作家。享年85。代表作に『エロ事師たち』『アメリカひじき』『火垂るの墓』『骨餓身峠死人葛』『文壇』などがある。

 1930年神奈川県鎌倉市で生まれたが実母は彼を産んですぐ亡くなり、養子に出されている。1945年の空襲で養父も失い、上京して少年院にいるところを実父に引き取られたそうだ。

 直木賞を受賞した『火垂るの墓』は1945年、下の妹を疎開先の福井県で栄養失調で亡くした自分の体験に基づいて書いたものである。

 早大文学部仏文科に入学して7年間在籍する。1962年に出した『プレイボーイ入門』で 「元祖プレイボーイ」として脚光を浴び、1963年『エロ事師たち』で文壇デビュー。同じ年に『おもちゃのチャチャチャ』でレコード大賞童謡賞を受賞している。

 サングラスと早口で相手を挑発する言動が度々話題になったが、根は気の弱い優しい人であったと、野坂氏と交友のあった多くの人たちが語っている。

 私は、野坂氏とはほとんどお付き合いはなかったが、講談社にはよく来ていて、エレベーターで一緒になった。トレードマークのサングラスがとても格好良かった。私も真似て黒のメタルフレームのサングラスをかけていたことがある。あるとき野坂さんが私のそれを見て何やら言いたそうにしていたが、そのまま別れた。その後、某パーティで会ったら私と同じメタルフレームに変えていた。

 野坂さんに原稿を頼み、神楽坂の物書き旅館「和可菜」にもらいに行ったことがある。このときは無愛想な野坂さんで、原稿の入った封筒を放り投げるように渡したきり、背を向けてしまった。

 銀座のバーや新宿ゴールデン街などで会う酔っ払った野坂さんは、呂律が回らず何を言っているのかよくわからないが、誰彼かまわず話しかけてくる人懐っこいところがあった。私同様、吉永小百合の大ファンでもある。

 シャイで繊細な人であったと『週刊新潮』(12/24号)で元タカラジェンヌで妻の野坂暘子(ようこ)さん(74)が話している。

 「お酒といえば、サングラスと同じく“シャイな自分を隠すため”なんて世間で言われていた通り、野坂にとっては気付け薬のようなものでした。(中略)
それでも家庭では、本当に丁寧な人でした。私は、名前を呼び捨てされたり『おい』なんて言われたことは一度もなく、結婚当初からずっと『あなた』と呼ばれていました。元来育ちは良い人で、食事の作法も実にスマート。養子に行った先の神戸のお宅でも、相当に厳しく躾けられたのだと思います」

 自分で「酒はどしゃ飲み」と言っているように、雑誌『酒』(昭和47年新年特別号)の「文壇酒徒番附」で作家・立原正秋氏と並んで東の横綱とされている。

 酒での武勇伝は数知れない。有名なのは大島渚監督夫妻の真珠婚式で、自分の祝辞の番を飛ばされたと勘違いした野坂氏が大島氏をいきなりぶん殴ったことである。大島氏も負けじとマイクで殴り返したが、二人の友情にヒビは入らなかった。

 行動の人でもあった。72年には氏が編集長をしていた雑誌『面白半分』に掲載した『四畳半襖の下張り』がわいせつ文書販売容疑で摘発されると、敢然と法廷闘争を挑んだ(最高裁で有罪が確定)。

 クロード野坂と称して歌手活動もし、小沢昭一、永六輔と「中年御三家」を結成して武道館でライブを行なって大成功させている。彼が吹き込んだ『黒の舟唄』はかなりヒットした。

 参議院議員になった後、田中角栄の金権政治を批判して旧新潟3区から出馬するなど、常に時代を挑発し続けた人だった。

 だが03年5月に脳梗塞で倒れてから、夫人との二人三脚が始まった。暘子さんによれば、発症してからあれだけ好きだった酒とタバコをキッパリ止めたという。右手が動かなくなり夫人に口述筆記をしてもらっていた。議論好きが喋ることもかなわなくなってしまった。

 「それなのに野坂は、ついに死ぬまで、ひと言も文句や不平不満を口に出しませんでした。どれだけ苦しかっただろうと思います」(暘子さん)

 焼け跡闇市派と称していた野坂氏は最後まで、「『戦争について語るために僕は生きているんだ。日本が目の前で崩れていくのが見えるようだ。もっともっと戦争の恐さを伝えていかなくてはいけない』」(暘子さん=『週刊文春』〈12/24号〉より)と言っていたという。

