大昔、レコード大賞は歌手にとってもレコード会社にとっても「特別な賞」だった。たしか当時は紅白歌合戦と同じ大晦日にやっていて、レコ大が終わると(たしか帝国劇場ではなかったか)、紅白の会場であるNHKホールへ息せき切って人気歌手たちが駆けつけてきたものだ。

 グランプリ受賞者は終わり近くになるため、NHK側も対象の歌手を絞り込み、順番を遅くしたり、場合によってはトリか大トリにしていた。

 一年の締めくくりに二つの大舞台で歌うのが歌手の夢だった。

 私は、芸能記者ではなかったが、往時、レコ大の審査員で絶大な力をもっていた音楽評論家A氏と昵懇だった。

 11月から12月に入ると、彼のもとへレコード会社やプロダクションの連中が日参してきて、うちの誰それをよろしくお願いしますと、頭を下げた。

 何度か、彼が票読みをしているところに居合わせたことがある。あの歌手にとらせるにはあと2票足りない。するとそこから電話をかけ、プロダクション側に、アイツとアイツに持っていけと指示を出していた。

 持っていくというのは現ナマのことである。私が知る限り、彼が推す歌手はほとんど大賞をとったと記憶している。

 大賞に1億、新人賞にも1億と噂されていた。だが、紅白が時間枠を広げ、大賞受賞者が出演を辞退することなどがあって30日にしたが、往時のような視聴率はなく、カネで賞を買う“慣習”もなくなったのではないかと思っていた。

 だが、『週刊文春』(11/3号、以下『文春』)は、昨年末のレコ大でグランプリをとったEXILEの弟分「三代目J Soul Brothers from EXILE TRIBE」(以下、三代目)が歌った『Unfair World』は、1億円で芸能界のドンから賞を買っていたと報じている。

 動かぬ証拠である「株式会社バーニングプロダクション」から、EXILEのリーダーHIRO(47)が代表取締役を務める「株式会社LDH」に対して「1億円」を請求したブツ(請求書)を入手したというのだ。

 バーニングの周防郁雄(すほう・いくお)氏(75)といえば、傘下に20社以上を抱える業界最大手の芸能事務所である。レコ大や紅白歌合戦のキャスティングに絶大な発言権を持つといわれている。

 昨年、審査員の間でさえ、この曲は全然ヒットしていないのにいいのかという疑問の声が上がっていたという。

 審査員にはスポーツ紙の記者や一般紙の記者もいるが、バーニングとつながっていれば、有名ミュージシャンのインタビューの段取りをしてくれたり、何かと面倒を見てくれるので、ドンから「お願いします」と言われたら断れないそうだ。

 『文春』によれば、昨年はAKB48の『僕たちは戦わない』が圧倒的で、売上も約180万枚、『Unfair World』は約20万枚と差は歴然としていた。

 さらに、優秀作品賞は15人の委員による挙手で決まるが、周防氏の意向が行き届いていなかった段階ではAKB48に13票あったという。

 それが最終審査では、15人中11人が三代目に手を上げるという大逆転が起きたのである。歌のタイトル通りアンフェアなことが起きたようだ。

 『文春』の告発に当の「株式会社LDH」のHIROは、今年限りで社長を退任するという声明を出して応えた。『文春』が「疑義を同社に質してから、わずか二日後の発表だった」と言っている。

 1959年にレコ大を立ち上げた元TBS社員の砂田実氏は、「レコ大が私欲の為に消費されているとしたら、それは間違いだったということになる。TBSも一体何をやっているのか。情けない話です」と憤っている。しかし砂田氏は知らないのかもしれないが、レコ大は設立当時から「私欲のために消費され」続けてきたのである。

 変わったのは私腹を肥やすメンツが変わっただけである。

 『文春』の11/10号には「“レコード大賞のドン”が謝罪告白」とあるから、あの周防郁雄氏が事実を認めて謝ったのかと思ったら、ドンはドンでも日本作曲家協会会長でレコ大の最高責任者・叶弦大(かのう・げんだい)氏(78)だった。

 それも「このような事態になったことは大変遺憾で、主催者として大変申し訳なく思っています」と政治家のような答弁である。

 これでは、こうした事実があったことを認めたのではなく、そうした報道がなされたことで大騒ぎになったことを謝罪しているようなコメントとも読める。

 『文春』の追及に叶氏は、

 「ここ数年、裏金や審査委員の癒着を指摘する怪文書が協会に何通も届いていたし、私の耳にも噂は入っていた。しかし、これほど高額の金が動いていたとは知らず、大変驚いている」

