『週刊ポスト』(9/16・23号、以下『ポスト』)によると、財務省が発表した今年の3月末時点の「内部留保額」は過去最高になる366兆6860億円というとてつもない額になっているという。

 第二次安倍政権がスタートして以来、34%も増加しているのである。

 「一般的に内部留保とは、企業の利益から従業員への給料や株主への配当を差し引いた『利益剰余金』を指す。言わば、『企業内貯金』である。
 その“貯金額”が過去最高となっているのに、懐は寂しいというサラリーマンが少なくない。厚労省が5月に発表した15年度の実質賃金は、前年より0.1%減って、5年連続のマイナスだ」(『ポスト』)

 そこで『ポスト』は、上場企業の「時価総額トップ100社(8月26日時点)」のうち、内部留保や従業員給与の増減から5つのランキングを作成し、利益を貯め込みすぎている企業はどこなのかを探った。

 内部留保額の1位はトヨタ自動車で約16兆8000億円。16年3月期の純利益が2兆3126億円に達している。

 社員への還元を求める声が強くあるそうだが、当然であろう。しかし、経営陣は慎重だという。

 「豊田章夫社長は、『会社を支える社員に手厚く報いたいが、給料は一度上げたら下げられない。そのため、儲けはボーナスで還元する』との意向です。今後も技術開発や株主配当に回る資金が多く、利益が即、社員に還元するというわけではないでしょう」(経済ジャーナリストの福田俊之氏)

 技術開発はともかく、株主ばかりにいい顔をする経営者では、社員が割を食う。いったいトヨタはどこまで儲ければ気が済むのだろう。

 トヨタに続き、三菱UFJフィナンシャル・グループ、ホンダ、NTT、三井住友フィナンシャル・グループ、NTTドコモ、日産自動車、日本郵政、キヤノン、三菱商事と続く。

 三菱UFJについて、金融ジャーナリストの森岡英樹氏はこう言う。

 「たしかに銀行は内部留保が潤沢なほど、株主や利用者から信頼を得られますが、それにしても日本の銀行は慎重経営すぎる。株主からは海外の資産購入や海外企業のM&Aなど、内部留保をより有効に活用すべきでは、という声が聞こえる」

 利用者からすれば、時間外に自分のカネを引き出すのに手数料を取られるのが納得がいかない。利用者還元ももっと考えるべきだと思う。

 『ポスト』は、内部留保額を従業員数で割った「1人あたりの内部留保額」を算出することで、社員1人あたりに対していくら“貯金”しているかを調べてみた。

 ここでの1位は国際石油開発帝石で1人当たりの内部留保額は4億5669万円になっている。2位が任天堂で2億7672万円、3位がファナックの2億65万円である。

 コストがかかりリスクも大きい天然資源の開発には多額の内部留保が必要というのはわからないでもないが、では、任天堂やファナック、5位のNTTドコモ、8位の東京ディズニーランドを運営するオリエンタルランドはどうなのか。

 しかし、ともに電気機器の3位のファナックと4位のキーエンスとは「給与上昇率」でも1位ファナック、7位にキーエンスが入っているから、内部留保の額も大きいが社員にも優しい会社といえるようだ。

 その他の給与上昇率が高い会社は、2位がユニ・チャーム、3位電気機器の東京エレクトロン、4位がヤフー、5位がソニー、6位が東京海上ホールディングス、8位が電気機器の村田製作所、9位が塩野義製薬、10位にニトリホールディングスが入っている。

 では社員に優しくない会社はどこか。前年度と比較して社員1人あたりの内部留保額の増加額と、平均給与の増加額で「内部留保額と年収増の乖離が大きいTOP10」を作成してみると、1位がオリエンタルランドで「乖離額」は1323万円。

 「沖縄にテーマパークを開設しようとしたUSJとの攻防もあって内部留保を貯めたのでしょう。それでも社員への還元は少ないように見える」(森岡氏)

 社員に優しくない会社の以下の順位は、日本たばこ産業(JT)、東海旅客鉄道(JR東海)、富士重工業、塩野義製薬、ソフトバンクグループ、輸送用機器のシマノ、三菱地所、みずほフィナンシャルグループ、住友不動産の順になる。

 『ポスト』によれば、安倍政権は、いくら企業に儲けさせても、設備投資もしないで内部留保で貯め込んでいる企業に業を煮やし、昨年末にまとめた16年度税制改正大綱で「内部留保課税」を匂わせたという。

 アベノミクスが奏功しないので頭にきている安倍首相ならやるかもしれない。だが、そうなれば、企業は社員へ還元するのではなく、設備投資と偽って内部留保を海外へ移す悪だくみを考え出すかもしれない。

