10月1日は「衣替え」である。昔から京都人の衣に対する執着は特別だったようで、よく「江戸の呑み倒れ」や「大阪の食い倒れ」と並び、「京の着倒れ」と江戸期から呼ばれていたという。「着倒れ」とは、現代ではもっぱら「前後を考えずに服飾品などを買い求め、財産をなくすこと」と解釈されているようだが、「京の着倒れ」の本当の意味は、「上質な着物をたくさん所有し、日々の着こなしが見事である」という褒めことばなのである。

 友禅などの京染めや、錦や金襴(きんらん)で有名な西陣織などの染織品は、京の洗練された着物の代名詞である。昔の京おんなは、初詣から年末の南座顔見世興行に至る一年の行事のたびに、一枚また一枚と着物を新調し、妍(けん)を競い合ったとか。そして、そのような女の競い合いを目当てに、呉服屋が全国から京に集まってきたという。なぜかといえば、女たちの着こなしが翌年の着物の流行を左右するからである。さながらパリやミラノモードといったところであろう。

 筆者は「着倒れ」と聞くと、かれこれ20年近く前に月刊誌『流行通信』に掲載されていた都築響一(つづき・きょういち)の「着倒れ方丈記」という連載企画を思い出す。ぞっこんのファッションデザイナーやスポーツブランドの服で埋め尽くされた部屋で、得も言われぬ満ち足りた日常生活を垣間見せる住人たちの姿を、都築氏は写真と文章で見事に切り取っていた。誌面を見ながら、蒐集の行き過ぎた品々や膨大な衣服の溢れた部屋に、驚いたり、共感したり。そこに存在していた「着倒れ」は、褒め言葉でも、戒めでもなく、現代人の性癖のような淡々とした印象だった。いまとなっては、そのような「着倒れ」的、ちょっと偏愛的な生活をいたるところで見るようになった気がしている。


昔ながら風情が残されている昭和40年代の先斗町(ぽんとちょう)。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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