元総理大臣。78歳。現役時代は「ノミの心臓、サメの脳みそ」と揶揄されたが、いまは永田町の「老害」といわれる。

 先日、ピン芸人・松元ヒロ(元「ザ・ニュースペーパー」。1998年11月から独立)の舞台を見に行った。立川談志さんに可愛がられ、いまは反安倍政権の旗手として引っ張りだこである。

 そこでも森氏の有名な「恥ずかしい英語力」のコントをやりバカ受けしていた。総理時代、クリントン大統領(当時)に会いに行ったとき、「How are you?」と言うべきところを「Who are you?」と言ってしまった。驚いたのはクリントン。だが、とっさのユーモアで「I'm Hillary's husband.」と答えたら森は「Me, too.」。

 森氏は、このエピソードはねつ造だと言っているようだが、彼ならば言いそうだという「信頼感」が国民の間にあるため、いまや森を語る上で必要不可欠のものになっている。

 大学時代に売春等取締条例による検挙歴があると『噂の真相』に書かれ、告訴はしたが結局、真実はうやむやで和解決着。

 2001年2月10日、ハワイ沖で日本の高校生の練習船「えひめ丸」が、アメリカ海軍の原子力潜水艦と衝突して沈没、日本人9名が死亡するという「えひめ丸事故」が発生した。そのとき総理だった森はゴルフ場におり、第一報が入った後もプレーを続けたために厳しい批判を受け、これが総理辞任へと繋がった。

 早稲田大学商学部卒業だから私の直系の先輩になる。困ったものだ。

 この“困ったチャン”が再び「新国立競技場問題」でクローズアップされている。

 『週刊新潮』(7/23号、以下『新潮』)の「最後の戦犯『森喜朗元総理』の利権とわがまま」によれば、2020年の東京五輪のメインスタジアムとなる「新国立競技場」の建設計画が当初予算より900億円も膨れて2520億円にもなったのは、前年にラグビーW杯を日本で開催するために、森氏が「準決勝、決勝を8万人規模の巨大スタジアムで行うと国際競技団体・IRB(現ワールドラグビー)に約束してしまった」(スポーツジャーナリスト・谷口源太郎氏)ためだというのである。

 高校からラグビーを始め、スポーツ推薦で早稲田に入学した森氏は、現在日本ラグビー協会会長の座にいて、ワールドラグビー会長とも親しい間柄だという。ラグビー界にとっては悲願のW杯日本開催だが、そのためには巨大なスタジアムをはじめ、約182億円といわれるワールドラグビーへの上納金(開催保証金)などの諸経費が「約300億円」(『新潮』)もかかるそうだ。

 競技場も巨額な負担金のメドも立たないラグビー協会から助けを求められた森氏は、国会内に「ラグビーワールドカップ2019年日本大会成功議員連盟」を立ち上げた。

 さらに石原慎太郎都知事(当時)を口説いて東京五輪招致を宣言させ、招致が決まれば国立を建て替えさせ、そこをラグビーW杯で使うために“暗躍”するのである。

 「森さんは、五輪なんかよりラグビーW杯のほうが重要だと思っている」(議員連盟に所属する議員)

 しかし『週刊文春』(7/23号)はラグビー界からも反対の声が出てきていると報じている。元ラグビー日本代表の平尾剛(つよし)氏がツイッターでこう呟いた。

 「もう辛抱たまりません。おかしいでしょ! やっぱり。あんなスタジアムに頼らずとも開催する方法を探ればいいだけの話ちゃいます? 声、あげませんか、スポーツ界の中から! こんな不条理は断じて許せない」

 異論が噴出しようと、あまりにも馬鹿げた建設費に批判の声が高まろうとも、蛙の面にションベンと、サメの脳みそをフル回転させた森氏の策略は功を奏したかに見えた。

 だが、その野望をぶち破ったのは、皮肉にも森氏が後見人を任じている安倍首相だった。安保法制法案の強行採決で支持率の大幅下落に怯えた安倍が、少しでも失点を挽回しようと、新国立競技場建設計画の全面見直しを言い出し、森氏と会って“説得”したのである。

