12月16日、最高裁大法廷は「夫婦別姓」を求めて争われていた注目の裁判で、原告の請求を退け、夫婦同姓を定める民法の規定を合憲と判断した。

 民法第750条では、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めている。これは明治時代に始まり、戦後に「家制度」を廃止したあとも残された規定だ。夫婦同姓を義務付ける国は世界のなかで日本だけとされており、国連からも是正を求められている。

 1996年、法務省の法制審議会は、夫婦の希望によって別々の姓を名乗れる「選択的夫婦別姓制度」の導入を提案。だが、政府与党である自民党内に「日本の伝統を壊す」「家族が崩壊する」などの反対意見が多く、制度導入は棚上げにされてきたのだ。

 そのため、2011年には、事実婚の5組の男女が、夫婦別姓を認めない民法の規定は婚姻の自由を侵害しているとして、国を相手に提訴。一審、二審ともに原告が敗訴し、上告していたが、国内の科学者84万人を代表する日本学術会議が「違憲判決が出ることを強く期待」とコメントするなど、最高裁での判決に注目が集まっていた。

 だが、最高裁裁判長の寺田逸郎(いつろう)長官は、夫婦同姓が日本の社会に定着していることから合理性があるとして、民法750条の規定を合憲と判断。原告の請求を退ける結果となった。ただし、今回の判決は、選択的夫婦別姓制度に合理性がないと断ずるものではなく、国会での議論を促す形となった。

 また、ジェンダー問題を扱うだけに、裁判官の男女構成比も問題になった。最高裁の裁判官15人のうち、女性はわずか3人。今回は、その3人の女性裁判官すべてが「民法の規定は違憲」と反対したにもかかわらず、10人の男性裁判官による多数意見で判決が下された。裁判官の男女構成比が、判決に影響を及ぼしているとも考えられる。

 結婚後も働き続ける女性が増えるなか、仕事で使う旧姓と戸籍上の氏が異なることでの混乱も多い。

 夫婦別姓だと「子どもによくない影響がある」「家族の一体感が損なわれる」といった意見もあるが、そこには明確な科学的根拠は示されていない。そもそも、家族は必ず一体感を持って暮らさなければいけないものでもないはずだ。

 最高裁判決は下されたが、現実的には夫婦別姓論議に決着がついたわけではない。古くからの因習や感情論ではなく、現実社会で人々が暮らしやすい戸籍制度とはどのようなものなのか、今後も議論を続けていく必要がある。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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