安倍晋三総理大臣が第三次改造内閣の看板として掲げた「新三本の矢」の一つに「夢をつむぐ子育て支援 希望出生率1.8の達成」を打ち出した。

 「希望出生率」は、若い世代がその「希望」通りに結婚し、子どもを持った場合に想定される合計特殊出生率のことだ。希望出生率は増田寛也(ひろや)・元総務大臣が座長を務める民間研究機関「日本創成会議」が打ち出したことで知られる。また、合計特殊出生率は1人の女性が生涯に産む子供の平均数の推計値のことをいう。

 既婚者の割合や夫婦の予定子供数、未婚者割合などから「希望がかなった」場合の合計特殊出生率「1.8」という数字を算出した。安倍政権は2020年代半ばにこれを達成することを目標に掲げたわけだ。

 1.8の実現は容易ではない。2014年の合計特殊出生率は1.42と1.8に遠く及ばないからだ。1.8の達成に向けて安倍政権は少子化対策に本腰を入れるというが、政府はこれまでもいろんな策を講じてきたはずだ。実現に向けて新たにどんな施策を打ち出すというのか。そのための財源はどう確保するのか。若い世代が結婚し、安心して子育てを行なえる環境づくりが必要だが、それがほとんど見えてこないのだ。

 逆に改正労働者派遣法を成立させるなど非正規雇用の固定化につながるような施策が行なわれており、これでは若い世代は結婚し、子どもをつくり育てる意欲を失うのではないか。

 希望出生率1.8は新三本の矢の一つとされているが、矢ではなく的ではないのか。しかも矢が届きそうもない的だ。来夏の参院選向けのスローガンや掛け声、「希望」程度のつもりだったら国民からしっぺ返しを受けることになる。
   

   

マンデー政経塾 / 板津久作   


板津久作(いたづ・きゅうさく)
月曜日「マンデー政経塾」担当。政治ジャーナリスト。永田町取材歴は20年。ただいま、糖質制限ダイエットに挑戦中。
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