丁稚羊羹という愛らしい名称は、江戸時代に定着したようで、お店(たな)で奉公している小僧さんでも気軽に買える値段で食べ応えもある、ということから名づけられたといわれている。製法は、小豆の漉し餡と小麦粉を溶いたものを混ぜ、黒糖と塩などで甘みを増してから、竹の皮で包むか、枠に流し込み、蒸して固めてある。主に関西地域で親しまれている羊羹の一種で、京都や滋賀、兵庫には丁稚羊羹を名物にする和菓子店がずいぶん存在する。

 京都では東山の北側(左京区)で、詩仙堂、八大神社、狸谷(たぬきだに)不動院へと続く参道の茶屋『一乗寺中谷(なかたに)』の丁稚羊羹が有名だ。伝統的な製法でつくられた味が守られており、この味は、江戸期に一乗寺の村人が、日吉大社(滋賀県)のお祭りで「輿(こし)かき」をする際、弁当代わりに持参した食べ物のつくり方が原点になっているという。

 蒸し羊羹の製法が中国から伝えられたのは大変古く、鎌倉か室町期に禅僧が持ち帰ったといわれている。日本では室町期におやつ(点心)として、麺や饅頭、さまざまな羹(かん)などが食べられていた。蒸し羊羹の原点は、小豆を主原料にして羊の肝の形にした蒸し物で、当時はこれを汁に入れて食べていたそうである。それが徐々に、蒸したままの状態で食べられるようになり、現在の丁稚羊羹のような茶菓子に変化したと考えられる。


控えめな甘さにしこしことした歯ごたえ、笹の香りが丁稚羊羹ならではの味わい。


   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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