アルコール中毒、ギャンブル依存症、引きこもり……。ふとしたきっかけで人間は心の闇にはまり込む。そこから逃れるのは容易でないが、問題をより複雑にしているのが「イネイブラー」の存在である。

 英語の「イネイブル(enable)」は「(人に)~できるようにする」という意味の動詞だ。イネイブラー(enabler)は、本人に自覚がないまま、依存症のたぐいを助長する(できるようにする)人のこと。たとえば、アルコール中毒の夫の粗相を世話し、ご近所・会社関係の不始末まで尻ぬぐいする。もちろん、身近な立場としての責任から来る行動だが、それゆえに当人は酒を断つきっかけが得られない。

 悪癖から逃れられない夫とその妻、引きこもりの子とその母などは、いわゆる「共依存」の関係になることがある。イネイブラーは「世話焼き人」とも訳されるが、世話を焼くタイプは評価されるものだし、また評価されたいのだ。だから、家族の苦労話の相談を受けて、イネイブラーになっている可能性を指摘した途端に、逆上する傾向があるという。自立を促すために、あえて相手を突き放すことが、本当にできない状況なのか。専門家の意見を聞きつつ、慎重に検討する必要がありそうだ。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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