3月18日、民主党(現・民進党)は、夏の参院選の公約にも掲げられている経済・社会政策に関する最終報告をまとめた。この報告は格差是正や弱者救済に重点をおいており、そのひとつが返済不要の給付型の奨学金「渡しきり奨学金」の創設だ。財源は富裕層の金融所得課税を20%から25%に引き上げることで捻出するとしている。

 1970年以降、日本の大学の授業料は右肩上がりで上がり続けてきた。年間授業料の推移を見てみると、1975年度に国立3万6000円、私立18万2677円(平均)だったものが、2014年度には国立53万5800円、私立86万4384円まで上昇している。金額だけ見ても、国立が15倍、私立が5倍になっているが、物価の上昇率と比べても教育費は遥かに上回る勢いなのだ。

 教育費の高額化によって、増えてきたのが奨学金の利用者だ。2000年度に約69万人だった日本学生支援機構の奨学金の利用者は、2013年度には約134万人にまで増加している。

 奨学金には、返済義務のない「給付型」、卒業後に返済義務のある「貸与型」があるが、日本では9割が貸与型だ。

 2013年度に大学や大学院、専門学校に通っていた学生のうち、38.2%が日本学生支援機構の貸与型の奨学金を借りており、そのうちの6割が利息のかかる有利子の奨学金だ。無利子型は親の年収、本人の学力の要件が厳しく、利用できる人が限られているからだ。

 平均的な奨学金の借入額は、大学生が295.5万円、大学院生が378.7万円(2010年)。卒業すると返済が始まるが、2013年度は奨学金を返済している約354万人のうち、約19万人が3か月以上滞納している。

 滞納者のなかには、払えるのに払わないという人もいるだろう。だが、雇用の流動化が進み、現在は全労働者の3分の1以上が非正規雇用で、その74%が年収200万円以下という状況だ(平成23年有期労働契約に関する実態調査)。大学を卒業しても、すべての人が正社員として就職し、安定した収入を得られるわけではない。そうした状況のなかで、「返したくても返せない」というのが、奨学金滞納の実情なのだ。

 こうした問題を解決するために、民進党が公約に掲げたのが「渡しきり奨学金」だ。いわゆる「給付型」の奨学金で卒業後も返済する必要がないものだ。

 給付型の奨学金が整備されれば、お金の心配をせずに高等教育を受けられるようになり、教育を受ける機会を広げることも可能になる。

 そもそも、日本は高等教育にかかる費用が高額なだけではない。教育にかける公的支出が諸外国よりも低く抑えられており、個人に重い負担がのしかかっている。

 OECD(経済協力開発機構)の「図表で見る教育2015年版」によると、大学や大学院など高等教育の個人負担はOECD加盟国平均が30.3%なのに対して、日本は65.7%。韓国に次いでワースト2位という不名誉な地位を得ているのだ。

 3月29日の記者会見で、安倍晋三首相は「無利子の奨学金を受けられるようにしていく」と発言したが、いくら無利子でも社会人1年目から数百万円の借金を背負ったマイナスからのスタートは酷な話だ。

 広がり続ける格差を是正し、誰もがスタートラインに立てる社会にするために必要なのは、返済不要の給付型の奨学金の整備だろう。

 親の収入の多寡、お金のあるなしによって、若者の教育の機会が奪われるのは、国益を損なうことにもなる。未来を担う若者たちの教育費は、だれが負担するべきなのか。手遅れになる前に、根本に立ち返った議論をする必要がある。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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