田中角栄がブームだそうだ。田中の死後、何度かブームはあったが、今回は安倍政治に対する失望感から出てきたのであろう。きっかけは作家・石原慎太郎が田中の一人称という形で書いた『天才』(幻冬舎)がベストセラーになったことからである。

 この本の「長い後書き」で石原は、「私はまぎれもなく田中角栄の金権主義を最初に批判し真っ向から弓を引いた人間だった」と始め、現在、高度な繁栄を享受しているが、「その多くの要因を他ならぬ田中角栄という政治家が造成したことは間違いない。(中略)エネルギー資源に乏しいこの国の自活のために未来エネルギーの最たる原子力推進を目指し」たと褒めあげ、先見性と発想力のある、いい意味での愛国者だったとしている。

 だが、日中国交正常化などをアメリカに諮らず独断で推し進めたことなどが、支配者であるアメリカの虎の尾を踏みつけて彼らの怒りを買い、ロッキード事件で逮捕され、虚構に満ちた裁判で失脚に追い込まれたと、彼の不運を嘆く。

 『天才』は、石原が田中について書かれた多くの本を読んでまとめたものである。田中の貧しい子ども時代から始まり、土建屋として成功し政界に打って出て総理にまで登り詰めるが、金権政治批判が高まり辞任。ロッキード事件で逮捕され、側近だった竹下登、金丸信、小沢一郎らが離反して、失意のうちに病に倒れ亡くなるまでを描いている。

 私のように田中と同時代を生きてきた人間には、まとまってはいるものの底の浅い読み物にしか思えないが、田中を知らない世代にとっては新鮮に映るのかもしれない。

 後半、田中の愛人だった辻和子が病院に電話をかけてくる場面では、辻が話しかけても田中は「アア」とか「ウウ」としか答えられない。

 私は辻のことを思い出していた。田中角栄が存命中だったが、神楽坂の裏手にある辻の家に何度かお邪魔して、田中との思い出を聞いたことがあった。元芸者ということもあってか、飾らない物言いで、お父ちゃん(角栄)のことをあっけらかんとしゃべってくれた。

 「突然来るの。クルマを遠くに止めて汗を拭きながら、入って来るなり『おい、やるぞ』って。終わるとお茶漬けを食べてさっさと帰っちゃうの」

 角さんのことが好きでしょうがないという気持ちが伝わってくる数々のエピソードを含めて、後に先輩である平松南によって『熱情──田中角栄をとりこにした芸者』(辻和子著)として講談社から出版されている。

 私は田中と会う機会は一度もなかった。『月刊現代』時代に一度だけインタビューを取り付けたことがあった。編集部と田中邸は近い。出ようとしたとき秘書の早坂茂三から電話が掛かってきた。電話口で早坂が怒鳴った。「オレを通さないで田中と会えると思うな」。私は別ルート、山東昭子(参議院議員)に頼んで取材のOKをもらっていたのだ。

 山東にすぐ電話したが、当時の早坂は田中のすべてを取り仕切っていたから、どうにもならなかった。その後、田中は脳梗塞で倒れてしまった。

 田中には多くの名言、迷言がある。『田中角栄 100の言葉~日本人に贈る人生と仕事の心得』(別冊宝島編集部編)には、総選挙に初めて立候補したとき「三国峠の山を削って平らにする。土は海に埋めて佐渡と陸続きにすればいいッ!」と説いて回ったと出ている。

 62年に大蔵大臣に就任したとき「できることはやる。できないことはやらない。しかし、すべての責任はこのワシが負う」と宣(のたま)った。

 「人間は誰しもできそこないだ。しかしそのできそこないを愛せなければ政治家はつとまらない」

 こんな泣かせる言葉が、いまも田中を懐かしがらせるのであろう。

 『週刊現代』(6/4号)は巻頭で「全国民必読 この国を元気にしよう 安倍よ、聞け 田中角栄ならこうする」という特集を組んだ。

 この特集のキモは安倍政権批判である。ジャーナリストの田原総一朗が「田中角栄さんがいま生きていたら、安倍政権とはまったく逆のことをするでしょう」と言っている。

 いろいろな識者が田中ありせばと言いたい放題。曰く、田中ならば、習近平と握手をして「アジア列島改造論」をぶち上げる。田中ならプーチン大統領とトップ交渉して、新しい石油・ガス田開発の権益を日本に持ってくる。田中ならTPPに不参加を表明し、むしろアジアで独自の連帯政策などをぶち上げる。田中なら格差社会の問題を打ち破ろうと、貧しい若者たちのために大胆な巨額予算を投入する。田中なら中央から地方への人口逆流政策を打ち出す。パナマ文書に出てくる日本企業を絶対許さず、即座に調べ上げて厳格な課税をする。田中なら長引くデフレから脱却させてくれる。

