当たり前だが人が死ぬのは悲しい。それがまだ若い女性ならなおさらのことである。

 9月19日にフリーアナウンサーの黒木奈々が胃がんで亡くなった。32歳の若さだった。

 彼女は女子アナを多く輩出しているという理由で上智大学外国語学部に入ったそうだ。私が上智で教えていた時期と重なる。私は編集学だったが、300人の7割は女子学生でアナウンサー志望も多かったから、もしかすると会っていたかもしれない。

 『週刊現代』(10/10号、以下『現代』)によると、キー局や地方局を含めて試験を受けたが全滅だったそうだ。記者枠で大阪の毎日放送へ入るが、10か月で退社してフリーの道を選ぶ。

 07年にオーディションで『TBSニュースバード』のキャスターの座を勝ち取り、11年にNHK BS1の海外ニュース番組『ワールドWaveトゥナイト』のサブキャスターになる。

 黒木の口癖は「有名になりたい」だった。ストレスで円形脱毛症になったことがあると『現代』の記者に話したという。

 そしてついに14年4月に番組が『国際報道2014』とリニューアルされ、念願のメインキャスターに抜擢されるのである。しかしそのわずか4か月後、友人と訪れたワインバーで激しい腹痛に襲われる。入院をして検査を受けた。結果は悪性の胃がんだった。

 記者へのメールにこう書いてきたという。

 「精神的に一番つらい時期は過ぎ、あとは闘うだけって感じ。せっかく伝える仕事なんだから、わたしが乗り越えて社会復帰して同じように辛い思いをしている人をひとりでも励ますことができれば嬉しい。まだ(私は)有名じゃないけど、ひとりくらい救われる人はいると思う」

 9月にはスポーツ紙によって、黒木の不在の理由はがんだと報じられてしまった。

 年明けの1月4日、NHK総合で放送された『国際報道2015』で1日限定の復帰を果たす。3月末からは毎週月曜日だけの番組再登板が決まったが、病魔は彼女を急速に蝕んでいく。

 GWに記者が久しぶりに会おうというと、キャンセルのメールが来たそうだ。そこには「最近、心が折れそうになる」と書かれていたという。

 人生の絶頂期を迎えようとする直前の挫折。彼女の無念さはいかばかりであっただろう。

 9月24日には、私も多少袖すり合ったことのある川島なお美が亡くなった。享年54。『週刊新潮』(10/1号、以下『新潮』)によれば、13年7月に定期検診を受けていた人間ドックで病巣が見つかり、サードオピニオンまでしたうえで昨年の1月28日に、都内の病院で切除手術を受けている。

 病名は「肝内胆管がん」。『新潮』によれば「手術では胆管にとどまらず隣の胆のうまで取っている。手術時間は12時間にも及びました」。このがんはやっかいな病気だという。

 「胆管の肝臓側に内包されている部分を肝内胆管といいますが、がんがここに出来るため、進行すると肝臓に浸潤し肝機能の低下を招きます。そうなると、黄疸(おうだん)や倦怠感、それに食欲不振や体重低下といった症状が出てくるのです。このがんは発症原因もよく分かっていません」(岡山大学医学部の楳田(うめだ)祐三助教)

 川島の身長は158センチ。理想体重は48キロだそうだが、彼女はダイエットをして41キロを常にキープしていたそうだ。だが術後は30キロ台前半まで落ちて「激やせ」が話題になった。

 川島は病気がわかった時点で「余命1年」と宣告されていたそうだが、手術後のブログにこう綴っていたと『新潮』が報じている。

 「私が乗り越えた病気は/5年生存率50%/10年生存率2~30%という/厳しいものです/でも/もっと生存率の厳しい芸能界で/35年生存してきたので/これからも大丈夫!と/自分を信じたいです」

 病魔を克服して再び女優として輝く。そう思っていた彼女は、昨年12月からミュージカル『パルレ~選択~』の稽古を始めて、9月4日が初演。だが16日の長野県伊那市の公演で体調が急変し、9月20日に降板。その4日後には亡くなってしまった。

 生前彼女は、自分の血はワインでできていると言っていたが、最後は好きなワインも口をしめらす程度しか受け付けなかったという。

 かなりのがんは早期発見すれば生存率は高くなるといわれる。血液一滴で13種類の超微小がんが発見できる「革命的診断」法も実用化されようとしているという。

 一方で元慶應大学病院の近藤誠氏のように、人間ドックは受けるな、抗がん剤治療は効果がないだけではなく命を縮める可能性があると警告する医者がおり、論争になっている。

 私の周りは高齢者が多いが死因の多くはやはりがんである。医学がいくら進んでも150歳、200歳まで生きることはできはしない。がんで死ななくても老いは確実に襲ってくる。

