日本の「カワイイ」は、いまや世界の共通語。ハローキティに代表されるキャラクターや、ロリータファッションなどが、「和の世界」とは別ベクトルのジャパニーズカルチャーとして海外から注目されている。そうして光の当たる一方で、日本人なら誰でも「カワイイ」の全容を理解できるというわけではない。なにせ、ディープな世界なのだ。

 「カワイイ」もいろいろなカテゴライズができる。たとえば、「ゆめかわいい」なる言葉。象徴されるのは、妖精や天使、花や星といったモチーフ。おさない女の子が夢見るような、メルヘンの世界だ。これは玩具やスイーツのデコレーションにも投影されるような、比較的わかりやすい概念だろう。

 だが、夢はいつも甘い夢とは限らない。悪夢もある。かわいらしさの中にひそやかに、あるいは明確に病み要素があるのが「病みかわいい」である。象徴されるモチーフは、ナイフや銃などの武器や、眼帯など病を象徴するアイテムだ。その表現には「死」の陰がちらつく。不安定な思春期のテンションは、「病みかわいい」と親和性が高い。

 「ゆめかわいい」と「病みかわいい」は、相反するものではなく、同じ繊細な感性の表と裏といえるのではないか。「どんな対象でも『カワイイ』と形容するのが若い女性」と揶揄(やゆ)する男性がいる。彼らは、ダークなあやうさもカワイイの一側面という、少女たちが持つ複雑なセンスの根っこを理解できないのかもしれない。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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