 挙げ句に「仮に田中角栄がいま国民全員に大増税を課すと宣言しても、それが将来的に日本をよくするものだと国民が信じられれば、老後に不安を抱く人が減ってデフレは終わるのです」(水谷研治・名古屋大学客員教授)という“極論”まで飛び出すのだ。

 田中はよくも悪くも「昭和を象徴する人間」である。金権政治、ゼネコン政治と批判するメディアを蹴散らし、先の辻や秘書の佐藤昭など多くの女性を愛人にしていることを隠さなかった。

 高等小学校しか出ていない男が総理大臣まで登り詰める。ジャパニーズ・ドリームを体現した男、今太閤と持て囃された。彼がだみ声を張り上げ大風呂敷を広げても、ほとんどの日本人はその中身を問わなかった。

 高度成長を経てバブルへひた走っていた時代だったから、トップに誰がいようとあまり関心を持たなかった時代だった。

 しかし人間の持っている「運」は誰しも平等である。「この世をばわが世とぞ思ふ望月の かけたることもなしと思へば」と全盛を誇った田中時代も長くは続かなかった。

 これだけは言っておかなければいけないだろう。田中が造り上げた金権・ゼネコン政治は今も延々と続き、小泉純一郎が竹中平蔵と組んで導入した新自由主義が非正規労働者を大量に生み出し超格差社会をつくり出し、安倍晋三が日本を「戦争のできる普通の国」にしようとしている。田中を単に懐かしがるのではなく、今に残る田中の残した負の遺産をじっくり検証することも、メディアがやるべきことだと思うのだが。(文中敬称略)

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 私の母校はバカだ(早稲田)大学である。三田の色魔(慶応)大学と私学の雄などと言われていた時期もあったが、いまでは残念だが色魔大学のほうが頭一つか二つリードしているようだ。東大は相変わらずトップ大学として君臨しているが、レベルは昔に比べると落ちているように思う。『週刊現代』の編集長時代に「逮捕者の多い大学はどこか」というバカな企画をやったとき、断トツだったのは東大だった。その当時官僚の不祥事が多発し、その多くが東大出だったからだ。その傾向は変わっていないなと、今回の強制わいせつ事件を見て思うのだが……。

第1位 「『バカ東大生』が人生をパァにした真夜中の狂態」(『週刊新潮』6/2号)/「東大生『強制わいせつ』親たちの嘆き」(『週刊文春』6/2号)
第2位 「アイドルを襲った『粘着男』27歳のツイッター心理分析」(『週刊新潮』6/2号)
第3位 「元米海兵隊員に殺害された沖縄20歳女性父が胸中告白」(『週刊文春』6/2号)

 第3位。オバマ大統領が広島を訪問した。原爆資料館での滞在は10分と短かったが、そのあとに行なった17分間のスピーチと、二人の被爆者たちとの握手とハグする姿に涙が出るほど感動した。
 大統領就任早々行なったプラハでの核廃絶宣言、そして任期を終える間近に行なった広島でのスピーチは、歴史に残るものになるはずである。
 だが、オバマ大統領が広島へ行く前に起こった米軍属による日本女性殺人事件は、彼の心胆を寒からしめたに違いない。
 米元海兵隊員シンザト・ケネフ・フランクリン(32)の島袋里奈さん(20)強姦殺人事件が沖縄の怒りをかき立て、日本人全体の怒りに火をつけることになれば、自民党には逆風になり、アメリカへもその風が届くことは間違いない。
 シンザト容疑者は、現在は軍人ではなく、米軍基地で勤務している民間人(軍属)だが、日米地位協定では軍人および軍属の公務中の事件の裁判権は米国が持つとされている。今回は「公務外」であるため沖縄県警が逮捕、捜査を行なっている。
 1995(平成7)年9月4日「午後8時頃」にアメリカ海兵隊員2名とアメリカ海軍軍人1名が12歳の少女を集団強姦した事件では、日米地位協定によって実行犯3人が日本側に引き渡されなかったことで沖縄の怒りが爆発したが、米軍側はその二の舞を恐れたのであろう。
 『文春』によれば、菅官房長官はオバマ大統領訪日を控えて、米軍属を逮捕して基地問題が再燃することを最初は嫌っていたそうである。これだけの事件を「政治的配慮」し、隠蔽しようとしたのだとしたら、菅はゲス以下の政治屋である。
 殺された島袋さんの父親に『文春』はインタビューしている。

