東京から遊びにいらした恩師の旅の楽しみは、難読地名をメモしながら散策することである。これが旅先の由来を紐解いたり、旅の記憶を呼び起こしたりするきっかけとなるので、旅の後からも楽しめて、やり始めると癖になるそうだ。特に京都は、旧石器時代以来、連綿と社会生活が受け継がれてきたので、不思議な地名や面白い通り名、まったく読めない名称などが、そこかしこに溢れている。筆者の難読地名の記録もずいぶん増えてきたので、気になるユニークな名称に絞りながら、数回に分けて時々お披露目していきたい。最初は、よく知られた観光名所から始めてみよう。

 一つ目の地名は「先斗町」。「ぽんとちょう」と読む。正確には先斗町通(どおり)といい、新河原町通という異名もあるが、実際には聞いたことがない。鴨川の西側に沿い、三条大橋の南を北へ四条に抜け、最後は木屋町通(きやまちどおり)と合流する通り名である。江戸時代の文化・文政年間の頃から、鴨川の河原を使って営む酒亭が増え、これが徐々に今日あるような料理屋の「床」になった。通りの中ほどに歌舞練場があり、京都を代表する遊興街といえる。名称の由来は、なんとポルトガル語という説が濃厚だ。「州浜の先端」という意味のポルトガル語が訛り、「ぽんと」という名称になったといわれている。

 二つ目は「壬生(みぶ)」である。鑑真の開山とされる壬生寺や無言劇「壬生狂言」が有名で、新撰組のゆかりの地ということもあり、地名を読める人は多いだろう。だが、由来をご存じの人はあまりいない。「みぶ」の起こりは、平安期の呼称であった「水生(みぶ)」という地名に始まっている。この辺りは平安京の中心の朱雀大路(すざくおおじ)が通っていたが、当時は多くの湧き水のある場所であったため、「水生」という呼称で呼ばれていたという。それが後に「壬生」となった。「壬生」とつく地名は付近に数多くあり、そのほとんどは、江戸期から明治にかけて付けられた町名である。


居酒屋や割烹、料理店、お茶屋が密集して建ち並ぶ先斗町。近く電柱埋設が予定されている。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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