猪瀬直樹前東京都知事の辞職によって行なわれた2014年の知事選挙に無所属で出馬して当選。67歳。

 福岡県八幡市(現在の北九州市八幡東区)で生まれ、東京大学政治学科を卒業後、東大法学部の助手になる。パリ大学、ジュネーブ高等国際研究所に留学後、79年に東大教養学部の助教授に就任する。

 82年に『日本人とフランス人─「心は左、財布は右」の論理』を光文社から出版。この本のゴーストライターをやったノンフィクション・ライターの長尾三郎さん(故人)に紹介され、彼と会ったのが最初だった。まだ頭に髪があり、テニスをやる姿が夕刊紙に出たりして、新進の国際政治評論家として注目を集め始めた頃だった。

 私のいた『月刊現代』に何か書いてもらおうと思ったのだが、光文社から出した本が東大の教授たちから「軽すぎる」「東大出版から論文を出す前にこんな本を出すなんて」と酷評されたことで、2年ぐらいは商業出版社で書くことはやめたいと言われてしまった。

 その後何度か会って話をして親しくなり、ミス東大の片山さつきと結婚するときには出席してくれと言われた(フランスに留学中にフランス人女性と結婚・離婚しているという)。私の都合がつかず行けなかったが、その頃の彼の望みは東大教授になることだったと思う。

 マスコミにもほとんど露出しないで論文を書くことに専念したが、87年に教養学部の教官の間で発生した対立紛争「東大駒場騒動」の余波を受けて教授になる道を絶たれたと考え、東大を去る。これが彼にとっての最初の挫折だったはずである。

 その後は舛添政治経済研究所をつくり政治評論家として活躍し、01年に参議院選挙に自民党公認で出馬して当選する。

 第1次安倍内閣で厚生労働大臣に就任。消えた年金問題の対応に追われ、薬害C型肝炎問題では、官僚たちが隠していた資料が厚労省の倉庫にあったことを明るみに出し、被害者全員を救済する方針を表明して解決することに尽力した。

 10年には自民党を離党して新党改革をつくり自ら代表に就任する。だが党勢は拡大せず、13年には代表を辞任し、参議院議員も任期満了で退職する。

 一時は総理候補の一人とまで言われたことがあったが、人望のなさと、女性とのスキャンダルの多さなどもあって立ち消えになった。

 都知事挑戦は2度目だが、日本最大の都市の首長は、東大教授になる夢を果たせなかった彼にとって、やっと掴んだ栄光であろう。

 こんなことを思い出す。ノンフィクション・ライターの吉田司氏が『AERA』の「現代の肖像」で舛添氏をインタビューしたことがあった。粘っこい取材を得意とする吉田氏は、旅先だったと記憶しているが、舛添と一晩泊まってじっくり話を聞いた。

 舛添はそれまで自分の生まれた故郷の話はしたことがなかった。その晩は、吉田の熱心さにほだされたのか、自分は炭坑町の気の荒い人間の多いところで育ち、父親が子供の頃亡くなってからは、一日も早く貧しさからぬけ出したいと、裸電球の下で本を読み勉強をした。そうした苦労を経て東大に入ったと話したのである。

 貧しかった子どもの頃、身内との確執、結婚3回で子どもは5人など、彼の波乱万丈な人生が都知事・舛添要一のバックグラウンドにはあるのだ。

 今年に入って『週刊文春』(4/21号、以下、『文春』)が、彼の海外出張が就任以来わずか2年で2億円を超えているのはおかしいと報じた。

 続いて『文春』(5/5・12号)は、毎週末に自宅のある世田谷区ではなく、神奈川県・湯河原にある別荘に公用車を使って通っていることをスクープした。

 さらに『文春』(5/19号)は「舛添都知事 血税タカリの履歴」とタイトルを打ち、彼のカネの公私混同ぶりを告発したのである。

 参議院議員時代だが、正月を家族で過ごしたホテル代を「会議費」として13年に約24万円、翌年も約13万円を支出している(当該のホテルでは「2回とも会議は開かれていない」と証言)。

 家族と行ったと思われる自宅に近い天ぷら屋、イタリア料理店、湯河原にある回転寿司からも領収書をもらって、自分の政治団体に計上していたのである。その他、舛添氏の趣味である美術品の購入、それもわずか3000円から5000円(どんな美術品だ?)でも、必ず領収書をもらい、宛名を政治団体にしてくれと指定されたと、都内の美術商が証言している。

 大笑いしたのが知事に就任したばかりのこのエピソードだ。男性職員に「御馳走する」と地元のマクドナルドへ誘った。店の前まで来たとき、知事は自宅にクーポン券があることを思いだし、その職員に自宅に行って取ってくるよう命じ、帰ってくるまでSPと一緒にマクドナルドの前で待っていたというのだ。

 上脇博之(ひろし)神戸学院大学教授は、繰り返し同じ虚偽記載がなされていることから、「会計責任者の単純ミスではなく舛添氏による意図的なものと考えざるを得ません」と言い、虚偽記載の場合、5年以下の禁固または100万円以下の罰金に問われる可能性があるとしている。政治資金規正法の虚偽記載の「公訴時効は5年」だから、現在も罪に問われる可能性があるのだ。

