4月から、診療所や中小病院の紹介状をもたずに大病院を受診した患者には、通常の一部負担金に加えて、初診時5000円以上、再診時2500円以上の特別料金が加算されることになった(歯科は、初診時3000円以上、再診時1500円以上)。

 対象となるのは、特定機能病院と入院用のベッド数が500床以上の地域医療支援病院。具体的には、大学病院や国立病院機構、複数の診療科がある地域の大きな病院だ。

 ただし、救急車で運ばれたり、難病やHIVの治療などの場合は、紹介状なしで大病院を受診しても特別料金支払いの対象にはならない。また、症状が重くて受診後すぐに入院したり、地域にその病気を専門に治療する診療所がなかったり、災害で被害を受けたりしたなどのケースも対象外だ。

 つまり、特別料金を負担しなければならないのは、軽症にもかかわらず、個人的な理由で大病院を受診した患者だ。

 日本では「いつでも、どこでも、だれでも」の標語のとおり、健康保険証1枚あれば、日本全国どこの医療機関でも受診できる。医療機関へのフリーアクセスは、患者にとっては便利なシステムだ。しかし、軽症、重症にかかわらず、大病院に患者が押し寄せている現状は、病院で働く勤務医に過酷な労働を強いており、限られた医療資源を効率よく使うという点では弊害も大きい。

 さらに、団塊の世代が75歳以上になる2025年になると、医療を必要とする人がこれまで以上に増え、病院のベッド数が足りなくなることも予想されている。そこで、国は、大病院は高度な手術や抗がん剤治療など専門性の高い治療に特化し、日常的な健康管理や慢性期の治療は地域の診療所や中小病院で行なうといったように、地域全体で患者を治し、支える医療への転換を図っている。

 そのためには、「いつでも好きなときに、好きな医療機関を使ってよい」という概念を改めて、「必要なときに、治療に必要な医療機関を使う」というように、国民にも医療機関の利用方法を考えてもらう必要がある。その対策として導入されたのが、4月から始まる紹介状なしで大病院を受診した患者への特別料金の義務化だ。

 患者に特別料金を支払わせて国の施策に誘導しようとするやり方には反発も多く、「金持ち優遇」「貧乏人は大病院に来るな」といった感情的な批判も起きている。だが、今回の制度改革は、国民に「大病院に行くな」と言っているわけではなく、「症状に合わせて、医療機関を使い分けてほしい」というメッセージだ。

 先進諸国を見渡しても、日本のような医療機関のフリーアクセス制をとっている国はない。たとえば、イギリスでは登録した家庭医の診断を受けなければ、大病院で診察を受けることはできないし、フランスでは登録した家庭医以外の大病院を自己都合で利用するときには特別料金が発生する。

 限られた医療資源を効率よく使っていくためには、日本でも医療機関の機能分化は避けられないことだ。診療所や中小病院の医師の見立ての上で、大病院での治療が必要となれば、紹介状を書いてくれる。紹介状(診療情報提供書)には費用がかかるが、健康保険が適用されるので、70歳未満で3割負担の人なら自己負担は750円。いきなり大病院に行くより負担は抑えられる。

 大きな病気をして本当に必要な人が大病院を受診できないといったことがないように、今後は医療機関の使い方を意識し、日本の医療制度を国民みんなで守っていくようにしたい。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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