 「(里奈さんの死を基地問題に関連付ける)そうした報道があることは知っています。でも、私は里奈の父親ですから、娘が一番なんです。(中略)今は娘のことしか考えられないんです」

 せめて四十九日まではそっとしておいてほしいと言っている。親の心情としてはわかりすぎるほどわかる。島袋さんの死を利用するのではなく、選挙を前にしたこの時期、沖縄の戦後をもう一度問い直し、日本人全体の問題として考えることに躊躇してはならないと思う。

 第2位。東京小金井市のライブ会場前で、冨田真由さん(20)がストーカーの岩埼友宏(27)にメッタ刺しにされた事件は、秋元康が始めたAKB商法の危なさを浮き彫りにした。
 亜細亜大学3年で、シンガーソングライターでもあるアイドル・冨田さんに、京都で造園会社に勤めている岩埼が惚れ込み、腕時計をプレゼントしたり、彼女のツイッターに執拗に書き込みをしていた。
 あまりのしつこさに冨田さんはプレゼントを岩埼に返し、ツイッターをブロックした。可愛さ余って憎さが百倍の岩埼が、冨田さんを待ち伏せして襲いかかり、刺し傷は首や背中など約30か所にも及んだという。
 5月に入って冨田さんと家族は警視庁と京都府警に相談していたそうだが、事件化しない限り警察は何もしてくれない
 2年前にもAKB48のメンバー3人が、握手会でノコギリを持った暴漢に切りつけられる事件が発生して、こういう「商法」が問題化した。だが、こうしたアイドルのキャバクラ化は広がるばかりである。
 「会いに行ける、手に触れることができるアイドル」を謳い文句に、握手会だ総選挙だとファンからカネを奪い取り、いくらカネを使ったかでその娘への忠誠心を測るあくどいやり方が、こうした犯罪を生むことにつながるのは、当然である。
 『新潮』で精神科医の片田珠美氏もこう言っている。

 「彼女たちは、触れることのできる生身の女性として、ファンの前に現れた。“本当に恋人になれるかもしれない”と幻想を抱かせる本物の恋愛対象になってしまったわけです。またSNSで直接やりとりできることも、ファンが自分とアイドルが距離的に近しいと勘違いする原因になっている。AKB商法は幻想ビジネス。そこに今回のような事件が起こる危険性を孕んでいる」

 秋元氏は、若い女の子たちを危険にさらすようなビジネスは即刻止めるべきだ。さもないと同じような事件が再び必ず起きる。

 第1位。お次は「バカ東大生」たちがしでかした恥知らずな事件。この事件は、03年に起きた早稲田大学のサークル「スーパーフリー」の学生らが女子大生に強い酒(96°だったといわれる)を無理矢理飲ませて泥酔させ、輪姦をしていたのと同じ類いである。
 「スーフリ」事件で逮捕され実刑判決を受けた14人の早大生の罪は準強姦罪だったが、今回は強制わいせつ容疑だ。
 『新潮』によると、逮捕された5人の東大生の主犯格は工学部4年の松見謙佑(22)。新聞報道では「男子学生らに服を脱がされたり身体を触られたため、女子大学生が逃げ出して110番通報した」(朝日新聞5月20日付)。今どきこの程度で“前途有為”なエリートたちを犯罪者にしていいのかという意見もあるが、そんなものではなかったようだ。

 「実は、彼(松見のこと=筆者注)は被害女性に殴る蹴るの暴行を加えた上、カップラーメンの汁を彼女の顔にかけたり、とやりたい放題だったのです」(捜査関係者)

 さらに「最後には松見は女子大生の局部にドライヤーで熱風を浴びせかけ、それに耐えかねた女子大生はTシャツとズボンを着て泣きながら部屋を飛び出した」(同)
 松見らが餌食になる女子大生を集めるために作っていたのは「東京大学誕生日研究会」という、見るからにいかがわしいサークルだった。
 松見は武蔵中学、武蔵高校を経て東大に入学。彼の父親も東大法学部出身で、大手銀行を経て現在はファンド運営会社にいるそうだ。
 ほかにも余罪が出てきそうだが、今回は強姦でもなく、睡眠薬を混入するといった計画性はないという。そんな面倒なことをしなくても、東大生といえば擦り寄ってくる女子大生には事欠かなかったということか。だが、今回の被害女性は怒り心頭で、現在のところ示談に応じる可能性が低いため「松見容疑者は起訴される見込みです」と、『文春』で別の捜査関係者が話している。東大生にはサドが多いのかね。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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