江戸後期の文人で、狂歌師であった大田南畝(おおたなんぽ、別号に蜀山人、四方赤良など)は、随筆『一話一言』に京名物を、「水、水菜、女、染物、みすや針、御寺、豆腐煮、鰻鱧、松茸」と狂歌に詠んでいる。

 この中の「水菜」は京野菜の一つで、東日本では「京菜」という名称の方が有名だろう。昔の京都では「水菜」や「京菜」というと、いわゆる「水菜」ではなく、「壬生菜(みぶな)」をさしていることが多かった。大田南畝のいう「水菜」とはどちらのことか、それは定かでない。

 「水菜」の一品種が「壬生菜」で、いずれも冬に旬を迎える京野菜である。もともと東寺(南区)付近の壬生地域でつくられていた。

 「水菜」は葉が細長く、葉先が柊(ひいらぎ)のように細かいギザギザになっており、食べると、みずみずしいショリショリとした舌触りが特徴である。一方の「壬生菜」は、葉は細長いもののギザギザがなく、食感がぽってりと柔らかい。好みによって生食もよいし、おひたしや漬け物にもよく合う。噛むと淡いえぐみがあって、これが肉や魚の臭みを消してくれるので、ハリハリ鍋などの冬の鍋料理には欠かせない存在だ。

 また、「水菜」も「壬生菜」も、京都の人にとっては正月に欠かせない野菜の一つである。正月の三箇日に白味噌雑煮を食べたあと、4日に焼き餅と水菜だけでつくる「すまし雑煮」を食べる人が多い。京都の古い家庭では、4日に鏡開きをする所もあるので、飾っておいた「お鏡さん」を下げ、「すまし雑煮」で祝うことを習わしにしている地域もある。

 

   

京都の暮らしことば / 池仁太   


池仁太(いけ・じんた)
土曜日「京都の暮らしことば」担当。1967年福島県生まれ。ファッション誌編集者、新聞記者を経てフリーに。雑誌『サライ』『エスクァイア』などに執筆。現在は京都在住。民俗的な暮らしや継承技術の取材に力を入れている。
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