 安倍首相の祖父・岸信介を尊敬しているという森氏は、計画見直しを“懇願する”安倍の言い分を飲まざるを得なかったのだろう。

 会談後、テレビに出演して「生カキがドロッとたれたみたいで、僕はもともとあのスタイルは嫌だった。見直しはしたほうがいい」と言い出す始末だ。

 「風見鶏」と言われた中曽根康弘元総理も顔負けのいい加減発言をして、周囲を驚かせている。

 だがうちに秘めた怒りは収まらないようで、7月21日に都内で開かれた東京五輪・パラリンピックの関連会合で、下村博文(はくぶん)文部科学相が途中退席したことに「極めて非礼だ」と激怒する場面があったという。

 新国立競技場建設計画の見直しで、ラグビーW杯には間に合わないことが確定した。だが、着工前段階のデザインや設計などの契約が計約59億円に上ることが明らかになったほか、新デザイン選定や工期の短縮などで、またぞろ当初予算がどんどん膨らんでいくことが予想される。

 国民は目を皿のようにして工事を注視し、再び森氏のように甘い汁を吸いに来る輩が忍び込んでこないよう見張っていなくてはいけないこと、言うまでもない。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今週のグーグルの記事はネット社会最大の難問だと言ってもいい。事件を起こした人間が罪を償った後も、グーグルで検索すると自分の事件の記事や、写真、住所まで晒され続けるということが起きている。
 逮捕後不起訴になっても、当時の新聞やネットの掲示板には自分の名前が載り続け、「忘れられる権利」を侵害し続ける。
 グーグルを相手取って削除や損害賠償を求める訴訟が増えているのは当然であろう。小さな記事だが、内包している問題は大きい。読んでみて、考えてください。

第1位 「『俺の過去をネットから消せ!』とグーグルにスゴむ人たち続出中」(『週刊ポスト』7/31号)
第2位 「公家の社風を一変させた『強烈相談役』の陰日向」(『週刊新潮』7/23号)
第3位 「歌舞伎町ぼったくりキャバクラVS本誌記者 『絶対払いません』死闘120分」(『週刊ポスト』7/31号)

 第3位。『ポスト』によれば、東京・新宿の歌舞伎町で悪質なぼったくり被害が急増したのは昨年の秋頃だという。キャバクラなどで客が不当な高額料金を請求されたとする1~4月の110番通報は、昨年の同時期と比べて約10倍に膨れ上がっているそうだ。手口はどの店もほぼ同じだという。
 客引きが「60分のセット料金が4000円ポッキリ」などと言葉巧みに客を誘い、ホステスのドリンク代が一杯8000円、チャージが1人9万円などというセット料金以外の名目で料金を吊り上げる。警察を呼んでも「民事不介入」といって取り合ってくれないため、店側の法外な請求がまかり通っていた。
 相次ぐ被害に警視庁が重い腰を上げたのは5月下旬だという。悪質なケースについては都条例違反や恐喝など、様々な容疑で摘発を強化する緊急対策を始めたそうである。
「当局が把握していた約20ものぼったくり店のうち、13店舗を摘発。今は10店以下だ」と『ポスト』で捜査関係者が話している。
 7月5日付の朝日新聞でも、同紙の記者がぼったくり店に潜入取材した記事が掲載されたが、「絶対に払わない」と宣言していた記者は、60分4000円と言われて入った店で約19万円を支払ってしまっている。同じ轍は踏むまいと『ポスト』の記者が潜入取材したのだが……。
 記者が入店したのは、60分4000円というお決まりのフレーズで誘う客引きに案内された雑居ビルの6階にある「G」という店だという。
 席に着くと「女性を品定めしたい衝動を抑えて以下の項目をチェックした」という。
・女性のドリンクの値段 1杯5000円以上ならセット料金に含まれるハウスボトルを飲んでもらう。
・テーブルチャージ 別途かかるなら店を出る。
・メニュー表 都が定めたぼったくり防止条例によれば、料金は客が見える場所に提示しなければならない。
 メニュー表の値段設定をくまなくチェックしたが、特に不審な点はなかったそうだ。あとはホステスたちの「ドリンクおねだり」をどう拒むかだと意気込む。
 しかし「ドリンクおねだり」を断り続けると、女性たちはほとんど口を開かなくなり、居心地が悪くなってきた。
 30分が過ぎた頃に「会計をお願い」した。すると、店長を名乗る男性が持ってきたのは、何と15万円超の会計伝票だったという。
 明細には〈入会金10万円〉とあったそうだ。