 葬儀は野坂氏の生前の希望を生かして無宗教で戒名なし。祭壇には野坂氏の遺骨が置かれたという。

 弔辞を読んだ作家・五木寛之氏(83)は「野坂さんは1960年代の象徴だった」と言った。「二度と飢えてる子どもの顔は見たくない」(永六輔氏)と言い続け、ノンフィクション作家の本田靖春氏とともに、戦後民主主義を頑ななまでに守ろうとした人であった。

 良寛の辞世の句に「うらを見せ おもてを見せて 散るもみぢ」がある。紅葉が裏を見せ表を見せてひらひら散るように、人間は喜びや悲しみ、長所や短所など、さまざまな裏と表を世間にさらけ出しながら死んでいく。

 野坂氏の書くものも彼の生き方も、自分の裏も表もさらけ出した。それでも最後にはこう呟くのである。

 「いとしいなあ、いとしいなあ……人間生きたる限り、そういうもんや……」(野坂昭如著『エロ事師たち』より)

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 今年もあとわずか。来年は今年よりもよい年になるように祈りたいが、週刊誌の予測では波乱の多い年になるようである。温暖化は年ごとに早さを増し、東京周辺での大地震も囁かれている。日本沈没、いや世界が沈没する日が近いのかもしれない。一日一生と思い定めて生きていかなくてはならないようだ。

第1位 「テレビ通販番組で銃を売るって正気?」(『ニューズウィーク日本版』(12/22号)
第2位 「2016年大予言 日本の天国と地獄」(『週刊ポスト』1/1・8号)/「2016年大予測! ニッポンが変わる世界が変わる」(『週刊現代』1/2・9号)
第3位 「こんなにあるぞ! あと5年頑張れば死なずに済む病気」(『週刊ポスト』1/1・8号)

 第3位。『ポスト』が紹介している新薬の話。国内で年間約7万2000人が命を落とす肺がん治療で注目を集める新薬が「免疫チェックポイント阻害薬」だという。

 「人体に備わっている免疫細胞は異物や細菌などを攻撃し、身体を病原体から守る。これまでの抗がん剤はその攻撃力を高めるものが主流だったが、一方でがん細胞側には、免疫細胞からの攻撃を弱める『PD-L1』というタンパク質が備わっていることが最近の研究で明らかになった。要は抗がん剤で免疫の“アクセル”を踏んでもがん細胞側が同時に“ブレーキ”を踏む状態になっていた。
 慶応大学医学部先端医科学研究所所長の河上裕教授が解説する。
 『このブレーキを破壊すれば、免疫細胞はがん細胞を効果的に攻撃できます。「免疫チェックポイント阻害薬」はブレーキ役の「PD-L1」を無効にするよう働きかけます』」(『ポスト』)

 米製薬会社「ブリストル・マイヤーズ スクイブ」の研究では、この新薬は肺がん患者の死亡リスクを既存の抗がん剤より4割も減らしたというのである。
 日本ではすでに世界に先駆けて「免疫チェックポイント阻害薬」の実用化が進んでいる。小野薬品工業が開発した薬が新規治療薬として承認されたそうだ。近い将来肺がんでも適用される予定だという。
 糖尿病も国内で年間約1万3000人が亡くなる。I型糖尿病は生活習慣とは無関係に、血糖値を下げる働きを持つインスリンが分泌されなくなる病気だが、この糖尿病を抜本的に治療するため、山中伸弥・京大教授が所長を務めるiPS細胞研究所は、iPS細胞などの幹細胞を使ったβ細胞の作成に心血を注いでいる。
 すでに米ハーバード大学などのチームがヒトの幹細胞からインスリンを分泌する細胞を作成することに成功しているという。この細胞を手術で人体に移植すれば、インスリン分泌の機能が回復するかもしれないというのだ。そうなれば、I型糖尿病の完治も夢ではない。
 また、若返り薬もできそうだという。米・ウォールストリートジャーナルなどによると、寿命を延ばすとされる薬「メトホルミン」の臨床試験をアメリカの米食品医療品局(FDA)が世界で初めて承認したそうだ。
 これはもともと糖尿病の治療薬として広く使われていたそうだが、英カーディフ大学の研究者が調べたところ、この薬を投与された糖尿病患者が、他の患者より平均8年も長生きしたことから研究を始めたというのだ。
 研究者は投薬により人間の老化を20年遅らせる効果があると主張しているという。

