9月28日から始まったNHK朝の連続テレビ小説。93作目にして初めて幕末からドラマが始まったが、4週連続で20%を超す高視聴率を得ている。

   幕末に京都で呉服屋と両替屋を営む豪商の家に生まれたおてんば娘・あさ(波瑠(はる))が大阪の両替商に嫁ぎ波瀾万丈の人生を辿るというストーリーである。

 あさにはモデルがいる。“明治の女傑”といわれた広岡浅子(1849(嘉永2)年~1919(大正8)年)で、彼女は大同生命を立ち上げるなど女性実業家として激動の時代を切り拓き、日本初の女子大学「日本女子大学」を創設する。

 ドラマの魅力は、天真爛漫で男顔負けの度胸も持つあさを演じる波瑠と、その姉で、あさとは対照的な人生に翻弄されるはつ役の宮﨑あおいに負うところが大きいが、脇役陣もNHKならではの豪華さである。

 なかでもあさの嫁ぎ先、加野屋の次男坊、白岡新次郎を演じる玉木宏がいい。家業を嫌い遊び歩く優男だが、今どき珍しい落語に出てくる放蕩の限りを尽くす若旦那の雰囲気を漂わせ、惚れ惚れさせる。

 波瑠は夏目雅子を髣髴とさせる目力の強さと愛くるしさを持った女優で好感度は抜群。正反対の性格だと私などは思うが、はつ役、宮﨑あおいの健気な演技が心憎いほどうまい。

 ドラマは史実とフィクションをない交ぜにして進んでいくようだ。『週刊ポスト』(11/13号、以下『ポスト』)は今後、こう展開すると読んでいる。

 あさは嫁ぎ先の両替商「加野屋」の借金返済のために買った九州の炭坑へ一人で行くのだが、女が乗り込んだことで炭坑夫たちは猛反発する。だが、持ち前の負けん気でなんとか乗り切る。だが今度は炭鉱で落盤事故が起こり、再び窮地に追い込まれる。

 その後、あさは東京へ出て渋沢栄一や大隈重信、井上馨など明治の政財界の大物たちと出会って、実業家への道を歩み始める。

 一方のはつは、大阪一の老舗両替商「山王寺屋」に嫁いだものの、維新後、両替商は没落してしまう。

 流転の末、はつは実家の母から譲り受けた和歌山の家で暮らすことになるという。

 史実では広岡浅子の姉はこの時期に27歳で亡くなっているというが、『ポスト』でライターの田幸和歌子氏は、姉妹の絆が重要なテーマなので史実とは違うストーリーにするのではないかと推測している。

 今後の展開を楽しみにしてもらうとして、このドラマのもう一つの主役は商都・大阪である。船場商法ともいわれ、一時期は東京を凌ぐ経済の中心であった。

 松下電器産業(現・パナソニック)や住友金属工業(現・新日鉄住金)、川崎製鉄(現・JFEスチール)をはじめ伊藤忠商事、丸紅、住友商事、日商岩井 (現・双日)、トーメン(豊田通商と合併)、日綿実業(現・双日)はいずれも大阪の企業であり、ダイエーやサントリー、朝日新聞も大阪から生まれている。

 ドラマであさの師として描かれ、ただ一人実名で登場する五代友厚(ディーン・フジオカ)は「大阪経済の父」「日本の財界をつくった男」といわれた。

 『週刊現代』(11/14号)で鹿児島県立図書館館長の原口泉氏がこう語る。

 「彼は、まだ鎖国時代の少年期に地球儀を作るほど世界に目を向けており、長じてからは欧州を回って産業革命で沸く英国のマンチェスターやコーンウオールの製鉄所を目のあたりにした。幕末の最終局面では、薩長は英国を、幕府はフランスを後ろ盾にしていましたが、五代は日本が近代化して列強に伍していくためには、外国資本に頼らず日本の民間企業が株式会社を作って産業を興すべきだと考えたのです」

 五代は鉱工業などを手掛けるとともに、大阪株式取引所や大阪商法会議所(大阪商工会議所)の創設を推進して、明治初期の大阪商人の間でリーダー的存在になっていった。

 こう見てくると、名古屋に迫られ、地盤沈下が激しい大阪経済にカツを入れ、かつての栄光を取り戻せと励ますドラマだと見ることもできるようだ。

 東京にあさが出ていくとき一緒に上京した相手は五代だそうだから、あさの口癖である「びっくりぽん」な展開で、朝ドラには珍しい「不倫」が描かれるかも知れない。

 そうなれば朝ドラ史上最高視聴率は間違いないと思うのだが、ご清潔なNHKでは無理だろうか。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 早いもので高倉健が亡くなって1年になる。11月21日は立川談志師匠の命日だが、もう4年が経つ。去る者は日々に疎しとよくいわれるが、私は嘘だと思う。ノンフィクション・ライターの本田靖春(やすはる)さんは12月4日で亡くなってから11年になるが、私のなかでは毎年存在感が大きくなっている。
 私が亡くなったら、わずかでも自分のことを覚えている人がいてくれたらと、チョッピリそんなことを思う今日この頃である。

