いま、興行の世界が重大な危機を迎えている。2020年東京五輪に備えた改修のため、関東エリアの代表的な劇場・ホールの多くが使用不可となってしまうのだ。以前から、それぞれの経営的な事情により大型会場の閉鎖が相次いでいることもあって、2016年にコンサートや舞台芸術を行なうための会場は著しく不足している。これがエンタメ業界を悩ませる「2016年問題」だ。

 2013年に横浜BLITZや渋谷AX、2014年に国立競技場、2015年に青山劇場などが閉鎖されたことは記憶に新しい。加えて2016年以降、改修・建て替えの予定が発表されているのは、さいたまスーパーアリーナ、横浜アリーナ、渋谷公会堂、東京国際フォーラム、代々木体育館など。名だたるライブの殿堂ばかりである。CDの売れない時代、アーティストにとってライブでの収益は生命線となるが、2016年問題は不振にあえぐ音楽業界にとってまさに泣きっ面に蜂なのだ。

 では、地方の興行を増やせばいいのでは、という意見も当然出てくる。だが事態はそう単純ではない。じつのところ、地方公演はあくまで「首都圏での収益ありき」なのである。アーティストのツアーというものは、スタッフ一同でのなかなか予算のかかる行軍だ。首都圏でライブが行なえない場合、その影響を受けて地方もまわれなくなる可能性がある。

 2015年11月には、この問題を周知させるべく能楽師の野村萬氏、サカナクションの山口一郎氏らが記者会見を行なった。事態は音楽業界だけでなく、古典芸能やバレエなどあらゆる舞台芸術に関わってくる。改修の工事時期をずらすなど、各方面での協議も行なわれているが、これといった解決策は見つかっていない。この「問題」は、不安なことに2016年以降も続いてゆく。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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