 第2位。『ポスト』と『現代』がともに来年の予測をやっている。『ポスト』から見出しを見てみよう。「山口組VS神戸山口組『正月抗争』勃発!」「軽減税率で屈服した自民党&財務省が通常国会で『菅降ろし』クーデター」「フジテレビ民放最下位に転落 カトパンほか人気女子アナが流出」「東芝、シャープ、そしてソニーが大合併 新社名は『シャー芝ソニー』!?」「参院選『自民圧勝』に大異変! 共産党が『大衆党』に党名変更」「トランプ大統領誕生でついに日本は戦争に駆り出される!」などなど。
 『現代』のほうは「『株価1万5000円割れ、1ドル100円』と読む専門家もいるが、実際のところは」。
 『現代』によれば、来年夏、来年秋以降を「要警戒」とする声は多いという。

 「来夏の選挙以降、安倍政権が経済政策に関心を失い、安保政策へ傾注し始めれば危険。これまでは日本銀行や年金基金などの公的マネーに支えられてきた面が大きいので、政策転換が意識されれば、日本売りに火がつく。年末には1万6000円まで売り込まれる事態もあり得る」(BNPパリバ証券日本株チーフストラテジストの丸山俊氏)
 「直近の中間決算で日本企業の下方修正が目立ってきたが、企業業績はすでにピークアウトしており、16年度は大幅減益でしょう。春闘も賃上げどころではなく、暗転。日本株は1万4000円くらいまで売り込まれるでしょう」(ミョウジョウ・アセット・マネジメント代表の菊池真氏)

 あまり明るく見ていないようである。『現代』もやはりアメリカ大統領選はトランプ有力と見ている。
 ジャーナリストの堀田佳男氏はこう言う。

 「『イスラム教徒は入国禁止』といった発言を連発しても、トランプ氏の支持率は下がるどころか上がり、今や共和党内で40%に達しています。
 『トランプ支持者は、教育レベルが低い低所得者』とされますが、一概には言えません。というのも、白人のインテリにも『彼の実行力、行動力は認めざるを得ない』と考える人が増えている。
 アメリカ人にとっては、ビジネスで成功し大富豪になったトランプ氏の、『オレに任せてくれれば、中東和平だってすぐ話をつけてみせる』といった自信満々の発言は、非常に説得力があるのです」

 80年にもまさかは起きている。俳優上がりのタレント候補とバカにされていたドナルド・レーガン氏が、現職のジミー・カーター氏を破り大統領になった。
 巨大地震も心配である。琉球大学名誉教授の木村政昭氏はこう語る。

 「みな、南海トラフの心配ばかりしていますけれども、私が2016年に心配している場所は、伊豆諸島周辺です。ここでM8・5の地震が起きると予想しているのです」

 氏が長年の研究から、この超巨大地震がやってくると予想した期間は2012年±5年。つまり2017年までとなり、刻一刻とその時が近づいている状況だという。木村氏が続ける。

 「とくに震源が東京湾の南東方向だった場合、東京が巨大津波に襲われる可能性がある。これは東京の防災上の弱点とも言えるでしょう」

 来年も波乱の年になるのだろうか。

 第1位。『ニューズウィーク日本版』に驚くべき記事がある。来年1月20日から、カリフォルニア州で全米初の銃器専門通販の放送局『ガンTV』が立ち上げられ、銃や銃弾、付属品の販売をオンラインで行なうというのである。
 12月初めにこの州のサンバーナディーノの障がい者支援施設で銃の乱射事件が起きたばかりだし、ここは全米で最も厳しい銃規制法があるのにだ。
 銃暴力防止団体のローラ・クティレッタ上席弁護士は「銃の犠牲になる人は年間3万人。その多くは自宅で銃を見つけた子供たちだ。(中略)
(銃は=筆者注)夜中の3時にテレビを見ながら、ふと思い立って買うものではない」と、この通販を批判している。
 だが「恐ろしい事件が起きると銃を捨てるのでなく、銃を買いたくなる」(『ニューズウィーク日本版』)のがアメリカ人なのだ。
 銃を買うときには身元審査が行なわれるが、1日の処理が最高だったのは12年に26人が銃の犠牲になったサンディーフック小学校事件の翌日の17万7170件だった。しかし今回のパリのテロ事件が起きた後の先月27日には、その記録を塗り替える18万5345件の身元照合があったという。
 テロを企てようとしている犯罪歴のない人間も、ネットで簡単に銃を手に入れることができるのだ。こんな国に私は住みたいとは思わない。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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