安倍首相を悩ます自民党議員たちの「暴走」が止まらない。『週刊文春』(8/27号、以下『文春』)が、武藤貴也衆議院議員(36・滋賀4区、当選2回)が未公開株の購入をめぐってトラブルになっていると報じたが、すぐに谷垣禎一(さだかず)幹事長が「調査する」と反応し、武藤議員は「党に迷惑をかける」という理由で離党届を出して即刻受理された。

 経緯を簡単に紹介するとこうだ。武藤議員が学生時代の知人のA氏に「値上がり確実なソフトウエア会社の新規未公開株を国会議員枠で買える」と相談し、資金を集めてくれと持ちかけた。A氏は23人に声を掛け4000万円以上を集め、武藤議員の秘書の口座に振り込んだ。だが、件の秘書は上場前日に「買えなかった」と連絡をしてきた。したがって振り込んだカネは返すのが当然だが、『文春』によるといまだ投資家6人に約700万円が返済されていないという。

 これを読むかぎり、政治家にあるまじき筋の悪いスキャンダルである。選挙区では「議員辞職せよ」という声が上がっているそうだが、当然であろう。

 また、自民党の対応も不可解だ。株の購入話を持ちかけた際「国会議員枠」で購入できると言っているとすれば、そういう枠がなければ武藤議員は嘘をついてカネを集めたことになり、詐欺罪等に該当することになるはずだ。

 自民党は徹底的に内部調査をするべきである。その上で嘘をついて株購入のための資金を集めたと確認できたならば議員辞職させるのが当然であろう。

 だが、各紙の報道を見る限り、『文春』が発売される前から自民党は武藤議員を離党させるべく動いていたようである。それは「国会議員枠」のようなものが現実に存在し、そこを突かれたり、その存在が明らかになることを恐れたのではないか。

 日刊ゲンダイ(8月22日付)で政治資金に詳しい神戸学院大の上脇博之教授はこういっている。

 「今回の問題は、武藤議員個人にとどまりません。出資者は武藤議員が与党=自民党の国会議員であることを信用してカネを出した。党の責任も大きいのです。不思議なのは、当選2回の若い武藤議員はなぜ、『国会議員枠』という言葉でカネを集めたのか。集金に使った口座は武藤議員の政策秘書で、久間章生(きゅうま・ふみお)元防衛相の秘書も務めたベテラン。あくまで私見ですが、未公開株の『国会議員枠』は自民党内で実際にやり取りされているのではないか、と疑ってしまいます。未公開株の特別枠が実在するとなれば、それこそ大問題です」

 久間元防衛大臣といえば第一次安倍内閣で「原爆投下はしょうがない」と放言してクビになった御仁である。類は友を呼ぶのであろう。

 この武藤議員、「SEALDsという学生集団が自由と民主主義のために行動すると言って、国会前でマイクを持ち演説をしてるが、彼ら彼女らの主張は『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせいだろうと思うが、非常に残念だ」とツイートして問題になった人でもある。

 8月26日に開いた記者会見では、報道内容に誤りがあるとし、週刊誌で被害者と報じられたA氏について「刑事告訴の準備を進めている」と述べた。この会見は自民党記者クラブと滋賀県の県政記者クラブで『週刊文春』の記者は入れなかった。また、最新の『文春』(9/3号)では、19歳の男性を“買春”していたと報じられている。

 『週刊新潮』(8/27号、以下『新潮』)がグラビアとともに報じているのが額賀福志郎(ぬかが・ふくしろう)元防衛庁長官(71)の「不倫」現場である。それも、よりによって敗戦(『新潮』は終戦)の日の8月15日に愛人と「一戦交えた」(『新潮』)というのだから、安倍首相の心中察するにあまりある。

 額賀氏は知名度こそ低いが、産経新聞の記者を経て竹下登元総理に目を掛けられ政界に転出。1983年初当選以来11期連続当選で、小渕恵三内閣で防衛庁長官になり、官房副長官、自民党政調会長、財務相などを歴任して、いまや「平成研」会長を務める党の重鎮である。

 その彼が、日本中が戦後70年の節目の日に思いをいたしているその日の黄昏時、品川駅近くの「つばめグリル」に彼女と並び、20分近く待たされた後、ハンバーグやロールキャベツなどを仲良く食べたというのである。

 その後、二人が一戦を交えるべく向かったホテルは高級シティホテルだった。

 『新潮』によれば愛人は41歳、独身。現在は弁護士事務所で事務員として働いているが、4~5年前まで赤坂の料亭で仲居をしていたことがあるから、そこで額賀氏と知り合ったのではないかと推測している。

