ボブ・ディランが『風に吹かれて』を発表し、ピーター・ポール&マリーが歌ったカバーが大ヒットしたのは1963年。ディラン22歳、私が18歳の時だった。

 どれだけミサイルが飛んだら戦争が終わるのか、いつまでニュースを見れば平和が来るのか、その答えは風が知っているだけさ……。

 アメリカでは公民権運動賛歌として受け入れられ、日本をはじめ多くの国では反戦ソングとして多くの若者が共感し歌った。

 その1年前に雑誌『シング・アウト!』でディランはこんなことを語ったという。

 「世の中で一番の悪党は、間違っているものを見て、それが間違っていると頭でわかっていても、目を背けるやつだ。俺は21歳だが、そういう大人が大勢いすぎることがわかっちまった」(Wikipediaより)

 私は彼の歌の中では『ライク・ア・ローリング・ストーン』が好きだ。満ち足りた暮らしをしていた人たちが、転がり落ち転落していく。どんな感じだい? 一人で生きるって。帰る家もなく、誰にも相手にされずにいるってどんな感じだい、と歌うディランには凄みさえ感じさせられる。

 そのディランがノーベル文学賞を受賞したことが大きな波紋を呼んでいる。

 世界の文壇に衝撃が走ったそうだ。

 「フランスの小説家、ピエール・アスリーヌ(Pierre Assouline)氏はAFPに対し、『ディラン氏の名はここ数年頻繁に取り沙汰されてはいたが、私たちは冗談だと思っていた』と語り、選考委員会に対する憤りをあらわにした。
 『今回の決定は、作家を侮辱するようなものだ。私もディランは好きだ。だが(文学)作品はどこにある? スウェーデン・アカデミー(Swedish Academy)は自分たちに恥をかかせたと思う』」(10月14日のAFP時事より)

 これに対し、ノーベル賞候補の一人と目されていたインド生まれの英国人作家サルマン・ラシュディ氏は寛大な姿勢を見せているそうである。

 「同氏はツイッターで『素晴らしい選択』と評し、『(ギリシャ神話の吟遊詩人)オルペウス(Orpheus)から(パキスタンの詩人)ファイズ(Faiz)まで、歌と詩は密接な関わりを持ってきた』と、選考委員会の声明と同様の見解を示し、『ディラン氏は吟遊詩人の伝統の優れた伝承者だ』とたたえた」(同)

 だが、一番当惑しているのは本人かもしれない。『週刊文春』(10/27号)によれば、10月14日にカリフォルニア州で行なわれた音楽フェスのリハーサルで、『ローリング・ストーンズ』のミック・ジャガーとキース・リチャーズに「おめでとう」と声をかけられたディランは、こう言ったそうだ。

 「ありがとう。でも僕には彼ら(選考委員会)が何を考えているのかさっぱりわからないよ」

 彼は「変人」と言われる。人ぎらい、インタビューぎらい、コンサート以外は自分を晒さない。

 だが、2004年に自らの手で自伝を書いたとき、『ニューズウィーク』のインタビューに答えている。『ニューズウィーク日本版』(10/25号)から引用してみよう。

 「60年代後半から70年代前半には神格化され、ストーカーに近いファンも出現した。『あんなことをされれば、誰でもおかしくなる』と、ディランは自伝に書いている」

 名声は人生だけでなく、作品もゆがめたという。

 「私は名声をうまく利用しようと思った。名声はカネにはなったが、独り歩きを始めた。名声の中身は空っぽだった。私の音楽は指の間からこぼれ落ち、いつしか消え去った」

 子どもの頃はこうだったとディランは話している。

 「都会がどんな所か、想像もできなかった。私の人生は、子供時代の環境の影響を大きく受けているはずだ。育った土地は荒涼としていた。寒かった。空想に浸るしかなかった。今の私と昔の私の違いはそこだ。昔は頭の中にイメージがくっきりと浮かんだ。今は夢を見るだけだ」

 今はどうなのだろう?

 「『昔の私は、世界と人間のあらゆる真実を歌で表現しようとしていた』と、ディランは言った。『しかし時が来れば、そんなことはできっこないと分かるものだ』」

 同誌でプリンストン大学のショーン・ウィレンツ教授は、ディランの受賞についてこう語っている。

 「同時代の偉大な文学者をたたえただけのこと。同じ栄誉に浴したほかの文学者たちと区別する必要はない」「詩は大昔からある文学の形式だ。ディランはそれをまったく新しい水準に、西洋文化が生み出した文学の最も高い水準にまで高めた。それ以上の説明は要らない」

 『週刊新潮』(10/27号)によると、これまでにノーベル賞を受け取ることを辞退したのはサルトルを含めて4人だという。

 しかし、今のところディランからの連絡はないという。コンサートは続けているのに沈黙を守ったままでいることに対して、非難の声も上がってきている。

 「同賞の選考委員会であるスウェーデン・アカデミー(Swedish Academy)の一員が21日、ディラン氏は傲慢(ごうまん)だと非難した。(中略)
 同国のテレビ局SVTによると、アカデミーの委員を務めるスウェーデン人の著名作家ペル・ワストベルイ(Per Wastberg)氏はこうしたディラン氏の態度について『無礼で傲慢だ』と述べた」(10月22日のAFP時事より)