 舛添知事は5月13日に釈明会見し、「私の不徳の致すところで心からおわび申し上げる」と頭を下げた。

 「舛添知事によると、事務所には自分やスタッフらが使えるように個人資金の20万~30万円をプールしていた。スタッフらは、飲食代などを支払った領収書とプール金を引き換え、残金が少なくなると舛添知事が補填(ほてん)した。領収書がプライベートの支出か政治活動に関するものかを判断するのは、会計責任者の役割だったという。
 支出のうち政治活動と確認できなかった記載について舛添知事は『会計責任者がうっかりしていたのかも』と述べた」(毎日新聞5月14日付より)

 ホテルへの支出に家族の宿泊費が含まれていることには、「緊急かつ重要な案件を話し合った政治活動」と強弁したが、「他の部屋を取れば良かった。反省している」とも述べた。

 これで説明責任を果たしたとばかりに、都知事の職を辞する考えのないことを強調した。

 ゴメンですめば警察は要らないの譬(たと)え通り、これで私たち都民が納得すると考えるほうがおかしい。都庁には怨嗟(えんさ)の声が殺到しているという。

 長年知っている人間だが、今回のことは呆れ果てて何も言う気になれない。思えば、東京都にはほんの一時期を除けば、清廉で都民のことを考える知事がいたことはない。

 大阪も同じだろう。都会は他所から来た人間の溜まり場だから、能力よりも知名度のある人間が当選しやすいということがあるのであろう。だが、それにしてもひどすぎはしないか。

 青島幸男、石原慎太郎、猪瀬直樹、それに舛添要一。一部には舛添を引きずり降ろして橋下徹元大阪市長を担ごうという声もあるという。都民をバカにするのもほどほどにしてくれ。

 私は、都知事なんてなくして、23区の区長たちの合議制で東京という巨大な都市を運営したらどうかと思っている。あまりにも肥大化しすぎて一人の首長だけで考えるのは無理な段階へきていると思う。

 ましてや、都民の血税を自分の懐銭と混同するような知事では、いい都政など望むべくもない。

 それに、こうした問題を『文春』に指摘されるまで気付かなかった都庁詰めのマスメディアも、この際、一掃したらどうだろうか。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 アメリカ大統領選も佳境を迎えるが、トランプ氏の勢いが止まらない。トランプなんか共和党の指名候補に残れっこないと書いたコラムニストが、自分の間違いを認め、そのことを書いた新聞を「食べた」ことがニュースになっていた。大番狂わせでトランプ大統領が誕生したら、これまでアメリカにつき従って生きてきた日本はどうなるのであろう。何しろトランプ氏はことあるごとに日本を槍玉に挙げ、アメリカ人の怒りを煽ってきているのである。あわてて日本はトランプ氏と接点をもとうと動き出したそうだが、もはや手遅れだと思うが。

第1位 「『露悪家トランプ』有言実行の吉凶検証」(『週刊新潮』5/19号)「トランプはヒラリーに勝てるか?」(『週刊文春』5/19号)
第2位 「寺島しのぶの乱」(『週刊文春』5/19号)
第3位 「『日本会議』とは何なのか?」(『週刊ポスト』5/27号)

 第3位。私も買おうとしてamazonを覗いたが、売り切れだった菅野完(すがの・たもつ)氏の『日本会議の研究』(扶桑社)だが、売れているというより、日本会議のメンバーが買い占めたとの噂も立ち、物議を醸している。
 また、扶桑社という出版社はどちらかというと日本会議の考え方に近いと思われるが、そこからこういう本が出たということも話題の一つである。
 『ポスト』はこの日本会議とはいかなるものかを巻頭で特集している。
 日本会議国会議員懇談会というのがあるが、安倍首相、麻生太郎副総理、菅義偉(すが・よしひで)官房長官、高市早苗総務相など、閣僚19人のうち実に16人がそこに所属している。
 議員懇談会所属のベテラン議員がこう話す。

 「約40年前に前身となる団体ができた当初は、愛国心を持つ人たちで集まっているものの、各論では多様性のある団体だった。それが今では徐々に先鋭化し、安倍さんの考えに同調できる人間でなければ居心地が悪く感じるような状態です」

 村上正邦・元自民党参議院議員会長は、このメンバーたちが原点としているのは宗教法人生長の家を設立した谷口雅春氏の教えで、谷口氏は現行憲法を占領基本法だと批判し、憲法改正というならばまず明治憲法の復効を宣言し、その後に改正すべきだと言っていたという。
 ともかく、安倍首相のいる間に憲法改正をしてしまおうと後押ししている集団であることは間違いないようだ。
 アメリカのティーパーティーの日本版だといったら、怒られるかな。

