通常、子どもが生まれ、14日以内に出生届けを出すと戸籍は作られる。そして、戸籍によって、その人が存在していることが証明される。だが、なんらかの理由で出生届けが出せず、戸籍のないまま生きている「無戸籍者」が数多くいることが明らかになっている。

 法務省が8月10日に発表した無戸籍者数は、全国で702人。だが、これは氷山の一角で、実際には1万人以上の無戸籍者がいると言われている。

 無戸籍になった理由で多いのが、民法722条第2項の「法的離婚後300日以内に生まれた子どもは前夫の子と推定される」という規定によるものだ。

 たとえば、DV(ドメスティックバイオレンス)から逃れて夫と別居した女性が、別の男性と愛し合うようになって子どもができた場合、離婚が成立していないので、前夫の子どもとして出生届を出さなければいけない。

 だが、前夫の子どもとして出生届をだすことに抵抗を感じるのは当然だ。その結果、子どもは無戸籍のまま生きていくことになり、そのまま成人を迎えてしまうのだ。

 だが、戸籍がないと、住民票がつくれないので、就学通知が届かず、義務教育を受けることができなくなる。また、健康保険にも加入できないので、医療費は全額自己負担になる。銀行口座を作ったり、家を借りたり、携帯電話を契約したりすることもできない。選挙権・被選挙権もない。仕事は、履歴書の提出や銀行口座が必要ない、日雇い的なものに限られる。貧困や虐待などの問題も生まれやすく、無戸籍者は非常に過酷な生活を強いられている。

 最近は、無戸籍でも住民票がとれ、子どもが教育を受けられるように改善されつつあるが、成人後に正規社員として仕事を得るのは非常に難しい。

 この問題が報じられたことで、法務省では、無戸籍のまま成人になった場合の戸籍記載のための手続き方法を周知しようとしている。 戸籍をとれるのは問題の一歩解決ではあるが、生まれてすぐに戸籍がとれなければ、義務教育を受けられないなどのハンディキャップが生まれ、失う時間の大きさは計り知れない。

 「離婚後の妊娠であることが医師により証明できれば、その子は前夫の子としてではなく、出生届を出せる」という法務省の通達によって一部は改善されたが、離婚前に妊娠した子どもの戸籍の問題はこれでは解決できない。

 そもそも民法722条は明治時代に制定されたもので、時代にそぐわないとして改正を求める声も出ている。理不尽な法律によって、罪のない子どもが無国籍となり、不要な苦労を強いられることのないように、国は民法722条の根本的な見直しを図るべきではないだろうか。
   

   

ニッポン生活ジャーナル / 早川幸子   


早川幸子(はやかわ・ゆきこ)
水曜日「ニッポン生活ジャーナル」担当。フリーライター。千葉県生まれ。明治大学文学部卒業。編集プロダクション勤務後、1999年に独立。新聞や女性週刊誌、マネー誌に、医療、民間保険、社会保障、節約などの記事を寄稿。2008年から「日本の医療を守る市民の会」を協同主宰。著書に『読むだけで200万円節約できる! 医療費と医療保険&介護保険のトクする裏ワザ30』(ダイヤモンド社)など。
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