第1位 「没後1年で語られ始めた『高倉健』密葬の光景」(『週刊新潮』11/19号)
第2位 「『クローズアップ現代』やらせの隠蔽 NHK籾井会長『あいつは敵だ』支配」(『週刊文春』11/19号)
第3位 「松重豊『孤独のグルメ』撮影現場インタビュー」(『週刊文春』11/19号)

 第3位。私もよく見ている『孤独のグルメ』(テレビ東京系)についての『文春』の記事。この番組で困るのは、ここで紹介された店には客が殺到して、常連客が入れなくなることだ。
 よく使っていた青山の鉄板中華『シャンウェイ』は、電話をかけたら1か月待ちだといわれた。この番組は松重豊(まつしげゆたか、52)がただひたすら食べるだけだが、松重の食べっぷりがいいのが魅力である。
 松重が演じる五郎は下戸という設定だが、本人は『文春』のインタビューで、「毎日三、四皿のつまみを肴に、ビールと日本酒一合で晩酌をします」と答えている。この番組の制作スタッフたちは下見を200軒、店が決まれば出演交渉やロケハンなどで一店舗に5、6回は行くからどんどん太るそうだ。
 だが、松重はあれほどうまそうにすべてを毎回完食するのに太らない。その訳をこう話している。

 「実は、それなりに苦労はあるんですよ。(中略)
 だから毎朝犬の散歩で六キロ歩いています。それから、家に帰って朝六時半からやっているお年寄り向けのテレビ体操を十分間やって、その後、腹筋ローラーを三十往復。そうするとね、ジムに行かなくても有酸素運動と筋トレができますから。それでキープできているんだと思います」

 私もオフィスで毎日、ラジオ体操と簡単なストレッチをやっているが、腹筋ローラーってのを買ってみようかな。

 第2位。同じ『文春』が巻頭でNHK『クローズアップ現代』のやらせ問題について、BPO(放送倫理・番組向上機構)が「重大な放送倫理違反があった」と断罪したことを報じている。
 昨年5月14日放送の「追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~」でやらせがあったという。N記者がインタビューしたブローカーはN記者の友人で、ブローカーではなかったのだ。
 BPOの判断は当然であり、こうした不祥事だけではなく、さまざまな問題が起きる背景には籾井(もみい)会長の「恐怖政治」があることも事実だが、もっと問題なのはBPOが指摘している「政治介入」である。
 BPOは、この問題をめぐって放送に介入する政府・与党の動きが見られたことに対し、これは「放送の自由と自律に対する圧力そのもの」と厳しく批判したが、菅官房長官や谷垣幹事長らは猛烈に反発している。
 BPOはNHKと民放連によって自主的に設置された第三者機関である。こうした問題に政治家が口を挟んでくるのは口幅ったくいえば憲法違反である。
 そこへ言及しなかった『文春』の報道には、やや不満が残った。「春画事件」で編集長が3か月の休養を命じられ、次期社長候補といわれる木俣氏が編集長を務めてから、失礼だがやや誌面が精彩を欠いていると思うのは、私だけだろうか。
 この件を月刊誌『創』12月号が詳しく報じているので要点を紹介しよう。
 10月8日、文藝春秋本社の2階にある『週刊文春』の編集部に松井社長と木俣常務、鈴木洋嗣局長が出向き、編集長の休養を編集部員に告げた。
 理由は春画を掲載したことが『文春』のクレディビリティ(信頼性)を損なったためだという。松井社長の次の言い分に、私は違和感を感じた。

 「『週刊文春』は代々、ヘアヌードはやらないという方針でやってきました。振り返れば辛い時代もありました。『週刊現代』、『週刊ポスト』をどうしても追い抜けない時代があった。理由は『週刊文春』にはヘアヌードが載っていなかったからです」