 ノーベル賞受賞者は例年12月10日にストックホルムで行なわれる授賞式に招待され、カール16世グスタフ国王からメダルと賞状を授与され、晩さん会でスピーチを行なうことになっている。

 授賞式にディランが出席するかどうかわからないが、ディランらしくていいのではないか。ピュリツァー賞も受けているから、賞が嫌いではないようだ。

 それより60年代、ベトナム反戦、安保反対、学園紛争の中で歌われたディランの歌を、いまこそ歌うべきではないか。

 あの当時より戦争に巻き込まれる危険はより強くなっている。戦争ができる普通の国にした安倍首相官邸を取り囲み、みんなで『風に吹かれて』を歌おうではないか。

元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 AI、人工知能が次々に人間の叡智を打ち砕いている。ゲームの世界ではチェス、将棋、そして最も難しいといわれる囲碁までも破ってしまった。
 そのうち、100メートルを1秒で駆け抜けるロボットができ、イルカより速く泳ぎ、ホームランを300本打つ打者が出てくるのは時間の問題だろう。
 しかし、そうなるとゲームやスポーツが本来もっていた楽しさが失われてしまうことになる。自分で考えるよりAIに助けてもらおう。そう考える不届き者が将棋の世界に出てきたのも、この流れの中にあるのだろう。

第1位 「将棋『スマホ不正』全真相」(『週刊文春』10/27号)/「三浦弘行九段と93%一致した問題ソフト」(『週刊新潮』10/27号)
第2位 「高畑裕太『レイプ事件』被害者女性が涙の告白『なぜ示談をしたのか、真相をすべて話します』」(『週刊現代』11/5号)
第3位 「政治記者100人が答える『安倍の次の総理は誰なのか』」(『週刊現代』11/5号)

 第3位。『現代』が100人の政治記者に「次の総理は誰か」という質問をしたという、実に下らない特集をやっている。
 安倍の次なんているわけがない。それは安倍という首相の為政がいいからではない。安倍首相がいなくなっても、第2、第3の安倍首相が出てくるだけだからである。
 無個性で頭の弱いくせに独断専行を屁とも思わない。そんな壊れきった政治に国民は飽き飽きしているのだが、政治記者などはそれにさえ気がつかないのである。
 そんな連中に聞くことなどない。安倍が2020年まで総理を続けるか? という問いに、続けると思うが80.3%もいるのだ。
 勝手に党則を変え、何にも成果の上がらない安倍をなぜ続けさせるのか? そうした根本的な疑問が、この連中には何もないのだ。
 安倍の次は? 岸田文雄外務大臣31票、石破茂氏21票、小池百合子都知事が11票だと。お前たちは多くの政治家と付き合っているのだから、もっとましな政治家を探し出し、場合によってはそやつを教育して、宰相に育て上げるということを考えたことはないのか?
 衆院の解散はいつか? 年明け早々というのが51.9%。大義名分のない総選挙をやって、税金を500億円以上無駄遣いすることに反対すべきだと思うが、安倍のポチを任じるこの記者たちは、そうした基本的な常識さえも備わっていはしないのであろう。
 いまやるべきは、いつまでも安倍政権を続けさせるのではなく、どうしたら安倍の税金バラマキ、原発再稼働をストップさせ、もう少しましな人間を据えるかということである。
 こんなつまらないことに誌面を使うな。私は怒っている。

 第2位。『現代』は先週に続いて、高畑裕太にレイプされた被害者女性の「涙の告白」第2弾をやっている。
 彼女は「示談」に応じたから、「カネ目当ての美人局(つつもたせ)」という疑惑までかけられてしまったが、それへの疑問に答えている。
 まず事件後、彼女は迷った末ホテル近くに住む知人男性に相談する。
 彼は、それは明らかなレイプ事件だから我慢することはないと言い、被害届を出すようにと、警察に通報してくれたそうだ。
 これまでの報道と違うのは、その男性の指示で病院へ行ったのではなく、警察が来てから、警察の指示に従ったからだそうである。

 「病院では、膣内に残っている精液を採取された後、用意されていたアフターピルを服用しました。病院を出たのは、午前8時か9時頃だったと思います。その後、知人と一緒に前橋署に向かい、再び事情を聞かれました」(被害女性)

 しかし、事情聴取された際、担当の女性検事から、
 「なぜ大きな声を出さなかったのか」「なぜ壁を叩かなかったのか」などと質問を浴びせられ、だんだん、自分に非があるのではないかと思い、検察は自分を守ってくれるところではないと思ってしまったそうだ。
 裁判になれば、加害者の弁護士から根掘り葉掘り聞かれ、また恥ずかしい思いをすることになる。
 また、前橋署の会議室で、加害者が所属していた芸能プロダクションの社長らが、「示談にしてほしい」と言ってきて、双方の弁護士同士で交渉が始まったことも、彼女に加害者を裁判に追い込む気持ちを萎えさせたようだ。
 彼女の知人は示談交渉には立ち会ったことはないそうだ。
 彼女はこう話す。

