話もすべて聞いていた。彼女を見る門議員の目は「恋する男」の目である。
 酒を飲みながら話をした後、心を後に残しためらいながら宿舎に戻った門代議士だが、中川氏のほうは雨の降る中を傘も差さず「アンニュイな雰囲気を漂わせ」(『新潮』)自宅まで歩いたという。
 このことを聞かされた後援会の人間がこう語る。

 「後援会員や支持者は、その後も門さんと会われることなど、絶対にないと思っていました。同じ派閥なので、何十人もの会合で同席することはあっても、たった3人で食事し、お酒まで飲まれていたなんて……」

 さあ中川先生はどう言い訳するのか。これがすこぶるおもしろい。

 「『門先生とは、そもそもなんの関係もありません。お恥ずかしいことですが、酔っ払ってということです』
 と強弁するので、なんの関係もない男女は路上でキスなどしない、と告げると、目つきが急に厳しくなり、
 『そうですか? チューしましょうか?』
 と言って記者の首に両手を回し、覆い被さってきたのである。そのシュールな光景を、居合わせた秘書官2人が茫然と眺めていた」(同)

 イヤーすごいね、中川さんは、肉食女子の鏡だね。記者さんはディープキスをしてもらえばよかったのに。私も会いにいってせがんでみようか。

 第1位。『現代』は「ユニクロが第2のマクドナルドになる?!」と言っている。
 ユニクロに異変が起きているという。6月の国内売り上げ高が、前年比マイナス11.7%になったのだ。常に「絶好調」という枕詞付きだったここ数年、目にしたことのない落ち込み方だそうである。
 しかも今、こうしたユニクロの「安くて品質がいい」が強みではなく弱みに変わろうとしているという。円安や材料費上昇などの要因で、値上げを余儀なくされているのが最大の理由だそうだ。
 マーケティングが専門の慶応大学商学部教授の白井美由里氏がこう指摘する。

 「誰もがユニクロには『高品質で低価格』というイメージを抱いています。しかし、数年かけてアンケート調査を行ったところ、実は『品質がいいのに安い』のではなく『安いわりに品質が良い』と評価されていることが分かりました」

 消費者がユニクロ製品の何を重視して購入しているかを調べてみると「品質の良さよりも安さのほうをより重視している」との結果が出たという。

 「ユニクロの商品の主な『売り』は安さであり、ゆえに値上げが難しいということです。マーケティング戦略の一般論として、高級ブランドのほうが価格の自由度が高い。高いものは安くできますが、もともと安いと思われているものを値上げするのは困難なのです」(白井氏)

 昨年、柳井社長は創業以来初めての一斉値上げに踏み切った。現在、ジーンズの主要ラインナップには4990円の値札も付いているそうだ。
 さらに今年の秋冬商品での一部で大幅な値上げを予定していると発表している。値上げ幅を全商品で均(なら)すと、およそ1割に達するという。
 『現代』は、ユニクロは第二のマクドナルドになるかもしれないと懸念している。日本マクドナルドは藤田田(でん)初代社長時代末期の02年、ハンバーガーを1個59円にまで値下げし、さらに原田泳幸(えいこう)前社長時代には100円マックを打ち出した。こうした徹底的なデフレ戦略が「マクドナルドは安くて当然」という意識を日本人に植え付けてしまったというのだ。
 最近、店頭では「ユニクロ、なんか高くなったね」という客の声がすでに聞こえ始めているという。
 ユニクロのくせに5000円もするジーンズは買いたくない。値段が許容できる水準を超えた瞬間に客はそっぽを向き、何も言わず、何も買わずに店を出て行く。
 ヒートテックやエアリズム、ウルトラライトダウンといった驚くべき高機能素材を次々に投入し、消費者を楽しませることも忘れなかったユニクロだが、日本の消費者はすでにユニクロの服そのものにはあまり魅力を感じていないという。それよりもヒートテックのような、ほかでは買えない新しい高機能製品を待ち望んでいるが、そういう魅力的な商品を次々に出さない限り、今までのような成長は難しくなってくるでしょうと神戸大学経済経営研究所リサーチフェローの長田貴仁(おさだ・たかひと)氏が語っている。
 たしかに「すき家」の牛丼が290円から350円になったら行く気がしなくなってしまった。『日刊ゲンダイ』が100円から110円に値上げしてから売れ行きが下降した。週刊誌も300円までは売れに売れた。だが310円にしてから部数が落ち始めた。今は平週号が400円、『現代』、『ポスト』は合併号が430円。高すぎると思うのは私だけではないはずだ。
 マクドナルドの苦境は異物混入のせいではない。もうあのこてこてのハンバーガーという食べ物が時代に合わなくなってきているのだと思う。ユニクロがフリースを出したときは、日本中の多くがユニクロのフリースでくつろぎ、外出にまで着た。あのようなブームをつくれない限り、拡大路線を突っ走ってきたユニクロは第二のダイエーになるのではないか。そういえばダイエーの中内功と柳井正、どことなく似ている気がするのだが。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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