自由民主党所属の衆議院議員、11期。慶應義塾大学卒業。66歳。自由民主党政務調査会長、労働大臣、経済産業大臣、内閣府特命担当大臣(規制改革)、内閣府特命担当大臣(経済財政改革)等を歴任した。特にTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉が大筋合意に達することができた功労者として、安倍首相の覚えが目出度い。

 だが、『週刊文春』(1/28号、以下『文春』)で、千葉県内の建設会社(薩摩興業)の総務担当者(一色武氏)が、独立行政法人都市再生機構(UR)が行なっている道路建設の補償を巡り、甘利事務所に口利きを依頼し、過去3年にわたり、甘利大臣や地元の大和事務所所長・清島健一氏(公設第一秘書)や鈴木陵允(りょうすけ)政策秘書に資金提供や接待を続け、総額は証拠が残るものだけで1200万円に上っていると告発した。

 2013年11月14日には、大臣室で甘利大臣に面会。桐の箱に入ったとらやの羊羹と一緒に、封筒に入れた現金50万円を「これはお礼です」と渡したと言う。

 『文春』の取材に対して面会をセットした清島所長は、「献金という形で持ってきたのではないですか」と回答した。だが甘利氏の政治資金収支報告書に記載はなかった。

 安倍首相の盟友で重要閣僚。今国会でTPP審議が始まる直前のスキャンダル発覚で、自民党は大きく揺れた。議員宿舎でのオフレコ取材で菅官房長官は「(一色氏は)その筋の人らしいね」と発言し、自民党の高村正彦副総裁は「罠を仕掛けられた感がある」などと、告発者を貶(おとし)め甘利氏を擁護する発言を繰り返した

 『週刊新潮』(2/4号、以下『新潮』)も「『甘利大臣』を落とし穴にハメた『怪しすぎる情報源』の正体」という特集を組み、甘利氏の援護射撃をした。

 たしかに一色氏はやや胡散臭いところがある人物ではあるが、甘利氏や彼の秘書たちが、一色氏の依頼に食らいつきカネを貪ったことは間違いない。元東京地検特捜部の郷原信郎(ごうはら・のぶお)弁護士は「『絵に描いたようなあっせん利得』をどう説明するのか」と自身のブログに書いた。

 「あっせん利得処罰法」について弁護士・櫻井滋規(さくらい・しげのり)氏のHPから概略を抜き出してみよう。

 「(1)公職にある者(国会議員、地方公共団体の議会の議員又は長)が
 ・国若しくは地方公共団体が締結する契約又は特定の者に対する行政庁の処分に関し
 ・請託を受けて
 ・その権限に基づく影響力を行使して
 ・公務員にその職務上の行為をさせるように、又はさせないようにあっせんをすること又はしたことの報酬として財産上の利益を収受したときは、3年以下の懲役に処する」
 同様に、「(2)公職にある者が、国又は地方公共団体が資本金の2分の1以上を出資している法人が締結する契約に関して、当該法人の役職員に対し、(1)と同様のあっせん行為の報酬として財産上の利益を収受した場合も(1)と同様に処罰する」「公設秘書によるあっせん利得については、2年以下の懲役に処する」

 URは国交省が100%出資している独立行政法人であり、清島氏は公設秘書である。したたかさにおいても一色氏ははるかに甘利側より上であった。連続追及第2弾の『文春』(2/4号)で一色氏はこう話している。

 「実名で告発する以上、こうした攻撃を受けることは覚悟していました。その団体(某右翼団体=筆者注)に所属し、三年ほど政治活動していた時期もありましたが、私は過去に逮捕されたこともありませんし、“その筋の人”でもありません」

 一色氏と甘利氏との関係は、金銭授受をする以前にさかのぼるという。

 「私は二十代の頃から主に不動産関係の仕事をしており、甘利大臣のお父さんで衆議院議員だった甘利正さんとも面識がありました。明氏と初めて会ったのは、まだ大臣がソニーに勤めていらっしゃった頃かと思います」

 一色氏が、録音や渡した札のコピーなど、多数の物証を残していることについていぶかしむ声もあるが、こう反論する。

 「口利きを依頼し金を渡すことには、こちらにも大きなリスクがあるのです。依頼する相手は権力者ですから、いつ私のような者が、切り捨てられるかわからない。そうした警戒心から詳細なメモや記録を残してきたのです。そもそも、これだけの証拠がなければ、今回の私の告発を誰が信じてくれたでしょうか?
 万一、自分の身に何かが起きたり、相手が私だけに罪をかぶせてきても、証拠を残していれば自分の身を守ることができる。そして、その考えは間違っていませんでした」