 企業なんてものは、自分が生き延びるためなら、社員を犠牲にし、政府や国税をゴマカシ、不正が見つかれば、私は知らなかった、社員が勝手にしたことだとしらを切るのだ。

 「好況で株価や給料が上がる中で内部留保が増えるなら別だが、現状はデフレ不況下で内部留保だけが増えている。内部留保が世の中の金の流れを堰き止め、消費を冷え込ませてさらなる不景気を招いています」(経済ジャーナリストの武田知弘氏)

 2011年アメリカ・ニューヨークで発生した「ウォール街を占拠せよ」という運動は、アメリカを大きく変えようとしている。

 民主党の大統領候補サンダース氏が大きなブームを起こしたのも、そうした潮流が支え、若者たちがサンダース大統領実現を熱望したからであった。

 しかし、日本の経営者にも労働者側も、ピケティの言う「富の再分配」なんて考えはこれっぽっちもない。「社畜」意識はなおさら強くなっているように思うのだ。

 言い古された言葉だが、鉄鎖のほかに失う何ものをも持たない労働者たちの生活は、これからさらに酷くなっていくのではないか。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 書評欄はよく読んでいる。ミステリーが好きなので、週刊誌の書評ページはくまなく読むが、これはおもしろそうだと思って買うと、期待外れだったということも多い。書評欄で注意すべきは、本の出版社名だ。その雑誌や新聞を出している社の本だと“仲人口”が多いから、5、6割は差し引いて読んだほうがいい。いい本を探すためには、自分の好みにあった書評家を探せるか、自分が目利きになるしかないのだが、これが難しい。

第1位 「築地市場移転を目の敵!『女帝』『小池百合子』 熱演の代償」(『週刊新潮』9/15号)/「森喜朗親密企業が五輪案件を続々受注」(『週刊文春』9/15号)
第2位 「大ベストセラーの書評を載せない『大新聞』のご都合」(『週刊新潮』9/15号)
第3位 「西麻布『裸のレストラン』突撃体験記」(『週刊新潮』9/15号)

 第3位。ロンドンでできた「裸のレストラン」が日本にもできて、そこへ行った記者の突撃体験記が『新潮』に載っている。
 店名は「アムリタ」。覗き目当ての客が殺到するのを避けるため店の場所は明かしていないそうだ。
 予約すると48時間以内に料金を振り込む。1人2万8000円から1万8000円、1万4000円の3コース。
 店側からメールが来て、午後8時半に西麻布の交差点に呼ばれる。そこへ着くと店の住所を伝えるメールが来る。
 店に入ると、赤い電球で部屋が照らされ、外国人の店員が上半身裸で行き来している。店に入ると、更衣室で着ているものを脱ぎ、男は紙パンツ、女は紙パンツと紙ブラジャーを着ける。
 記者の前には20代後半のキレイな女性客が2人いたそうだ。彼女たちが更衣室から出てくると、上半身は何も着けず、下も紙パンツではなく自分の下着だけ。
 それでも彼女たちは裸を気にすることもなく、記者にスマホで写真を撮らせたという。
 だが、従業員は気が利かず、おまけに英語しかしゃべれない。出てくる料理は、ヨーグルトの上にプルーンが載っているのかと思えば、足が生えている昆虫。ザリガニの塩茹で、最後に出てきたのは皿の上にサソリが鎮座していたという。
 客の中には、4人で10万円も払ったのに、なんだこの料理は!と怒って帰ってしまう者もいた。多くの客にとって料理は期待外れだが、裸になる快感には替えられないと、また来ようというリピーターが結構いるそうだ。
 まあ、男2人、1万4000円のコースで、裸の美女が拝めるのだったら行ってみっか、とも思うが、拝める女性が若いのか美女なのかは、当然ながら行ってみなければわからない。

 第2位。『新潮』に気になる記事がある。橘玲(たちばな・あきら)の『言ってはいけない─残酷すぎる真実─』と百田尚樹(ひゃくた・なおき)の『カエルの楽園』、ともに新潮社刊だが、このベストセラー2冊が、ほとんどの大新聞の書評で扱われていないのはおかしいと批判している。
 「イデオロギー的な好みはさておき、社会の関心事になっている本は取り上げるという矜持が(毎日新聞の書評欄には=筆者注)ありました」と、元毎日新聞学芸部の徳岡孝夫に語らせているが、そうだろうか。
 私は朝日新聞を取っているが、朝日の書評欄ぐらいつまらないものはないと思っている。誰が読むんだろうという本ばかりを取り上げて(なかには読者に媚びたようなベストセラーについての書評もあるにはあるが)書評しているのだが、これはこれで存在意義はあると思っている。
 なぜなら、私が絶対手に取ることがない本がこの世の中にあるということを知り、書評をざっと読めば、知らない世界を幾分知った気になれるからである。
 それに、週刊誌の書評欄も役に立たないのは新聞同様である。私はまず、書評で取り上げている本の出版社名を見る。『週刊現代』なら講談社、『週刊文春』なら文藝春秋、『週刊ポスト』なら小学館。自社で出している本だったら書評は信用できないから読まない。
 『新潮』にもあるように、昔は平野謙、丸谷才一、百目鬼(どうめき)恭三郎などの目利きが、大文豪が書こうがつまらないものはつまらないと批評した。今の書評氏たちはそんな気概もない人ばかりである。
 先の2人の本が新聞の書評に載らなくてもベストセラーになっているのは、新聞に往時の力はないからだ。第一、2人の本が朝日に取り上げられべた褒めされたら、気色悪いだろう。読みたい本を探すコツは自分が目利きになることである。

