毎年、冬から春にかけて流行するインフルエンザ。体力の弱い小児や高齢者などがかかると肺炎を併発するなど重症化することもあるためやっかいだ。流行前にワクチンを接種して予防することが推奨されているが、今年はワクチン価格の値上がりが懸念されていた。

 日本で使用されるインフルエンザのワクチンは、国内の流行状況、WHO世界インフルエンザ監視対策システムなどを介した世界各地の情報などから、次のシーズンの流行を予測し、厚生労働省が製造するワクチン株を決定している。

 昨シーズンまでは、インフルエンザウイルスのA型2種類、B型1種類に対して免疫をつけるものが作られていたが、最近はB型2種類の混合流行が続いており、予測が難しくなってきていた。そのため、2015年度からはA型2種類、B型2種類の合計4種類のウイルス株に対応可能な「4価インフルエンザワクチン」が導入されることになった(下記※参照)。

 ウイルス株が3種類から4種類に変更されたことで製造コストが増加し、医療機関の購入価格は昨年の1.5倍程度に上昇。それに伴い、個人の負担も重くなるため、そのことによる影響が懸念されていた。

 インフルエンザワクチンの予防接種は保険が適用されず、全額個人負担となる。一部公費負担(定期予防接種)で受けられるのは、原則的に65歳以上の高齢者のみなので、経済的な理由でインフルエンザワクチンの接種を見送る人が増える可能性もある。

 そのため、高齢者の定期接種の負担をする市区町村や医療者団体から、厚生労働省に対してワクチン接種の負担を抑える特別な対策をとってほしいという意見が届けられるようになった。

 これを受けた厚生労働省健康局結核感染症課は、「インフルエンザHAワクチン予防接種の円滑な実施への協力について(依頼)」を通知。日本医薬品卸売業連合会のほかワクチン製造メーカーに対して、「ワクチン価格につきまして、特段のご配慮をいただきたくお願い申し上げます」という異例の依頼が行なわれたのだ。

 その後、製造メーカーからは「検討する」という前向きな回答が出されており、ワクチン価格の上昇はわずかながら緩和された。ただし、接種料金は昨年に比べて500~1000円程度上昇しており、個人負担は増えそうだ。

 インフルエンザをはじめとする感染症を防ぐためには、ワクチンは集団で接種しなければ、その意味が半減してしまう。大流行した場合は、子どもや高齢者、病気で免疫力が低下している人など体力の弱い人が重症化し、命の危険にさらされやすくなる。

 予防接種率がワクチンの価格によって大きく左右されると、医療体制や国民医療費にも影響を及ぼす。病気を防ぐためのワクチンは、誰がその費用を負担するべきなのか。4価インフルエンザワクチンによって起こった騒動を、今後の公衆衛生を考える契機にしてほしい。

※2015年度インフルエンザワクチン製造株
A型株
・A/カリフォルニア/7/2009(X-179A)(H1N1)pdm09
・A/スイス/9715293/2003(NIB-88)(H3N2)
B型株
・B/プーケット/3073/2013(山形系統)
・B/テキサス/2/2013(ビクトリア系統)
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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