 一色氏は、約1200万円を甘利大臣や秘書たちに渡したと証言したが、それは確実な証拠が残っている分だけで、一色氏の記憶では、渡した金銭や接待の総額は数千万円に上るはずだという。

 また『新潮』は現金授受現場の写真や甘利事務所がURとの交渉に関与している現場の写真を『文春』が掲載したことについて疑問を呈しているが、『文春』はこう説明している。

 『文春』が一色氏から、甘利事務所への口利きに関する具体的な話を聞いたのは、昨年8月27日のことだという。

 その裏付けのため一色氏と秘書たちの行動確認を続けるうちに、彼らが行きつけの居酒屋からフィリピンパブへと流れる姿が複数回確認できたという。

 10月19日、一色氏と清島氏が毎週ほぼ同じ時間に現れる喫茶店「F」で張り込んでいたところ、現金授受の瞬間をカメラでとらえることに成功したというのである。

 一色氏は、結局、彼らに騙されていたことに気づき、「彼らにとって、私はキャッシュディスペンサーに過ぎなかった。彼らはフィリピンパブやキャバクラ、銀座に行きたくなると、『URの件で打ち合わせしましょう』と私を呼び出し、金を払わせるのです」とも語っている。

 秘書の一人、清島氏はフィリピンパブ好きが高じて、一色氏と店を共同経営する話に乗り気になっていたそうだから、開いた口がふさがらない。

 『文春』によれば一色氏の持っている膨大な録音記録は、甘利事務所の行為が単なる問い合わせではなく、口利きであることを物語っていると書いている。この時点で、一連の交渉についてUR側に確認を求めたが、調査中との回答だったとしている。

 追い詰められた甘利氏は『文春』が発売された1月28日に記者会見を開き、涙を浮かべながら辞任することを発表した。

 甘利氏が辞職をするとすぐに、UR側は10回以上にわたる甘利氏の秘書たちとの交渉記録を出してきた。役所にとってもはや彼は利用価値なしと見なしたのだろう。

 ひと言で言ってしまえば『新潮』で全国紙の社会部記者が語っているように、千葉県白井市にある「薩摩興業」と一色氏は補償交渉でURから多額のカネを取ろうと甘利氏を利用しようとしたが、動きがよくなかったために切り捨て、『文春』に垂れ込んだという構図なのであろう。

 一色氏のやり方が汚いという見方もあるだろうが、その請託に乗り、自分たちの立場をわきまえずにたかった秘書たちや、それをおそらく知っていたのに一色氏の持ってきたカネをポケットにしまい込んだ甘利氏は、公人として政治家として失格である。

 東京地検が動き出した。秘書はもちろんだが、甘利氏まで司直の手が伸びるかどうかは、「彼が認識していたことの証拠」が得られるかどうかがカギである。

 それにしても『文春』畏るべしである。かつては政治家のスキャンダルは週刊誌を含めた雑誌の独壇場だった。だが、個人情報保護法や名誉毀損の賠償額の高額化、ノンフィクションの停滞で、そこへ使うカネを出し惜しみ「死ぬまでSEX」などという色物でページを埋める週刊誌が多くなってしまった。

 その中で『文春』だけが一誌気を吐いている。歌手・ASKAや2月2日に覚せい剤所持容疑で逮捕された元プロ野球選手・清原和博についてもいち早く報じた。そして今回、安倍内閣の重要閣僚の首をとった。

 週刊誌の役割、存在価値とは何かを、もう一度他の週刊誌諸君は真剣に考えたほうがいい。そうでなければ、この分野では『文春』一誌しか生き残れはしまい。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 甘利スキャンダルのように、週刊誌の原点は「新聞・テレビにはできないことをやる」ことだ。今週は、甘利ほどではないが、週刊誌ならではの相撲界、独自スクープ、司法を抉った記事を3本選んでみた。自分が担当した記事で世を震撼させる。そういう気概がなければ週刊誌に明日はないはずだ。今年を週刊誌復活の年にしてもらいたいものである。

第1位 「東京地検がフタ!『企画調査課長』とNHK記者の不倫」(『週刊新潮』2/4号)
第2位 「小保方晴子『ハシゴを外した人たちへ』『ウソを書いた人たちへ』」(『週刊現代』2/13号)/「小保方晴子『告白本』の矛盾と疑問と自己弁護」(『週刊ポスト』2/12号)
第3位 「『八角理事長』の狡猾なやり口に怒った『貴乃花理事』」(『週刊新潮』2/4号)