 と、どこか他人事のようである。さらに、

 「TBS(レコ大の後援社=筆者注)からまだ連絡がなく協会も困っている。このような証拠が出た以上、放置しておくわけにはいかない。伝統あるレコード大賞が汚されてしまった。当事者には、どうしてくれるのかと言いたい」

 と、矛先をTBSに向け、自分は被害者面をするつもりのようだ。

 だが、叶氏も昨年のレコ大審査が始まる頃に、赤坂の料亭でエイベックスの幹部たちと会い、三代目にレコ大グランプリをとらせる相談を受けていたことを『文春』に暴露されているのだから、同じ穴の狢(むじな)と言われても致し方なかろう。

 『文春』によると、これまでのレコ大最大の危機は1989年だったという。グランプリが確実視されていた美空ひばりの『川の流れのように』をWinkの『淋しい熱帯魚』が逆転したが、本番当日の審査にTBS関係者が25票もの組織票を投じた疑惑が持ち上がり、レコ大中止の危機が取り沙汰されるようになってしまった。

 そこで事態を収拾し大きな発言権を持ったのがバーニングの周防氏だったという。

 しかし周防氏や彼と親しい大手事務所・エイベックスが力を持ちすぎたため、『文春』によれば、95年から昨年の三代目まで21回行なわれたレコ大の大賞は、「実に十四回の大賞をエイベックス系が独占してきた」そうである。

 今やレコ大は「エイベックス大賞」「バーニングの忘年会」と揶揄されるようになってしまったと、元レコ大関係者が話している。

 周防氏は『文春』報道に怒り心頭で、エイベックスとLDHに「必ず情報源を探せ」と厳命したそうだ。

 また、芸能界のドンの前にひれ伏すテレビ各局は、この問題をどこも扱わず沈黙したまま。TBSも『文春』の再三の事実確認に「お答えすることはありません」の一点張りだそうだ。

 以前大橋巨泉氏がやっていた番組に『こんなモノいらない!?』というのがあったが、レコ大はまさにいらないモノの代表であろう。少なくとも今年は、『文春』が突きつけた1億円の請求書の事実関係をTBSとレコ大側が徹底的に検証して公表し、音楽ファンの判断に委ねるべきである。

 それができなければレコ大は中止する。それぐらいのことをしなければ、視聴者から見捨てられるのは必至だろう。
 
元木昌彦が選ぶ週刊誌気になる記事ベスト3
 10月25日に神戸へ行って、内田樹(たつる)さんに会ってきた。場所は住吉駅から歩いて2、3分。閑静な住宅街の中である。
 外見からはわからないが、1階には堂々とした合気道道場「凱風館」があり、門弟は300人になるという。
 鍛え抜いた身体から発するオーラに圧倒されるが、話してみると書くもの同様、ニコニコと優しい人であった。
 内田さんの旺盛な研究心を支えているのは何かと聞くと、それは学問でも武道でも、自分の尊敬できる「師」を持ったことだと答えてくれた。
 自分はいつまでもその師の弟子であることを任じている。その師に少しでも近づこうと思っているから、いろいろなことに対して関心が衰えない。
 内田氏と別れてから、この歳だが、私も「師」を探し、その師の考えや思想を一生涯かけて突き詰めてみたいと思った。さて、誰にするか? それが問題だが。

第1位 「関ジャニ大倉と吉高由里子『バリ島2泊4日の婚前旅行』」(『フライデー』11/11号)
第2位 「『宮沢りえ』の私宅に泊まった年下『ジャニーズ』やんちゃ男」(『週刊新潮』11/3号)
第3位 「『マンション投資』と『アパート経営』大損する人続出中」(『週刊現代』11/12号)