 『新潮』は先日も中川郁子(ゆうこ)自民党議員が同僚議員と「路チュー」していた現場を激写していた。

 うち続く議員の不祥事から見えてくるのは、第一次安倍政権末期と酷似してきたということである。

 あのときも閣僚の不祥事や失言が相次いだ。佐田玄一郎行革担当大臣と松岡利勝農林水産大臣の事務所費問題(松岡氏はその後自殺)。先の久間防衛大臣の暴言。とどめは松岡氏の後任赤城徳彦(のりひこ)農林水産大臣の事務所費問題を『週刊現代』が報じたことだった。全員がクビになり、その後に行なわれた参議院選挙で自民党は過半数割れの惨敗を喫し、安倍退陣へと繋がるのである。

 これ以外にも安倍首相の前には難問が山積している。中国経済の先行きへの不安から株が暴落し、円高が加速している。これはアベノミクスの失敗を象徴するものである。

 川内(せんだい)原発を始めとする原発再稼働への反発沖縄の反基地運動の高まり。再来年予定されている消費税増税など、安倍内閣を吹っ飛ばす地雷原は数多い。

 それに持病の「潰瘍性大腸炎」が悪化してきているという報道が相次いでいる。会食中に「吐血」したともいわれているのである。

 『週刊現代』(9/5号)は、9月に行なわれる総裁選に「安倍首相が出馬しない」という情報が流れていると報じている。自分の傀儡(かいらい)をたてて一度身を引き、3年後の総裁選に出馬して憲法改正や東京五輪に臨もうと目論んでいるというのだが、ロシアならともかく、日本の国民がそんなことを許すはずはない。

 こんな見方が出るのも、安倍政権末期現象の一つである。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 本屋大賞受賞作家の沖方丁(うぶかた・とう)が妻への傷害容疑で逮捕されたが、夫婦のもめ事が大惨事へ至る事件がこのところ多いような気がする。元ボクサーが妻の不倫相手の弁護士のアソコをちょん切ったのはその典型だろうが、そこまでやるかと思った人は多いだろう。それほど妻を愛していたのかと聞いてみたいが、平成の「阿部定事件」や寝屋川で起きた中1男女殺害事件といい、殺伐とした事件のなんと多いことであろう。週刊誌にはありがたい時代ではあるが。

第1位 「疑惑のデパートという『佐野研二郎』デザイン」(『週刊新潮』8/27号)「『五輪エンブレム』パクリ疑惑佐野研二郎は第2の小保方事件だ!」(『週刊文春』8/27号)
第2位 「中国の『原発』は必ず大事故を起こす」(『週刊現代』9/5号)
第3位 「ボクサー夫に“チン”を狙われたイケメン弁護士『痛すぎる』報い」(『週刊文春』8/27号)

 第3位。元プロボクサーが妻の勤めている弁護士事務所で、弁護士の一物をちょん切ったという事件には驚かされた。
 『新潮』と『文春』が競っているが、被害者には失礼だが『文春』のタイトルがうまい。「ボクサー夫に“チン”を狙われたイケメン弁護士『痛すぎる』報い」。ボクシングのチン(アゴ)とアソコを掛けたのはさすがだ。
 加害者は小番(こつがい)一騎(24)という慶應大学法科大学院3年生。『文春』によれば、秋田の高校を卒業して明治大学に進学、その頃から渋谷区内のボクシングジムに通い始めたという。
 なかなかいいボクサーだったそうだが、弁護士になると決意して慶應に編入したのが2年前。同級生の評価は「真面目でまっすぐな性格」だそうだ。勉学に励んでいたが頭はスキンヘッド。
 20代の奥さんの出身は厳格なカトリック一家で、父親の仕事の関係で海外にも行っていたという帰国子女。彼女がしているボランティア活動で小番と知り合い、2年ほど前に結婚したらしい。なぜ真面目な男がこのような猟奇事件を起こしたのか。捜査関係者がこう話す。

 「A氏(弁護士=筆者注)とB子さん(小番の妻=筆者注)は複数回にわたり肉体関係があったようだ。ある日、それが小番の知るところとなった。小番がB子さんを問い詰めたところ、B子さんが『A先生にお酒を飲まされ、性行為を強要された』と主張。それを鵜呑みにした小番は当日、妻を連れて話し合いに出向いた。逮捕後、小番は取り調べで、妻が準強姦をされたからと動機を述べているが、真相は違う」

 ということはA氏とB子は合意の上だったというのだろうか。妻の言い分だけを信じた小番は、購入した刃渡り6センチの枝切りバサミを忍ばせ、話し合いがこじれるとボクシングで鍛えたパンチをA氏の顔面に叩き込み、下着を脱がせてA氏の男性器をハサミで切り、それを事務所のトイレに流してしまった。
 真面目だった小番だけに、男と女の機微を考えることもなく、怒りにまかせてやったのだろうが、最悪の場合「傷害罪の上限にあたる懲役15年に近い判決が下る可能性がある」(郷原信郎弁護士、『新潮』)と言うし、民事訴訟が提起されれば「億単位の賠償請求は免れない」(同)。この夫婦が失ったものは限りなく大きい。