 第2位。『文春』の「寺島しのぶの乱」は読み応えがある。七代目尾上菊五郎(73)と女優の富司純子(すみこ)(70)の間に生まれたのが女優の寺島しのぶ(43)と五代目尾上菊之助(38)。だが寺島は女に生まれたため歌舞伎役者になれず、己の運命を恨み、疎外感を持ちながら育ったと歌舞伎記者が話している。
 その上、名門の歌舞伎役者との恋にも破れて梨園の妻になることさえできなかった。女優として成功し、フランス人と結婚して長男・眞秀(まほろ)くん(3)を授かった。この子を歌舞伎役者にしたがっているというのだ。
 外に嫁いだ娘の子で、しかもハーフ。難しいのではと思われるが、歌舞伎の歴史にはハーフの役者もいたという。明治から昭和初期にかけて類い希な美貌で人気を集めた十五代目市村羽左衛門の父は、明治政府の外交顧問として来日したフランス生まれのアメリカ人だったそうだ。
 だが、そうだからといって寺島の息子がすんなり歌舞伎役者になれるわけではないが、どうやらそれをめぐって「お家騒動」が起きているというのである。それは菊之助の長男・和史くん(2)の歌舞伎座の「團菊祭五月大歌舞伎」での初お目見得を控え、先立って行なわれた取材会で菊五郎が「うちにはもう一人孫がいるんですよ」、「(娘が)どうしても(長男を)歌舞伎役者にしたいって言うのでね。ならせるなら、ゆくゆくは(尾上)梅幸を継がせるかね」と言ったことが発端だという。
 そこに女性誌が、菊之助の妻と寺島が不仲と書き立てるものだから、小さな2人には何も関係のない騒動が持ち上がっているようだ。菊五郎と富司が揃って『文春』の取材に答え、こうした周囲の騒ぎに対して「そんなことは全然ない」と否定して見せたというのが、それだけ騒動が深刻だという証左ではないか。
 梨園には私なんぞ想像もつかない難しい約束事があるようだ。この中でおもしろかったのは、寺島の反抗期が相当すごかったこと、女優になれと薦めたのは女優の太地喜和子で「あなた、寂しそうね。女優やったらいいじゃない」と言ったこと、寺島の出世作『赤目四十八瀧心中未遂』でセックスシーンに挑戦するとき、富司が「裸になったらお嫁に行けないし、絶対やめたほうがいい」と言ったのに、菊五郎は「女優なんだからいいだろう」とひと言言っただけだったというところ。富司純子も古希になったんだね。

 第1位。さて、オバマ大統領は広島を訪問することを決断した。決断力不足だとか弱腰外交だとか批判されたが、最後の最後でオバマらしい選択をしたことを称えたい。
 オバマの次の大統領にはクリントンが優勢だと思われていたが、最近のロイター通信の調査では「クリントン氏の支持率が41%で、共和党指名が確実なトランプ氏の40%と横一線」(5月13日のasahi.comより)で、このままいけばトランプ氏が次期大統領になる可能性が高いといわれる。まさに冗談から駒である。
 『新潮』はトランプ氏が当選すれば、日米関係は大変なことになるという巻頭特集を組んでいる。何しろことあるごとに彼は日本を槍玉に挙げているのだから。

 「トランプ氏の主張は昔から一貫している。第1次湾岸戦争前の1987年、ワシントン・ポストなどに“ペルシャ湾の治安を、アメリカ人は人命と金をかけて守っている。日本はなぜ代償を払わないのか”という全面広告を載せた人物がいる。日本にとっては痛い内容ですが、それがトランプ氏だったのです」(在米ジャーナリストの古森義久氏)

 大統領になった暁には、さらに日本に在日米軍の負担金を吹っかけてくるか、日米安保条約を解消し日本から引き揚げることもあり得るそうだ。
 もしそうだとすると、『新潮』お得意の「中国が尖閣諸島を取りに来る」となるわけだが、それは置いておくとして、日本としては何としても日米安保継続と在日米軍にいて欲しいわけだから、アメリカは莫大な費用を要する兵器を購入せよとも言ってくるに違いないと見る。
 トランプ氏は「日本も核兵器を持っていい」と言っているから、核兵器もアメリカから買えと言うかもしれない。TPPも「ロビイストが主導した破滅的な合意」だと猛反対しているから、ちゃぶ台返しは間違いないそうだ。
 外交政策も経済政策もほとんど無茶苦茶なトランプ氏に、なぜあれほどの人気が集まるのだろう。先の古森氏は「トランプ支持層に共通して見られるのは、ナショナリズムというよりアンガー(怒り)です。彼は、対日関係を体系的に考えているわけではない。しかし、日本をターゲットにした発言が好意的に受け止められているのも事実です」と言っている。
 言うことは支離滅裂でも国民の中にある「不公平感」に火をつけ、彼らの怒りを引き出すことには長けている。これまで多くの「独裁者」といわれた人間がやってきた手法だが、それだけ人々の間に不公平だという気持ちが強いのであろう。
 しかし、1%の超大金持ちがアメリカの富をほぼ独占しているのが不公平感の根底にあるはずだから、大富豪・トランプ氏への怨嗟の声がもっと出てもいいと思うのだが。
 アメリカの多くの人々は、今われわれの生活が苦しいのは、イエロー・モンキーがアメリカの富を盗んでいるからだ。それを排除すればアメリカは以前のように豊かな国になれると信じ込んでいるのかもしれない。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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