 「もちろん『聞いてないぞ!』と抵抗したが、店長は『入店時に伝えている。録音もある』という。彼がポケットから取り出したICレコーダーには、記者が入店し店員に案内される音声の中に、『入会金はお一人10万円になります』という店員の声が確かに入っていた。まったく聞き覚えがないので、記者に聞こえないようにICレコーダーに吹き込んだのだろう。『条例では事前に料金を提示しなければならない』と指摘すると、『お客様の目の前にあるじゃないですか』とメニュー表を指さした。黒革の厚いそのメニュー表は強力な磁石で貼りつけられた二枚式で、開くと入会金と、消費税を含めると48%(!)にもなる各種チャージ料が書かれていた」

 記者がなお頑張ると、お決まりのセリフ。

 「お前が払わなければ親族に払ってもらう。実家まで取り立てるぞ、ゴルァー!」

 記者には限界だったようだ。

 「入店から2時間が経過した頃、『本当にカネがない』と懇願すると、チャージ料だけ値引きしてくれた。結局11万円ほどを支払って解放された」

 警察が取り締まりを強化してもこのような店がなくならないのは、罰則が緩すぎるからだという。

 「逮捕された後、客に15万円の示談金を払い、数日間拘束されただけで不起訴になった。店は一日200万円近い売り上げがあったから15万円なんて痛くない。7月中に歌舞伎町に新店を出し、名古屋にも進出する予定です」

 とぼったくり店の店長が話す。
 青島克行弁護士がこうした場合の対策をこう話す。

 「まず店員と交番に行くこと。ただし交番で助けてもらえないケースもある。東京弁護士会が設置した『ぼったくり被害110番』に電話すれば、2万5000円で店舗と交渉してくれるので、その日はその費用だけで帰れます。また、証拠を残すためにICレコーダーやスマホの録音機能などを使って店員とのやりとりを録音しておいたほうがいいでしょう」

 古くて新しい手口だが、この手の店は雰囲気でわかる。私の後輩も酔っ払ってこうした店に入りそのまま眠ってしまった。起きたところを凄まれて10万円ほど払わされたが、これは入ったヤツが悪い。

 第2位。『新潮』は、日本を代表するトップ企業「東芝」が不正会計問題で揺れていることを取り上げ、この裏には公家商法を一変させた「強烈相談役」の存在が大きいと指摘している。
 2014年3月期決算時点で売上高6兆5000億円、社員数約20万人。ライバルの日立は「野武士」といわれ、ハイソでエスタブリッシュメントの印象が強かった東芝だったが、2月に証券取引等監視委員会への「タレこみ」で公家商法の実態が明るみに出てきたのだ。
 最初、田中久雄社長は「500億円の不正会計が見つかったが、事務的なミス」と言っていたが、とんでもなかった。1500億円、2000億円と雪だるま式に膨れあがっていき、幅広い事業で不正会計が行なわれていた可能性が高く、しかもこれは全社的に行なわれていた「慣行」だったと第三者委員会は見ているようだ。
 おっとりした公家集団を数字至上主義に一変させたのは、西田厚聰(あつとし)元社長・現相談役だと『新潮』は名指しする。西田氏は大学を出た後、イラン人女性と結婚して移住し、現地企業と東芝の合弁会社に就職し、31歳で本社に引き上げられたという一風変わった経歴の持ち主。入社後、90年代にダイナブックを普及させ、その功績で社長になった。「数字の鬼」と言われていたそうである。
 西田氏は儲かる事業に特化することで売上を伸ばし、特に半導体と原発に収斂する経営を進めた。だがリーマンショックや原発事故が起きたため、西田氏の後を継いだ佐々木則夫社長(当時)は原発事業を維持しようと無理をして、下に「何とかしろ」と号令を掛け、次の田中現社長もその方針を引き継いだ結果、「ノルマ絶対主義」がまかり通り、2000億円の巨額な不正に繋がったのではないかというのである。
 オリンパスの粉飾決算を暴いた経済ジャーナリストの山口義正氏は、第三者委員会の委員長は元東京高検検事長だから、調査した詳細情報が東京地検特捜部に伝わっていて、有価証券報告書の虚偽記載などで刑事事件に発展する可能性もあると指摘する。
 田中社長は辞任するが、積年の膿(うみ)を出し切らないと東芝の再生は難しいだろう。アベノミクスの狂騒が終焉した後にはユニクロや東芝の残骸がゴロゴロということになりはしないか。政治も経済もより不確定な時代に入ったことは間違いない。