 第1位。今週の第1位は早くも「女帝」(『新潮』)になりたまひし小池百合子都知事についての記事。今のところ『文春』は小池支持で、都議会のドン・内田茂氏や五輪組織委員会の森喜朗会長を批判、『新潮』のほうはやや小池批判の論調が強いように見える。
 先週までは内田氏が彼と関係の深い企業に対して、都の事業への“便宜”をはかっている疑惑や、豊洲移転でもそうした疑惑があると『文春』は追及していたが、今週は本丸・森会長が「親密企業へ五輪の事業を続々受注させている」と巻頭特集をやっている。
 森会長には親しい企業がいくつかあるが、「最も近いのが大成です。親しい順に大成、清水建設、地元石川の真柄建設でしょう」(かつて森事務所で資金集めにあたっていた関係者)。森氏の後援会機関紙にもたびたび大成は広告を出している。
 まず、五輪のメインスタジアム・新国立競技場の建設工事を受注したのはその“親密”な大成建設を中心としたジョイントベンチャー(JV)である。大成はザハ案が撤回され、設計コンペをやり直したが、再び受注に成功している。
 このスタジアムの総工費は約1490億円だが、さらに膨らむことは間違いないだろう。
 評判のすこぶる悪いカヌー・ボート会場「海の森水上競技場」も大成のJVが約249億円で落札している。
 それも『文春』によると、入札に参加したのは大成のJVだけで、予定価格が約249億円だったのに、入札価格はそれよりわずかに31万円安いだけだった。事前に予定価格を知らされていた「官製談合」(法政大学・五十嵐敬喜名誉教授)を疑われても仕方あるまい。
 それにこの場所はコース内に小さな橋が架かっていて、そのままでは競技ができないため、橋を架け替える必要がある。その費用が300億円弱かかるが、「都はこの橋の撤去費を環境局の予算に付け替えました」(元東京都港湾局の市川隆夫氏)。都民を愚弄する話である。
 まだある。バドミントン会場になる「武蔵野の森総合スポーツ施設」の空調工事は、森氏の地元の空調設備会社・菱機(りょうき)工業が約33億5000万円で受注しているという。
 森氏が率いる組織委員会は、やはり森氏が昔から親しい森ビル所有の虎ノ門ヒルズにオフィスを構え、年間の賃料は約5億円にもなるそうだ。
 小池都知事の側近、若狹勝(わかさ・まさる)衆院議員は「正当な理由もないまま多額の家賃を払っていれば、責任者が背任罪に問われる可能性もあり得ます」と話している。
 読む限り、現役総理の時、サメの脳みそしかないと言われながら、その人脈を利用して生きながらえてきた森氏だが、今回は相当分が悪そうである。
 お次は築地市場の豊洲移転はどうか。『新潮』は、築地の大物たちを登場させ、小池案に大反対だと言わせている。たしかに築地の老朽化はどうにもならないところまで来ているし、すでに豊洲に民間業者が数百億円投資し、冷凍施設は電源を入れて稼働しているため、電源を落とすことはできないそうだ。こうした維持管理費だけで、来春まで移転が延びれば被害が数十億円になると言っている。
 さらに、移転の障害になっている地下水のベンゼン濃度だが、「現在の数値を見ると、全く問題ない。(中略)豊洲の土壌は2メートル掘り返して清浄土と入れ替えた上、2・5メートル分、清浄土で盛り土をしており、手厚い土壌改善といえるでしょう」と、京都大学大学院工学研究科の米田稔教授にいわせている。
 しかし豊洲市場で、土壌汚染対策の「盛り土」が行なわれていなかったと小池都知事が発表し、徹底的に再調査するため移転は延期するとした。『新潮』赤っ恥である。
 このところの早業は、小池都知事、見事である。
 私は、五輪会場建設についての小池都知事の問題提起は真っ当だし、小池都知事はこのまま押していけば、内田氏や森氏は“退治”できるのではないかと思う。
 豊洲の問題は、私は、築地と豊洲の二つの市場をつくり、共存させていけばいいと思うのだが、どうなるのだろう。明日は築地へ行ってうまい魚でも買いながら、様子を見てこよう。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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