 第2位。『現代』が「中国の原発は必ず大事故を起こす」と警告している。
 それは8月12日深夜に起こった人口1500万人の都市、天津(てんしん)で起きた未曾有の大爆発事故が想起させたようだ。
 何しろ事故から1週間たった19日現在も、中国当局は死者114人、行方不明者65人と発表しているが、そんな「大本営発表」を信じる市民などいないそうだ。天津テレビの関係者がこう証言する。

 「われわれの取材クルーが事故現場に真っ先に入り、少なくとも1000人分くらいの遺体は撮影しています。何せ3000tもの危険化合物が爆発しており、無残な屍が四方八方に転がっていたのです。
 それを中国共産党中央宣伝部と国家新聞出版広電総局(マスコミを管理する中央官庁)からすぐにお達しが来て、『取材ビデオはすべて中国中央テレビ(CCTV)に差し出せ』と命じられました。没収された数は、約150本に上ります」

 さらに最悪の情報が明らかになったという。北京港湾消防総隊から救援に駆けつけた核生物化学処理部隊26人を率いる李興華副参謀長が、次のように証言したのだ。

 「今週に入って現場で採取した空気のサンプルから、シアン化ナトリウムと神経ガスの2種類の猛毒ガスが検出された」

 これだけの大惨事が起きれば、もっとも恐ろしい事故を思い起こすことはやむを得ないであろう。天津の日本商会幹部は「これが大連でなくてよかったというのが、われわれの正直な感想です」と話す。
 大連には原発があるからだ。大連の原発とは13年2月に1号機が稼働を始めた遼寧紅沿河原(ホイエンフ)原発のことだ。その後、2号機と3号機も稼働を始め、この7月には6号機の工事が始まったそうだ。合わせて日産9600万kw時の発電量を目指しているという。
 中国は世界3位の原発大国で、習近平政権は2020年までに51基の原発を稼働させようとしているそうだ。
 中国は地震大国でもある。それなのに原発は十分な耐震構造になっているとは思えないと、元東芝原子力プラント設計技術者の後藤政志氏が指摘している。
 中国の原発への協力は主に東京電力がやっていた。だが福島第一原発事故により東電は協力できなくなり、フランスなどの協力を得て大車輪で原発をつくっているのであろう。
 中国の電力不足は深刻である。だがそれだからといって、安全基準のゆるい原発をつくり続ければ必ず事故を起こすことは間違いない。尖閣問題よりもはるかに深刻な問題である。

 第1位。東京五輪にまたケチがついた。公式エンブレムの盗作問題である。花形デザイナーとして有名な佐野研二郎氏(43)のデザインだが、このエンブレムがベルギーの『リエージュ劇場』からロゴの模倣を指摘されたのである。
 当初「パクリはない」と胸を張っていた佐野氏だったが、次々に過去のデザインへの疑惑が噴出してきて「疑惑のデパート」(『新潮』)「第2の小保方事件だ!」(『文春』)と、騒ぎは収まりそうにない。
 彼は卒業後に博報堂に入社してサラリーマンデザイナーとして働いていた。その時手がけたのが日光江戸村のキャラクター「ニャンまげ」で、一躍、業界内で高い評価を得るようになったと『新潮』が書いている。
 その後、数々の賞に輝き、社内結婚した奥さんと独立してデザイン事務所を立ち上げた。元同僚が『新潮』に語っているところによると、誰に対しても声を荒らげることはなく、いつもニコニコしていて傲慢なところはない人柄だという。
 今回、佐野氏の疑惑を暴き立てているのは同業者ではなく主にネット住民だ。それはデザイン業界そのものが大変狭く、トップクリエイターといわれるのは特定の美大の卒業生と大手広告代理店出身者ばかりだからだそうである。
 今回のエンブレムの審査でも、そうした仲間内で「賞を贈り合って褒め称えている」(ベテランデザイナー)体質が、厳密なチェックを疎かにしたのではないかという声も多いようだ。
 大阪芸術大学の純丘曜彰(すみおか・てるあき)教授はこう指摘している。

 「私の目からすれば、五輪エンブレムは、現実的には盗作というほかありません。ただ、それは法的に争えばどちらに転ぶかわからない面もありますが、トートバッグの“BEACH”というデザインはアウトだと見ています」

 「五輪エンブレムは早々に白紙に戻すのが、最善の策ではないのか」(『新潮』)「“五輪の象徴”という重責を負うに値する人物でないことは確かなようだ」(『文春』)と、両誌とも手厳しい。
 私も、五輪のデザインは盗用の疑いありだと思う。たしかに無から有を生み出すことは、私など想像もできないほど難しいことであろう。全くの偶然で同じようなデザインができることも皆無ではないだろう。だが、ここまで傷つき汚れちまったデザインを五輪の象徴として崇めるのは無理だと思う。もう一度至急コンペを開催し、佐野氏にも参加してもらって「公開」で決めたらいい。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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