 「仮に裁判において、抵抗が弱かった、叫んで助けを求めなかったなどという理由で加害者が無罪になってしまうのであれば、被害者は泣き寝入りするほかありません

 『フライデー』(11/14号)によると、高畑裕太にレイプされた被害女性が『現代』のインタビューに答え、裕太側の言い分に猛反論したことから、事態は一変したという。

 「淳子さんも裕太の元所属事務所の社長も、週刊現代の記事についてはなにも反論しないということで合意しているようです。主張したいことはヤマほどあるようですが、『自分たちがなにを言っても世間の目は変わらない』と思い、諦めているようです」(裕太の知人)

 『フライデー』によれば、12月上旬まで母親の高畑淳子は主演舞台『雪まろげ』の地方巡業に入るそうだ。

 「一家の大黒柱は高畑であり、大きな収入源だったCMやバラエティ番組への出演が絶望的になったいま、彼女は舞台に立ち続けるしかない」

 『フライデー』は何度も彼女に質問をぶつけたそうだが、高畑は顔を伏せたまま、ヨロヨロと自宅へ入っていったそうだ。

 第1位。将棋界は、対局中に離席してスマホで将棋ソフトを見て指したのではないかという疑惑で大揺れだと、『新潮』と『文春』が報じている。
 『文春』によると発端は、7月26日に行なわれた竜王戦の挑戦者を決めるトーナメントの準決勝、久保利明九段と三浦弘行九段戦だった。
 三浦九段の快勝だったが、「証拠は何もないんです。でも指していて(カンニングを)“やられたな”という感覚がありました」(久保九段)
 久保氏はソフトに精通している知人に依頼して、三浦九段の差し手とソフトの手との一致率、離席後にどんな手を指したかを検証したという。
 その後、10月3日にA級順位戦があり、渡辺明竜王と三浦九段が戦ったが、渡辺竜王の完敗だった。
 だが、この対局はインターネット中継されていて、一部の棋士たちがリアルタイムで将棋ソフトを使って検証していたそうだ。
 負けた渡辺竜王もソフトを使って三浦九段の対局を調べ尽くし、「これは間違いなく“クロ”だ」と確信したという。
 渡辺竜王は1週間後に三浦九段と竜王戦を戦わなければいけない。悩んだ渡辺氏は、日本将棋連盟理事の島朗(あきら)九段に電話をかけ、7人の棋士たちの極秘会談が開かれる。
 その後、島理事が三浦氏に連絡して不正の事実を問いただしたが、本人は認めなかった。
 『文春』によると連盟側は、三枚堂達也四段が、三浦氏からスマホでパソコンを遠隔操作する方法を教えてほしいと依頼されていたという情報を入手していた。
 10月12日、日本将棋連盟は緊急記者会見を開き、竜王戦の挑戦者の変更を発表した。三浦九段は年内の出場停止処分。
 この記事を読んで、なにかしら違和感を感じる。私は将棋はほとんどできないが、父親が素人四段で、子どもの頃から将棋を教え込まれた。だが、超短気な父は、ちょっとでも指し手を間違えると怒鳴り、時にはひっぱたかれた。
 そうしたことに腹を立てた私は、中学に入った頃に将棋をやめてしまった。だが、初期の将棋ソフトが出た頃、買ってきてPCで遊んだことがある。私は少しレベルを上げると勝てなかったが、ボケかかった父親にやらせると、かなりのレベルまでソフトに勝つことができた。
 ディープラーニング(音声の認識、画像の特定や予測など人間が行なうようなタスクを実行できるようにコンピューターに学習させる手法)ができたおかげでAI(人工知能)は急速に進歩し、チェスを負かし将棋を破り、まだ先だと思われていた囲碁までも凌駕するようになってしまった。
 かつて米長邦雄永世棋聖(故人)は「兄貴はバカだから東大へ行った」と豪語していた。
 その米長氏も将棋ソフトには敵わなかった。そうなると、人間の棋士同士が戦う王将戦などは一番強い棋士を決めることにはならない。そこで勝った者が将棋ソフトと戦う「世界一決定戦」をやらなければいけないのではないか。
 将棋というと思い浮かべるのは阪田三吉や升田幸三のような棋士たちだが、もはやこうしたゲームの世界では、AIに勝てるのはいなくなってしまうのだろう。
 今回の“事件”は、棋士がソフトに勝てないことを、棋士自らが証明して見せた。これからは、対局に将棋ソフトの持ち込みを認め、自分の技とソフトを駆使できた者が勝つというルールに変えることも検討すべきではないか。
 そうなると、将棋とはいったい何なのだろう。誰かこの問いに答えてくれる棋士はいないかね。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
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