 家に持って帰れる週刊誌だからやせ我慢してヘアヌードを載せなかった。その信頼を今回は裏切ったというのである。
 この「歴史認識」は間違いである。創刊してしばらくはともかく、『週刊現代』は出版社系週刊誌のトップを走り続け、『週刊ポスト』が創刊されてからは『現代』と『ポスト』が首位争いを繰り広げてきたのである。
 たしかに私が『現代』編集長になる数年前から『文春』が『現代』を追い抜いたことはあったが、それは『現代』が大きく部数を落としたからであった。
 たしかに『現代』、『ポスト』はヘア・ヌード(正しくはこう書く)で部数を伸ばしたが、それだけが理由ではない。読者に受け入れられる誌面づくりに力を入れた結果で、企業努力をしなかった週刊誌が悔し紛れに、ヘア・ヌードの御利益ばかりを言い募っただけである。
 毎週『文春』は新聞広告で、何十週ナンバー1などと謳っているが、ほかの週刊誌の部数が大きく落ちたので、落ち幅が少ない『文春』が上にいるだけではないのか。
 まあ、それは置いとくとして、社長のやり方は編集権の介入ではないか、春画は芸術である、編集長は更迭かなど、編集部から疑問の声が上がったという。当然である。
 春画を猥褻とする考えは、私も理解しがたいが、編集長休養の背景には、AKB48などの芸能ものに力を入れる、編集長の「軽薄路線」が首脳部をイラつかせていたこともあるようだ。
 あと2か月経って新谷編集長が復帰してきたら、どういう誌面をつくるのだろう。注目したい。

 第1位。11月11日は高倉健が亡くなって1年になる。BSを中心に健さんの映画を何本も流していた。
 健さんの映画の中で個人的に好きなのは、結末がイマイチだが『駅 STATION』がいい。北海道の雪深い町のどん詰まりにあるうら寂しい赤提灯で、女将の倍賞千恵子と健さんが、紅白歌合戦で八代亜紀が唄う「舟歌」を聞きながら、何気ない会話を交わすシーンが好きだ。
 一夜を上にある彼女の寝間で過ごした健さんが、朝、歯を磨きながら、倍賞から「私の声大きくなかった?」と聞かれ、「すごかったな」と一人呟くのが微笑ましかった。
 『新潮』は、健さんが死ぬ前に養子縁組をして、唯一の子供として彼の遺産を引き継いだ養女(51)について、あまり芳しくない噂があるとレポートしている。
 健さんは4人きょうだいの二番目。兄と上の妹は物故しているが、下の妹の敏子さん(80)は九州で健在だという。きょうだいたちにはそれぞれ子どもがいるが、健さんの死は事務所が公表するまで知らされなかったし、密葬にも呼ばれていない。
 驚くのは、健さんは江利チエミとの間にできた「水子」が眠っている鎌倉霊園に墓地をもっていたが、健さんと親しかった「チーム高倉」たちが、供養塔をそこにつくれないかと霊園側に持ちかけたところ、霊園側から「管理費が滞納されている」ことを告げられたというのである。
 養女が忘れていたのかもしれないが、礼を失しないことを大切にしてきた健さんが生きていたら、いちばん嫌がることではないだろうか
 養女は過去に2度離婚経験があるそうだ。その後19年ほど前に健さんが「家の仕事をしてくれる人を探している」と親しくしていた寿司屋の大将に話し、彼女が敷地内の別の建物に住むようになった。
 そしてしばらくすると二つの建物をつなげ自由に行き来できるように改築したという。
 養女の実父は東京・板橋区の古い住宅供給公社の団地に住む。壁は塗装がだいぶ剥げ落ちていると『新潮』が書いている。父の久夫さん(80)は、妻とは30年くらい前に別れているという。

 「去年パジェロに乗ってやってきたけど、わたしの吸うタバコの煙を嫌がって、“もう来ない”とすぐに帰ってしまいました。珈琲セットとか果物を贈ってきたり、年賀状のやりとりはあったけど、最近はなくなりました。で、高倉健ですか。養子になったというのは聞いてなかったです。そう言えば2年くらい前に来たときは、30万円が入った封筒を置いて行きました」

 彼女は千代田学園に通う18歳のときスカウトされて芸能界入りし、20歳でデビューした。はじめは民謡歌手のアシスタントなどをしていたが、橋田壽賀子や山田太一のドラマに出るようになったそうだ。
 名優・笠智衆に可愛がられたと父親が話している。しかし芸能界の仕事から次第に離れていったという。健さんが愛した最後の女性は健さんにふさわしい人であってほしい。そんなファンの思いに彼女がかなり重圧を感じていることは想像できる。ぜひ、表に出てきて素顔の健さんの思い出を語ってほしいものである。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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