 立川談志師匠が生前よく言っていた。「みんないなくなりやがって、話し相手がいなくて生きててもつまらねぇ」。頃のいいところでコロッと逝くのがいいようだ。

 だが、30代、40代の人ががんで死ぬのは、医学の進歩でなんとかしてあげてほしいものである。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 先日からおもしろいミステリーを読み始めた。なにしろ主人公が88歳のメンフィス署の元殺人課刑事なのだ。足腰も弱り妻と老人ホームに入っているが、その「暴走老人」ぶりは生半可ではない。気に入らない老人の車イスをたたき壊すなど朝飯前。体中にガタがきているのに格好いいのだ。
 この主人公を老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町(さいわいちょう)」に入れたらおもしろいだろうなと、読みながら思っている。日本でも、『三匹のおっさん』のような甘っちょろいのではなく、ここまで徹底した男の物語を読んでみたいね。ちなみに本はダニエル・フリードマン著『もう過去はいらない』(創元推理文庫)です。

第1位 「川崎老人ホーム転落死『個人資産百四十億円』“強欲”創業者を直撃!」(『週刊文春』10/1号)
第2位 「情報戦で劣勢の『六代目山口組』の激白5時間」(『週刊新潮』10/1号)
第3位 「『落選運動』の威力と効果 その実践法を公開する」(『週刊ポスト』10/9号)

 第3位。『ポスト』の巻頭は、国民と憲法を蔑ろにした安倍政権の閣僚や安保法制に賛成した議員たちを落選させる運動を、来年の参議院選に向けて起こそうという「檄文」のような特集であるが、大切な指摘である。
 もちろん主旨には賛成する。落選運動は特定の候補を当選させるための事前運動ではないから、合法的で、今すぐに始められるのだ。
 基本的なやり方を湯浅墾道(はるみち)情報セキュリティ大学院大学教授が教えている。

 「特定候補を落選させようというメールを送るのは選挙活動にならないからOKです。ホームページやSNSでも落選運動はできる。ただし、選挙期間中に落選運動をする人は匿名ではなく氏名とメルアドを明記しなければならないから、Twitterなどでは実名をハンドルネームにしておく必要があります。また、選挙権のない18歳未満は公選法で選挙運動を禁じられていますが、落選運動であれば行なうことが可能です」

 ネットの「安保法案戦犯リスト」を見てみると、安倍晋三総理大臣、麻生太郎副総理大臣、中谷元(なかたに・げん)防衛相、岸田文雄外相、菅義偉(すが・よしひで)官房長官、高村(こうむら)正彦自民党副総裁、山口那津男(なつお)公明党代表などを筆頭に、多くの名前が掲載されている。
 これほど参議院選が待ち遠しいのは初めてのような気がする。早く来い来い参議院選!

 第2位。『新潮』の山口組幹部のインタビュー。ヤクザに強いライターたちが各誌で競っているが、やはり当事者が出てきて話すのが週刊誌の王道である。
 ヤクザに強い雑誌はかえって両陣営に気をつかって、当事者インタビューはやりにくいのかもしれない。『新潮』はさすがである。

 「我々の世界の根本に何があるかというと、盃事なんです。汚い世界のたった一つキレイなところ、と言うてもええかもしれません。今回、彼らは我々の世界の根本にあるルールを破った。その時点で、向こうに百に一つの言い分があったとしても、それは通らない、ということなんです。
 山口組を含め、この業界では、一切の権利、一切の縄張りは親分のモン。先代と代替わりした時には、先代のカマドの灰まで当代のモンなんです。山口組の親分は、ええモンも悪いモンも全部引き継ぐ。その親分に白い物を黒や言われても、それは認める言うて我々、盃飲んどるんです。そんな大事な盃をほったらかしにして出るなんて、絶対にやってはならん。彼らには山口組を名乗る資格はない」

 白を黒だと言われることも、しょせん畳じゃ死ねないことも~。健さんの唐獅子牡丹が聞こえてくるようですな。
 山口組の分裂で「仁義なき戦い」が始まるのか、興味半分怖さ半分の野次馬としては目が離せない。
 冒頭の発言は『新潮』に載っている指定暴力団山口組の直系組長の言葉だが、情報戦では、山口組を出ていった「神戸山口組」のほうが上回っていた。
 さらに『週刊文春』(10/1号)によれば、9月17日に警視庁が約50人体制で名古屋市中区にある山口組の二次団体「司興行」の本部事務所に家宅捜索に入ったという。
 「司興行」といえば、山口組六代目の司忍(つかさ・しのぶ)組長が1967年に立ち上げ、山口組を牛耳る「弘道会」の中核組織だそうである。
 今年6月には三代目の森健次組長が「直参(じきさん)」と呼ばれる山口組の直系組長に昇格を果たした有力団体で、警察当局は常にその動向を追ってきたという。警視庁関係者がこう明かしている。

 「今回の家宅捜索は、二日前に逮捕された司興行の本部長、川崎誠治容疑者と共犯の山口組の二次団体『岸本組』幹部の森本展生容疑者らによる恐喝事件に関連して行なわれたものです」