 今週の第1位は『ポスト』のグーグルについての記事。
 6月25日にさいたま地方裁判所が出した判決は、司法関係者の間に衝撃を与えていると『ポスト』が報じている。
 大手検索サイト「グーグル」の検索結果で過去の逮捕報道が今も表示されるのは「人格権の侵害」だと、今年1月A氏 (男性)がグーグル米国本社に削除を求めた仮処分申し立てに対して、さいたま地方裁判所は削除を命じたのだ。
 A氏は11年に、当時16歳だった少女に金銭を支払いわいせつな行為をしたとして逮捕され、児童買春禁止法違反で罰金50万円の略式命令を受けた。それから3年以上経過してからも検索で自分の名前を入力すると、当時の逮捕報道が表示されるのは「更生を妨げられない権利(人格権)の侵害に当たる」と主張した。
 グーグル側は「未成年に対して行なわれた悪質な犯罪で、逮捕歴は子を持つ親など社会一般の関心も高い」と反論したそうである。
 司法関係者がこう解説している。

 「事件に歴史的、社会的な意義がなく、A氏が公人ではないことなどが判決の理由だが、逮捕報道を検索結果から削除させたことは他の関連訴訟にも影響するだろう」

 同様の訴訟提起は近年急増していて、ITに強い弁護士のところには依頼が殺到しているそうだ。
 サイト管理者などが削除請求に応じなければ、裁判所に「削除仮処分」の申し立てを行なうことになるが、書き込みがコピーされ、拡散していればすべての管理者に削除請求しなければならない。

 「すべてのサイトに申し立てを行なうのは現実的に困難です。だから、それらの“入り口”となる大手検索サイトに『検索結果の削除』を申し立てる方法が注目されています。 検索サイトの最大手といえばグーグルとヤフーですが、ヤフーはグーグルの検索エンジンを使っているので、申し立て先はグーグルに絞られる」(神田知宏弁護士)

 この問題はこれからますます深刻になってくるだろう。週刊誌には『新潮』が始めた「あの人は今」という名ワイド特集があった。だが、よほどの大義名分がない限り、その人の「犯歴」を開示してはいけないという考えが広まり、今ではそうした企画はできなくなってしまった。
 だが、ネット上にはその手の情報が氾濫し、掲載されたらその人間が死んでも残ってしまう。
 03年に早稲田や東大の学生ら14人が準強姦罪で起訴された学生サークル「スーパーフリー(通称スーフリ)」による集団強姦事件が起きた。かつてそのサークルに入会していた男性が、事件とは無関係だったにもかかわらず、グーグル検索でいまだに「事件に関与した元スーフリ幹部」と表示され名誉を傷つけられていると主張し、米グーグル本社に対して検索結果の削除と慰謝料を求めて12年に東京地裁に提訴した。
 一審では男性側の主張が認められ、慰謝料30万円の支払いとともに検索結果の表示を禁じる判決が出たが、東京高裁判決では逆転敗訴した。

 「男性側は上告し、年内にも最高裁判決が出る予定です。判決とともに注目されているのは、男性が高裁判決前に、グーグル側が削除請求に従わなければ『一日につき100万円の制裁金』を支払うよう仮処分申請を出し、裁判所が認めていることです。仮に最高裁でグーグルが負ければ提訴から約700日分、約7億円もの制裁金を男性は手にする可能性がある」(司法関係者)

 神田弁護士がこう言う。

 「個人の人格権を侵害するような過去をネット上から削除できる『忘れられる権利』は、罪を犯した人にもあると考えられています。ただし問題は権利を行使する人物が過去と決別し、本当に更生しているかどうか。この点が曖昧だと社会の理解は得られないままでしょう」

これはネット社会の今、最大の問題だと思う。どう解決するのか、できるのか、真剣な論議が必要である。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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