2015年10月、第3次安倍晋三内閣は「一億総活躍社会」を掲げ、経済成長を推進するための「新3本の矢」を提案した。その2つ目の矢が「夢を紡ぐ子育て支援」だ。希望出生率という新たな用語をつくり出し、数値目標を1.8に設定。50年後も人口1億人を維持する社会にするという。

 だが、実際の特殊合計出生率(ひとりの女性が一生の間に生む子どもの数)は、2014年が1.42。安倍首相が言うところの希望出生率とはかなりの開きがある。

 日本の少子化に歯止めがかからない原因のひとつが貧弱な保育環境だ。

 少子化対策のための「子ども・子育て支援新制度」も始まったが、保育所に入りたくても入れない待機児童は2014年の2万1371人から、2015年は2万3167人に増加した(いずれも4月1日時点、厚生労働省発表)。さらに潜在的な待機児童数は85万人とも言われており、働く女性が増えたのに保育所の整備が進んでいるとは言えない状況だ。

 そこで、国は2017年度末までに、保育できる子どもを現在よりも約50万人分増やすことを目標に掲げた。だが、現状では肝心の保育士が約9万人不足している状態だ。この保育士不足を解消するために、今回、打ち出されたのが次の3つの緊急対策だ。

(1)保育士資格があるのに働いていない人の復職
(2)保育士の新規就職と育成
(3)離職の歯止め

 現在、全国で保育士として働く人は約40万人だが、資格をもっているのに働いていない人は約70万人いると言われている。そうした有資格者が復職しやすいように一時金を支給したり、保育士自身が仕事と育児を両立しやすい仕組みをつくる。また、保育士試験の日程も見直して年1回から2回に増やしたり、働きながら保育士を目指す人を支援するという。

 だが、そもそも資格があるのに働いていない人が多い背景には、保育士の給与の低さなど待遇の悪さがあると指摘されている。保育士の平均的な月収は約20万円で、全産業平均と比べると約10万円少ない。未来を担う子どもを保育するという重責を負いながら、収入や社会的評価が低いため、熱意があっても現場を離れざるを得ない状況に追い込まれている人もいる。

 一時的に緊急対策に予算を投じたところで、低賃金労働が解消されなければ、離職に歯止めをかけるのは難しい。保育士はたんに働く人々を支えるだけの存在ではなく、彼らもまたひとりの誇りある職業人だ。

 安倍首相は、新3本の矢で介護離職をなくすこともうたっているが、介護に携わる人もまた保育士と同様に低賃金が指摘されている。

 「一億総活躍」を掛け声に終わらせるのではなく、真剣にすべての人が輝ける社会にするためには、保育や介護などに携わる人々の処遇を根本から見直す必要があるだろう。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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