 都内の飲食店経営者から恐喝されていると被害届が出されたため、継続捜査していたようだが、「そんな時山口組が分裂し、弘道会系の組織に手を付けられる絶好の機会だとして、一気に捜査着手への気運が高まったのです」(先の警視庁関係者)。報道では、新組織を立ち上げた連中が山口組の金銭に関する内部資料を持ち出し、警察に持ち込んだというものもあった。
 どうやらここまでは、警察とタッグを組んで攻める「神戸山口組」、守るに懸命な「山口組」という構図だ。週刊誌の報道などを見ても6対4の割合で新組織寄りの記事が多いように思える。危機感を抱いたのだろうか、山口組の幹部が『新潮』に口を開いたが、その論法は「ヤクザってのはな~」という健さんや鶴田浩二のセリフのようで、私のような古い人間には納得できるところがあるのだが。
 『新潮』のインタビューを要約すると、
 今回の騒動は「分裂」ではなく、親分の盃を飲んだ人間が盃を返すことなく出ていったのだから「謀叛」というべきで、ヤクザの世界では万死に値する犯罪だ。
 司組長が総本部を名古屋に移そうとしていたなどということは全くない、作り話だ。司組長がカネにがめつい人間のようにいうが、直系組織が支払う会費は100万円前後で、山口組の運営に使われるカネであって組長個人が私腹を肥やすカネではない。山口組には金銭に関して詳細に記した資料はない。ミネラルウォーターや日用雑貨を買わせているのは事実だが、せいぜい月に5万から20万円程度等々。
 だが、司組長になって「引退する親分に1億円の餞別を払っていた」というのはすごい。それも引退する親分が相次いでいるので、直系組長が分担拠出する金額が2000万円になってしまったそうである。
 彼の言い分をそのまま信じるわけにはいかないが、「マスコミは鉄砲をバンバン撃つんじゃないかと煽りますが、そんなことは起こらへんのです」(同)という件は頷ける。
 鉄砲を撃っただけで10年、人をケガさせたら20年、相手が死んだら無期懲役を食らうのでは「鉄砲玉」を買って出る若い奴はなかなかいないだろう。
 山口組側は、新組織から脱落する連中が多く、現在は800人もいないのではないかと読んでいるようだ。最後に直系組長は、世間をお騒がせしたことを詫び、「こういうことになった原因がどこにあるのかを検証」すると言っている。不祥事を起こしたどこかの企業の広報担当重役のセリフのようで可笑しい。
 暴排法(暴力団排除条例)などで追い詰められ衰弱してきている暴力団組織だから、この分裂騒ぎは「一和会」戦争のように、組長の首を狙うような大事にはならないで膠着状態が続いていくのかもしれない。

 第1位。3人の入居者が相次いで転落死した介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」などを全国展開している株式会社「メッセージ」最高経営責任者・橋本俊明会長(66)を『文春』が直撃している。
 『文春』によると、過去2年間で全国の「アミーユ」施設で5人が事故死、疑いのあるものも含めて9件の虐待が発生しているという。
 ここは入居の際のおカネがいらず、月々の費用も多少安いために入居希望者は多いそうで、全国に303施設、総入居者数は1万6000人を超え、営業収入は790億円にもなるそうだ。一大介護コンツェルンである。
 橋本氏は岡山大学医学部の第一外科医局を経て81年に橋本胃腸科外科医院を開業。91年にリハビリ主体の老人保健施設を立ち上げ、そこから介護事業にのめり込み始めたという。
 当初は、海外の施設を見て日本の介護のあり方に疑問を呈したり、老人に安い値段で施設を提供したいという「高邁な理想」をもっていたというが、大きくなるにつれて理想は金儲けへと変質していったようだ。
 介護付き有料老人ホームだから、入居者に対して介護職員が3対1の割合で配置されるべきだが、「全国のアミーユを視察したところ、職員が全然いませんでした」(介護コンサルタント)。他産業との賃金格差を是正するために厚労省から支給される「介護職員処遇改善加算」という補助金も都内にある「アミーユ光が丘」の場合、まったく反映されていないという。
 『文春』によれば橋本会長と家族の個人資産は140億円以上になるそうだ。「岡山のビバリーヒルズ」といわれる豪邸に住む橋本氏は、不祥事や経営のあり方にどう答えるのか。
 今回の不祥事について説明責任があるのではないかという質問には、個人的には感じていることはあるが、川崎市の第三者委員会などがあるので、その前には言わない。会長といっても取締役の一人だからと逃げを打つ。
 被害者に謝罪したいという気持ちはあるかという問いには、

 「川崎の方は第三者委員会がすぐ迫ってますから。第三者が『それは不可抗力でした』と言ったら『ああ、そうですか』と言うし、『それは責任です』と言ったら『ああ、そうなんでしょうね』という風に考えるだけの話です」

 ここまで書き写してきて、はらわたが煮えくりかえって仕方ない。こんな施設でも頼って入居してくる老人たちやその家族が不憫に思えてならない。
 まさに貧困ビジネスの最たる施設ではないのか。介護は金儲けの手段。そう考えてこの業界に参入した居酒屋チェーンのワタミが次々に施設を閉鎖し、介護事業から撤退するのではないかといわれている。
 老人福祉を根本から見直し、介護に従事する人たちの給与をアップしないかぎり、こうした問題のある施設はなくならないはずである。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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