 第3位。『現代』にマンション投資やアパート経営には気をつけろという記事が出ている。
 私も親から受け継いだ猫の額というよりも蚊の額といってもいい狭い土地があるが、だいぶ前からそこにマンションを建てませんか、アパート経営すれば老後は安心ですよという、不動産屋や銀行からの「お誘い」がくる。
 もちろんそこに住んでいるわけだから、そんな話には耳も貸さないが、世の中には、そうした「甘い話」に乗って損する人が多くいるようだ。
 都内に住む67歳の男性は、銀行にすすめられて不動産投資に手を出した。練馬区にある物件を銀行から6000万円の融資を受けてアパート経営を始めた。スタートこそ不動産屋が入居者を紹介してくれたが、近所に似たようなアパートが次々にでき、家賃を下げても入居者が出てしまい、今ではローンを払い続けられるかどうか、不安で仕方ないと話している。
 マイナス金利で困った銀行は、頭金がなくても不動産があれば簡単にカネを貸す。
 不動産業者は、入居者は世話する、空き家は出さないなどと甘言をもって誑(たぶら)かすが、それは最初のうちだけだ。
 家賃を保証しますと家主を安心させアパートを建てさせる業者は多いが、注意書きに「家賃は2年ごとに見直し」と書いてある。何のことはない、その後はどうぞご勝手にと、捨てられるのがオチだ。
 マンションやアパートは次々建てられるが、もはや飽和状態。不動産バブルはもう弾ける寸前だという認識を持ったほうがいいという「ご注意」記事だ。

 第2位。『新潮』は、ジャニーズのやんちゃ男、「V6」の森田剛(ごう)(37)が、宮沢りえ(43)の「私宅に泊まった」と報じている。
 2人は今年8月に行なわれた舞台『ビニールの城』で共演し、仲が深まっていったと『新潮』は言っている。
 10月22日深夜、渋谷の代官山にある蔦屋書店に現れた2人は、カフェで話し込んだり、店内をブラブラしたりしてから、歩いて15分ほどにあるりえが7歳の娘と暮らす私宅に入って行ったという。
 翌朝11時少し前にりえの家を出てくる森田の姿を、『新潮』は撮り、グラビアに掲載している。
 恋多き青春時代を過ごし、結婚したが離婚した女と、上戸彩を含めて多くの女と浮き名を流してきたやんちゃな男。
 意外にいい組み合わせかもしれないが、りえと一夜を過ごせるなんて……ヨダレが出てくる。

 第1位。今週の1位は『フライデー』の記事。関ジャニの大倉と吉高由里子が、ジャニーズ事務所の猛反対を押し切り「バリ島2泊4日の婚前旅行」したと伝えている。
 成田空港に降り立った大倉と吉高。二人はほぼペアルックだった。まさに「二人だけの世界」だった。

 「10月22日朝、成田空港の動く歩道の上で吉高由里子(28)と『関ジャニ∞』の大倉忠義(31)が、寄り添いながらスマホの画面を覗き込んでいた」

 実は二人が日本を発ったのは、10月19日のこと。行き先はバリ島。これは、2泊4日の「婚前旅行」の帰りだったのである。

 「フライデーに撮られた後、大倉は『お友だちです』と交際を否定しました。『別れさせられた』という情報も飛び交った。関ジャニはジャニーズ事務所の藤島ジュリー景子副社長の覚えがめでたい人気グループ。ましてや、大倉は焼き鳥チェーン『鳥貴族』の御曹司ですから、求められるハードルは高い」(芸能プロ幹部)

 一方の吉高も「事務所側から何か言われたのか、『ジャニーズは嫌い!』と怒っていたことがあった』(知人)という」(『フライデー』)。
 SMAP解散騒動以降、確実にジャニーズ事務所のタガは緩んできているようだ。まあ、好きな者同士を力尽くで引き離せば、愛はより深く強くなるのは世の習い。好きにさせたほうがいい。
   

   

読んだ気になる!週刊誌 / 元木昌彦   


元木昌彦(もとき・まさひこ)
金曜日「読んだ気になる!週刊誌」担当。1945年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、講談社に入社。『FRIDAY』『週刊現代』の編集長をつとめる。「サイゾー」「J-CASTニュース」「週刊金曜日」で連載記事を執筆、また上智大学、法政大学、大正大学、明治学院大学などで「編集学」の講師もつとめている。2013年6月、「eBook Japan」で元木昌彦責任編集『e-ノンフィクション文庫』を創刊。著書に『週刊誌は死なず』(朝日新書)など。
ジャパンナレッジとは

ジャパンナレッジは約1700冊以上(総額750万円)の膨大な辞書・事典などが使い放題のインターネット辞書・事典サイト。
日本国内のみならず、海外の有名大学から図書館まで、多くの機関で利用されています。

ジャパンナレッジ Personal についてもっと詳しく見る