 第3位。10年ぶりの日本出身の関取・琴奨菊の優勝に沸く相撲界だが、その陰で理事長のやり方がおかしいという怨嗟の声が上がっていると『新潮』が報じている。
 『新潮』によれば、昨年11月に急逝した北の湖前理事長の後を継いで、理事長代行を務めてきた八角親方の形(なり)振り構わないやり方に、貴乃花親方が待ったをかけているというのである。
 八角親方は今年3月末に任期切れとなり、そこで新しい理事長を選ぶことになる。だが、理事長の椅子に固執する八角親方は、汚い手を使ってでも自分が理事長職に残ろうと、ごり押ししているというのだ。
 そのやり方に批判の声を上げているのが貴乃花親方
 『新潮』によれば、八角親方が正式に理事長に就任したのは昨年12月18日。その日に行なわれた理事会は非常に問題が多かったと、事情を知る親方の一人はこう語る。

 「通常、理事会の議題は事前に決めて、理事らに知らせます。あの日の場合、事前に決まっていたのは、『事業計画』や『決算』、そして『その他』という議題があったのですが、これがクセモノだったのです。
 理事会が始まってから、出席者の1人が“『その他』って何ですか?”と八角親方に聞いたところ、“理事長を決めることです”と言う。そんな重要議案は事前に知らせておくべきですが、彼はそれ以外にも出席者を驚かせることを口にした。何と“理事長を決める際には、外部理事の方は退席して欲しい”と言い出したのです」(同)

 外部理事の中に反八角親方派がいるからだが、理事長を決めることが「その他」の議題とは、さすがに呆れる。そうした強引なやり口が貴乃花をはじめ多くの親方衆の反対にあい、山口組と神戸山口組をも凌ぐ内部抗争になっているというのだ。
 よほど居心地がいいのだろう、理事長職というのは。この抗争、どう決着が付くのだろうか。どうみても白鵬の衰えは隠せない。そうなれば再び国技館に閑古鳥ということにもなりかねない。早くリーダーシップとビジョンのある理事長を選ばなければいけないはずだが、政界と同じように、人材がいないのだろう。

 第2位。次はお懐かしい小保方晴子さんの登場だ。彼女が出した新刊について『現代』と『ポスト』が特集を組んでいるが、版元の講談社の『現代』は、当然ながらヨイショ記事にならざるを得ない。小学館側は悔しさ(?)もあるのだろうか、書いていることは矛盾と自己弁護ばかりだとケチを付ける。
 私はこの本が講談社から出ることを知らなかったが、なかなかやるもんだと正直思った。内容はどうでもいい。どこの出版社でも狙っていたはずの小保方本を取ったのだから。
 未読だが、読まなくてもわかるし、『ポスト』の言い分のほうが的を射ていると思う。共同研究者であった若山照彦・山梨大学教授に責任転嫁したり、毎日新聞の須田桃子記者の取材攻勢を「殺意すら感じるものがあった」と難じ、他のメディアにも敵意を剥き出しにしているのはいただけない。
 そして最大のポイントは、『ポスト』が指摘しているように「自らの口で発表した『STAP細胞はある』ことを科学者として示すこと」にあるのは言うまでもない。
 そこをスルーしてどんな弁明を述べても、受け入れる人はいないはずだ。

 第1位。『新潮』が、東京地検が「企画調査課長とNHK記者の不倫」の事実にフタをしたと報じている。
 年明け早々、東京地検である職員の処分が下された。関係者がこう明かす。

 「1月4日付で、総務部の企画調査課長であるベテラン事務官が『パワハラ』を理由に、部内でヒラ事務官に2段階降格となりました。この事実は、司法記者クラブはおろか、一切公表されていません」

 だが、この処分自体がカモフラージュであり、実際にはパワハラなどではないと追及する。

 「実際にはパワハラなどではなく、司法クラブに所属するNHK女性記者との“不適切な関係”が処分の理由だったのです」(同)

 司法記者もこう話す。

 「彼女が来てから、NHKは特ダネの連発でした。司法試験問題漏洩事件や旧『村上ファンド』の村上世彰(よしあき)元代表への証券取引等監視委員会の強制捜査、そして就学支援金を不正受給した三重の高校運営会社の事件など。クラブ内では『どんなネタ元をつかんでいるのだろう』と、たびたび話題になっていました」

 女の武器を使ってネタを取る。どんな女性なのか見てみたいね。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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