「旬ワードウォッチ」では、すでにインスタントカメラ「写ルンです」の再ブームについて伝えているが、さながら続報のような記事となる。いま、音楽にうるさい若者たちのあいだで、カセットテープが「きている」というのだ。音楽をデータとして聴く時代、カセットテープに新鮮みを抱く層が生まれたことは、じつに興味深い現象だ。

 いま東京都内では、カセットテープを取り扱う店舗が少しずつ増えている。これは日本だけの現象ではない。すでにブームが認識されているレコードと同様に、世界中の若者がアナログの魅力に気づき始めたようである。ノイズを含めた音の感触は、「きれいな音」が全盛の時代、「味わいのある音」と受け取られている。それはオーディオマニアでなくとも誰もが理解できる違いだろう。

 見た目も大事だ。レコード人気の場合は「ジャケ写」の吸引力がよく語られる。カセットテープの場合、CDなどのようなディスクとは明らかに異なる、そのフォルム自体が強みだ。カセットプレーヤー自体も全盛期のものよりデザイン的に洗練されており、その二つが合体して、音楽として完成するガジェット感が評価されているようだ。「曲を簡単に飛ばせない」不便さも、ある意味ライブ的であり、「そこがいい」として理解されつつある。

 それにしても、最近はアナログの復権がめざましい。次に「くる」アイテムは、2016年に生産を終えてしまったVHSのビデオあたりではないだろうか。それもない話ではない、と思える昨今の流れである。
   

   

旬wordウォッチ / 結城靖高   


結城靖高(ゆうき・やすたか)
火曜・木曜「旬Wordウォッチ」担当。STUDIO BEANS代表。出版社勤務を経て独立。新語・流行語の紹介からトリビアネタまで幅広い執筆活動を行う。雑誌・書籍の編集もフィールドの一つ。クイズ・パズルプランナーとしては、様々なプロジェクトに企画段階から参加。テレビ番組やソーシャルゲームにも作品を提供している。『書けそうで書けない小学校の漢字』(永岡書店)など著書・編著多数。
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